日本のマジック文化を変える――900人の手品愛好家が集合した「マジックマーケット」潜入レポ(3/3 ページ)
マジックマーケットを始めたひと
このように、日本のマジック文化を変えつつあるイベント、マジックマーケットは、熱気のうちに幕を閉じました。
イベントの主催者である、戸崎拓也さんにも話を聞きました。
――前回比で倍を超える入場者数でしたが、予測の範囲内でしたか?
「700人くらいを予想していたので、少しオーバーしました。前回の前売りが100枚で、当日が300人くらい、今回の前売りが250枚で当日が500人ですから、前売りの3倍くらいを入場者全体でみておけばいい、というめどがたちました」
――マジックマーケットは、何を目的として始まったイベントでしょうか。
「まずは『人を集めること』です。マジックのイベントで、世界で最も参加者が多いのがFISM(3年に1度行われる、マジックの競技会)です。それが3000人くらい。日本で行われるイベントでも、せいぜい500人か600人くらいです」
――中学校の全校生徒くらいですかね。
「アナログゲームの即売会であるゲームマーケットが1万人くらい集めてるので、マジックでもそれくらいは集められるんじゃないか、と思って、始めました。
もうひとつの目的は、これまでのマジックの評価では漏れていたひとを掘り起こすことでした。
これまでのマジックって、『上手い』か『賢い』が評価基準なんですよね。でも、最近のマジックって、マジックをするひと同士で、自己表現みたいにマジックをすることが多くなっています。そういうひとのマジックって、上手くも賢くもないけど、面白かったりします。ただ、従来の評価基準だと表に出てきません。
ですから、そういった、『面白い』ものを掘り起こしたくて、マジックマーケットを始めました」
――その目的は達成されましたか?
「僕は、日本のマジック人口って4万8000人(都道府県×1000人)だと思ってます。だから、1万人くらいのマジック愛好家を集めることも可能なはずです。それを思うと、まだ道半ばですね」
――出展者や参加者には、何を求めていますか?
「参加してるだけのひとには、ぜひ『出展してください』とお願いしたいです。個人で楽しんでいるものを、出展することによって可視化してください。そして、かたちになったものを目的に、さらに多くのひとが集まってきてくれたら」
――マジックマーケットは日本のマジック文化を変える可能性を持っていそうです。
「いまのマジック文化って、二極化してるように感じるんですよね。
ひとつは、『いつでも、どこでも、誰でもやってるようなマジック』。僕はこういうのをフランチャイズマジックって呼んでるんですが。営業でマジックをするひとが、だいたい最後に『宙に浮かぶテーブル』で演技を終えたりするようなルーティン。こういうマジックは、マジックをしないひと、マジックを見たことがないひとを対象にしています。
一方で、とにかく『自分らしさを追い求めたマジック』。こういうのは、同じくマジックをするひと同士でのみ、楽しまれています。
僕は、後者を掘り起こしていきたいと思っています」
――そういう、見たことのないマジックの中から、何か新しくて面白いもの、従来のマジックを革新するようなものが現れるかもしれませんね。そう考えると、マジックマーケットは、やはり日本のマジック文化の新しい中心といえるかもしれません。
「その日のために残りの364日を過ごす」ようなイベントに
趣味というのは、だいたい一人で始めますが、孤独のままに続けると、そのうち行き詰まるように思います。新しい情報がほしい、同じ趣味のひとと語ってみたい、そういう欲求が果たされないと、早晩、ひとはその趣味から離れてしまうのではないでしょうか。
マジックは、その特性から、同じ趣味をもつひとを見つけることが難しいものです。そのため、だいたいは2年か3年も続ければいいほうで、10年以上続けているひとというのはかなり希少でした。
しかし、インターネットが日常化したことに加えて、マジックマーケットの開催により、そのような状況は変わってきたように感じます。
わたしはかつて、大阪の岸和田というところで働いていたことがあるのですが、その地域のひとたちは、年に一度の「だんじり祭」のために、残りの364日を過ごすような気風があります。マジックマーケットも、そのようなイベントに育ちつつあります。
マジックマーケットは、マジックに興味があるひとはもちろん、「異常な人口密度のマジック愛好家をみる」という目的でも、楽しめると思います。会場内のフリースペースでは、お互いに名前も知らないひと同士で、その場限りのセッションが行われます。来年の開催日程は未定ですが、8月を予定しているようです。
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