作品名を検索→海賊サイトが上位表示される問題 「漫画村」は4月に姿消す アニメと映画は今なお深刻
検索エンジンにおける海賊版サイトの問題。SEO専門家の辻正浩さんに現状と対策を取材しました。
政府が早急なブロッキング対策を掲げるなど社会問題として注目を浴びた海賊版漫画サイト「漫画村」。現在サイトにはアクセスできず事実上の閉鎖状態となっていますが、これまで「漫画村」が利用者数を拡大してきた原因の1つに、作品名を検索したときに検索結果の上位に漫画村のページを表示してしまう“検索エンジンの問題”がありました。
例えば「Google」や「Yahoo!検索」で漫画のタイトルを打ち込むと、検索結果では1ページ目の3〜10番目あたりには漫画村のURLが出てきてしまっていました。一般的に検索エンジンというのは利用者の検索意図に沿ったページへ案内しようとします。漫画村を利用する人が増えすぎてしまった結果、正規サイトよりも漫画村を優先的に表示し、正規コンテンツに出会う機会を減らすと同時に漫画村への動線を生んでいたのです。
こうした「漫画村が検索上位に出てしまう」問題は3月まで続いていましたが、SEO(検索エンジン対策)の専門家である辻正浩氏(so.la代表取締役)によると、4月に入るとGoogleでは検索結果から漫画村が急激に消え始め、13日に政府が海賊版サイトへの対策を打ち出してから数日後には、まったく表示されなくなったといいます。
「漫画村問題」は検索エンジンの面ではどのような動きを見せていたのか。そして今後、海賊版サイトが上位に表示されないようにするにはどのような対策が考えられるのか。辻氏に取材しました。
漫画村が検索から急速に消えた
辻氏は普段から検索エンジンにおける海賊版サイトの問題を調べており、過去3年ほどテレビアニメのタイトルを1000作強、その原作となった漫画についても数百タイトルの検索結果を定期的に確認してきました。最近は『キングダム』『弱虫ペダル』など直近の人気漫画も多くチェックしているといいます。
3月まではタイトルを検索すると多くの場合、そのタイトルを違法にアップロードした漫画村のURLが検索結果の上位に表示されていたとのこと。
例えば3月1日にGoogleで『アイシールド21』と打ち込んだ場合、1位と2位にはWikipediaの作品解説ページ、3位には漫画村のURLが登場していました。その後にAmazon.co.jpのコミックス販売ページ、アニメ「アイシールド21」サイトが続くという、正規コンテンツよりも海賊版が先に出てくるという、権利者側にとっては非常に悩ましい結果です。
他の人気タイトルでも、『特攻の拓』は5位、『エア・ギア』は8位、『バキ』は9位、『RAVE』は9位、『スラムダンク』は10位に漫画村のページが出てきていました(いずれも3月1日時点)。
また、一部の検索エンジンではタイトルを検索しようとすると、サジェスト機能で「キングダム 無料」「スラムダンク 無料」というように「(作品名)+(無料で読めそうな語句)」を検索キーワードの候補として提案してくるケースが多く見られます。こうした検索だと漫画村のページはより上位に表示される結果に。3月1日時点だと、「キングダム 無料」「スラムダンク 無料」「進撃の巨人 無料」「弱虫ペダル 無料」「黒執事 無料」「テニスの王子様 無料」などで1位に漫画村が登場していました。
このあたりの漫画村の順位は普段から上下を繰り返して不安定ではあったのですが、「特に3月30日から大幅に下落を始めて、4月18日には多くの検索結果に現れなくなりました」と辻氏。表示されなくなった原因について次のように分析します。
「もともと海賊版サイトやリーチサイトなど著作権関連の違法・脱法サイトが検索結果に表示される問題については、検索エンジンも特殊な対応を行っています。Googleでも2016年に冊子『Googleの著作権侵害対策』の日本語版を公開し詳しく説明していました。その一環として、今回問題になる前から検索結果において漫画村に不利になっていた部分はあります」
「ただ、4月に漫画村の検索順位が急激に落ちたのは一般的な動きではありません。例えば漫画村のサイトそのものが削除されても、今回のように検索結果において急速に落ちることはないのです。これが以前から存在したアルゴリズムによる影響か、現状の問題への対応のために新しくアルゴリズムを調整されたのかを知る方法はありません。しかし漫画村のように著作権関連で明らかに大きな問題を持った違法・脱法サイトに対して、Googleも対応を進めていることは確かです」
この件についてねとらぼ編集部ではGoogleの広報部に対し、3月から4月にかけて漫画村に対して何か特別な措置を取ったか取材メールを送りましたが、「個別の検索結果についてコメントいたしません」と回答を控えました。
2018年1月頭にはすでに漫画村は多くのネットユーザーに認知されていたことから、漫画村へのアクセスは作品タイトルの検索ではなく「漫画村」と指名検索する形が一番多かったであろうと辻氏。
それでもタイトルだけでの検索結果から漫画村が消えたことについて、「違法・脱法サイトが検索されづらくなったことで、権利者から正式に許諾をとったサイトへのアクセスが増える結果になっており、素晴らしいことと考えます」と改善を評しました。
今もアニメと映画の海賊版サイトは検索上位に出てしまう
海賊版漫画サイトの中で圧倒的なシェアを持っていた漫画村が検索結果から消え始めたことで、「検索からの違法マンガへの動線はだいぶ縮小した」と辻氏。しかし一方、海賊版アニメや映画については依然として問題は変わっていないと訴えます。
「アニメ関連についてはリーチサイトが多く存在し、それぞれがいまも検索結果でしのぎを削っています。その量は非常に多く、どのリーチサイトが人気かを示すランキングサイトまであるほどです」
リーチサイトとは、第三者が海賊版をアップロードしたサイトのリンクを張って誘導するサイトです。海賊版をネット上に送信したのは別の何者かであり、リーチサイトの運営者はただリンクを張っているだけだから著作権を侵害してはいないと主張し、一方でアップロード先のサーバ運営者は海外にいて削除依頼に応じてくれないという、摘発と規制が難しい海賊版サイトの一形態として知られています。
現状、アニメリーチサイトの検索集客でもっとも多いと考えられるサイトAは、ドメインを変更しつつ運営を長く継続しており、今放送中の2018年4月期テレビアニメだと「ソードガイ」などはタイトルだけで1ページ目に表示されています。「無料」「第1話」「動画」などを加えると、「ピアノの森」「ゴールデンカムイ」「僕のヒーローアカデミア」「ゲゲゲの鬼太郎」など非常に多くの作品名で上位表示される結果に。
「これでリーチサイトへ到達して違法配信へアクセスしている人は少なくないはず。漫画村はサイトそのものが有名になっていたため『漫画村』と指名する検索が多かったでしょうが、それ以外の違法・脱法サイトについては『作品名』『作品名+無料』など一般的な検索による流入の比率が高かったかと考えられます。正確な比率はわかりませんが『広告を使っておらず』『指名検索数が少ない』サイトであれば、8〜9割は検索経由ではないかと」
いまだに海賊版アニメや映画が検索結果で上位に出てしまう原因は何なのか。これは検索エンジンの役割が抱えたジレンマだと辻氏は説明します。
「ユーザーの検索意図を把握して、それにぴったり合うページへ案内しようとするのが検索エンジンです。検索意図の把握というのは非常に難しいことですが、それはどんどん進化し続けています」
「マンガ名やアニメ名で検索する人は、その作品が知りたい・読みたい・見たいという意図を持っている場合が多く、もし可能であれば低コストにしたいと思わない人はいないはず。違法・脱法サイトは、多くのユーザーの意図にぴったりマッチした情報を提供していることは確かではないでしょうか。ユーザーの意図に合う情報を上位表示させようとする検索エンジンとしてはどうしてもそれを評価してしまう傾向があることは確かで、今後も表示され続けるでしょう」
「著作権対策の資料で何度も語っている通り、また、検索結果の順位に動きがあるように、Googleも違法・脱法サイトが表示されることを問題視してさまざまな対策を行っていることは確かです。ただ、コンテンツの法的な問題への独自判断を基本的に行わないこと、自由で開かれたWebを守ることを重視することを掲げており、独自で抜本的な対応は行いづらく、今後、違法・脱法サイトの検索結果での扱いが抜本的に変わることは無いだろうと考えます」
対策は「DMCA申請」「問題提起」「運営を断つ」
こうした検索結果における海賊サイト問題で考えられる対策は3つあるといいます。
1つはDMCA申請。DMCAとは2000年10月から米国で施行されているデジタルミレニアム著作権法(Digital Millennium Copyright Act)の略称で、デジタルコンテンツに関する著作権の基準として多くのネットサービスが運営規約に取り入れています。
「今現在も、今回のような著作権の問題に対してはDMCA申請による検索結果の削除は変わらず効果的です。一部、成功率は27%前後という話もありましたが、CODA(コンテンツ海外流通促進機構)では申請は基本的に承認される傾向と話している通り、申請形式や対象を誤らず違反コンテンツを申請しますとほぼ受け入れられます」
「私はDMCAを定期的にウォッチしていますが、現状、日本からの申請は漏れや誤った申請が多いと考えます。簡単とは言いませんが、CODAなどの団体ではなく個人でも十分に可能な手続きですので、権利者の方にはそれを正しく行うことをおすすめしたいです」
2つ目は、ソーシャルメディアでの問題提起やGoogleへのフィードバックを行うこと。
「漫画村に関してここ数カ月大きく話題になりましたが、検索エンジンが無策だったわけではありません。例えば昔はある人気漫画のタイトルを打ち込むとサジェストに『漫画村』を表示するケースが多かったのですが、2月までにはごくまれになりました。他の有名違法・脱法サイトも出づらくなりましたし、Googleでは『無料』という推奨もされにくくなっています」
「検索エンジン側もフィードバックや世の中の話題を見て、問題に随時対応しているところだと考えます。今後も問題についてはフィードバックやソーシャルメディアやブログ、記事で問題提起することは価値があるでしょう」
3つ目は、そもそも“検索”という動線の1つを断つのではなく、「もともとのサイトが成り立たないようにする」こと。
「検索で除外されたとしても、違法・脱法サイトに到達できる方法はいくらでもあります。検索エンジンで見つかりづらくすることは、拡散を緩める方法の1つであって、それだけで済むものではありません。サイト自体の運営を成り立たないようにすること、立法で脱法サイトを違法化したり対処できるようにすることができれば、当然ながら検索結果からも消えることになります」
(黒木貴啓)
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