子どものころに読んだ学習マンガのわくわく感 プロが描く同人誌『すごいぞ!!ハイイロゲンゴロウ』:司書メイドの同人誌レビューノート
夏休みの自由研究にも良さそう。
出会った人との第一声が「暑いですねぇ!」になってしまうほど、暑い日が続いていますね。耳をすませば、蝉の鳴く声があちこちから聞こえます。虫取り網を持って駆け出した子どものころを思い出すようです。今回は、この季節にぴったりの、そして実は作品そのものに込められた思いも熱いマンガ同人誌をご紹介します。
今回紹介する同人誌
『すごいぞ!!ハイイロゲンゴロウ』
B5 20ページ 表紙カラー・本文モノクロ
作者:安斉俊
子どものころの学習マンガのわくわく感がよみがえる。ゲンゴロウのひみつをさぐれ!
この物語は、虫取り網を持った少年の立ち姿から始まります。おじいちゃんから「昔 山ほどゲンゴロウを採った」と聞き、「絶対につかまえてやる!」と意気込んできたものの、彼は本の中でしかゲンゴロウを見たことがありません。そんな彼の目の前に現れた小さな虫が、ゲンゴロウの特徴を教えてくれて……。と、夏! これから何かはじまりそう! という雰囲気いっぱいです。
最初は見逃していた、小さな小さなチビゲンゴロウ(なんと成虫の大きさ2ミリ!)に目を向けるところからスタートし、まんまるフォルムのハイイロゲンゴロウさんが先に立って、ゲンゴロウの知られざる秘密をおしえてくれます。
この導入が、とってもスムーズ。元気よさそうな少年と、知識たっぷりの解説者という組み合わせは、子どものころ親しんだ学習マンガだと鉄板の組み合わせですし、キャラクターとしてデフォルメされたゲンゴロウと、解説として描かれる細密な虫の様子は描きわけられていて、“ここはポイントですよ”というのがしっかり分かります。この、「ははー、そうなのねー」と知る楽しみをひしひしと感じながら読む、学習マンガの味わいが懐かしくてにじみます……!
身近なのに不思議な生き物ハイイロゲンゴロウにスポットを当てる
水辺にいる生物としてはメジャーなゲンゴロウ。その中でもハイイロゲンゴロウは珍しい種類ではないのだとか。でも、その日常で出会いそうな虫の「そうだったの?」という意外な生態に光を当てています。過酷な環境に強いことや、日頃の活動から、その見た目の美しさや、水中だけでなく軽々と飛び立てることなど、ゲンゴロウにまつわるあれこれが、次々と繰り出されます。
作中のゲンゴロウの解説については、商業誌で『ゲンゴロウ・ガムシ・ミズスマシハンドブック』(文一総合出版)を出版されている、平澤桂さん、吉井重幸さんが監修に入られています。その安定感と、テンポのいいマンガのバランスがよくって、「そうなんだ!」という発見とともに心地よく楽しむことができます。
マンガを再び描きたいという気持ちがゲンゴロウを選んだ……!
ご本を読んでいると、少年の表情がくるくると変わるのはおろか、ハイイロゲンゴロウの表情まで喜怒哀楽しっかり描かれていて、とってもかわいいんです。そして、日常にとなりあわせの出来事が、いつの間にか「不思議だな、面白いな」と思えるストーリーのペース配分……とても自然にマンガを楽しめる力量がすごいです。それもそのはず、作者さんはかつてマンガ家を志し、いまはイラストレーターとして図鑑などの挿絵仕事や、学習マンガのお仕事をされることもあるのだそうです。
それでも今回、あえて同人誌で作品を発表されたのは、かつて少年マンガ雑誌で漫画家さんの道をめざしたころから10年以上がたったものの、「だいぶ時間は経ちましたが今一度漫画に向き合おう」と思われたからなのだとか。その思いを少しだけ書かれたあとがきを拝見しながら、プロという一本道だけではなく、自分で創作を続けるという道がある豊かさを思いました。何かを描きたい、創作したいという気持ちがあるとき、それを発表する手段や場があることで、作品の完成を目指すことができるなら、なんて楽しい後押しなんだろうと感じます。
その気持ちを胸に、作品の題材に選ばれたのが、身近にいて力強く生きるゲンゴロウだった、というのも、なんだかすてきな組み合わせのように思いました。
夏本番。生き物たちと何げなく接することも多い時期に、子どものころのわくわくの目線を、再び楽しめるようなご本でした。
サークル情報
サークル名:箱庭動物園
Twitter:@anzai_shun
Webサイト:http://hakozoo.blog94.fc2.com/
イベント参加予定:いきもにあ12月神戸(申し込み中)
今週のシャッツキステ
著者紹介
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