同人と商業の「決定的な違い」とは? ついに完結『クズの本懐』横槍メンゴが大事にする”コミュニケーション”(1/3 ページ)
「クズの本懐 デコール」の秘話も聞きました。
好きな人には、好きな人がいる。だから好きじゃない人と、付き合っているフリをする――ゆがんだ片思いと執着が入り乱れる横槍メンゴ先生の漫画『クズの本懐』の最終9巻が、2018年7月に発売されました。
理想の高校生カップルに見える安楽岡花火と粟屋麦。しかし2人はとある“約束”をしていました。この恋は、本当の思い人と結ばれるまでの“身代わり”の関係。「お互いを好きにならないこと」「どちらかの恋が成就したら関係を終えること」「お互いの身体的欲求はどんなときでも受け入れること」を条件に、ゆがんだ関係を結んでいたのです。
花火の思い人である鐘井鳴海、親友の絵鳩早苗、そして物語の“ラスボス”とも称された麦の思い人皆川茜も巻き込み、人間関係はねじれにねじれていきます。決してきれいではない、むしろ「クズ」な恋愛の果てに、何が待っていたのか――。
本作は2017年にアニメ化。本編とアニメは同時に完結し、大きな話題になりました。さらに2017年末から番外編「クズの本懐 decor(デコール)」が連載スタート。2018年7月に番外編を収録した最終9巻が発売され、ついにグランドフィナーレを迎えました。
ねとらぼでは、『クズの本懐』を生み出した横槍メンゴ先生にインタビュー。学生時代から同人活動をしていたメンゴ先生の創作論や「同人と商業の違い」、番外編「デコール」の裏話などなどを、メンゴ先生がキービジュアルを担当する「Project ANIMA」の宣伝プロデューサーで、メンゴ先生の大ファンである有田Pとともに聞きました。
同人と、商業と、コミュニケーションと
――メンゴ先生は、さまざまなバックボーンがある漫画家さんだという印象があります。学生時代からやっていた同人活動、デビューした成人向け漫画ジャンル、それから『クズの本懐』をはじめとする少年漫画ジャンル。そうしたいろいろなエッセンスが反映されて、独自の作風になっているように思います。
横槍メンゴ(以下、メンゴ): 私は二次創作に出会って「こんなに自由な書き方があるんだ!」と驚いたんです。延々とキャラの心情だけ掘ってもいいし、モノローグも続けていい。その二次創作的描き方にものすごく可能性を感じて、そこで漫画の描き方を学んだように思います。
だから初めて商業誌に原稿が載ったとき、「同人っぽい」と言われることもありました。同人的な漫画の描き方を商業に持ち込んではいけない――という考えがありますよね。商業の枠組みでは、いわゆる「商業的な漫画」を求めている人が少なくない。でも、二次創作の同人で感動した気持ちそのものは、一次創作(オリジナル)で感動した気持ちと引けを取りません。同人の良さを取り入れながら、商業の良さも損ないたくないと思ったんです。
――「商業的な漫画」とはどういうものなんでしょうか。
メンゴ: 「親切感」……でしょうか。商業は同人と違って、作品やキャラに対する“共通認識”がありません。だからまず分かってもらうための土台を作らなければいけない。ある程度の説明をきちんとして、最低限楽しめるラインを守りつつ、深掘りすることが必要かなと。“描きたいもの”じゃなくて、人が“読みたいもの”を描いて、読者とコミュニケーションするのが商業だと私は思ってます。「このお話を読者は読みたいのか?」というラインは意識していますね。もちろん、描きたいものをとことん描いて、読者を引っ張っていく神もいるのですが……。
――読者とコミュニケーション。
メンゴ: 例えば……SFだと分かりやすいかもしれませんね。特にハイファンタジーのSFは、いわば“設定厨”の才能がないとできないと思うんです。でも、それはストーリーの才能とは相反しがち。「自分の設定を語りたい」だけではなかなかヒットにつながらなくて、「自分の考えた設定を分かりやすく伝える」筋力も必要だと思うんです。
有田P(以下、有田): 設定もストーリーも、作りこめば作りこむほどいいものになります。でも、どこまで出すか、どうやって出すかが力量ですよね。うまい作家さんは「もったいない精神」がない印象があります。出し惜しみせず根っこのアイデアを作りこんだ上で、おいしいところだけを読者に差し出している。
メンゴ: もちろん例外はあって、強制的に強いマイワールドを見せてたくさんの人を引き付けることができる人もいるんですが(笑)。
有田: メンゴ先生の言っていることって、「サービス精神」だと思うんですよ……! 「Project ANIMA」で選考に関わっていても、いいものは“作者からこちらに差し出されている感じ”があるように思います。作者だけの目線ではなく、「いったん反対から見たらどうなるかな?」というステップを踏んでいる。自分以外の誰かの視点を考えているかどうかは、ちょっとした言葉の使い方ひとつでも明確に分かりますね。
――なるほど。そうした「読者との対話」の意識は、以前からありましたか?
メンゴ: 同人時代は、「漫画を描きたい」という気持ちは強かったですが、「たくさんの人に読んでもらうためにはどうすればいいか」は考えていなかったかもしれません。いわゆる「大手」になるような規模の活動はしたことがなかったし、自分でもならないだろうと思いながら描いていました。デザインや装丁にはほとんどこだわりがなくて、サイズも「軽くて読みやすいでしょ」と思って、個人誌とかはいつも表紙もモノクロのA5判でした。
サービス精神が生まれたのは、商業で描くようになってからですね。特に、「サービス精神で成り立っている」と言っても過言ではないエロ漫画の世界からキャリアが始まった影響は大きいです。
有田: メンゴ先生は、コミュニケーション能力が強いタイプの作家さんだと思っています。人のことをすごく考えていて、共感力が強いですよね。
メンゴ: 「好きなものだけ描いて売れたい」と思っている商業志望の方もいると思いますが、それができるのは相当の天才だけです! そういう好きなものを力づくで読ませてしまう天才型のクリエイターさんには、正直「カッコいい……」と憧れますし、嫉妬で狂いそうになります(笑)。でも、裏を返せば好きなものの幅を広げて、1つ1つ本気で好きになれば好きなものを描いていることになりますよね。その努力を惜しんではいけないと思っています。そして、天才型でない限りは、「自分のお店を見ていってください」という“営業”をしなければいけない。
その営業が「こういうものを読者は読みたいんじゃないか」「こういう風に描けば伝わるんじゃないか」というサービス精神であり、コミュニケーション。私は漫画を描いている瞬間はすごく入り込んで集中しているんですが、その瞬間は自分と読者とないまぜになった状況で描いているような気がします。
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