送られてきた画像で「ない本」を作るTwitterアカウントがわくわくする ただの海水浴写真が壮大な本格SF小説に
道端に落ちた汚いフライパンの写真も、貧乏学生が成功していく料理小説……風の文庫カバーに変身。
ほのぼのと海水浴を楽しんでいる写真を送ったら、本格SF小説の表紙に変身してしまった……! リプライで送られてきた画像を使って「ない本」を創作してしまうTwitterアカウント(@nonebook)が「すげー!」「読んでみたい」とユーザーたちの心を躍らせています。
同アカウントは9月末から、Twitterで寄せられた画像を使って空想の文庫小説のカバーを制作しては、定期的にその写真を投稿しています。あるユーザーは、海にプカプカと浮かんでいる男性を2人の女性が眺めている写真を送付。わざとなのか偶然なのかカメラを傾けて撮影し、水平線が斜めに走っているのが印象深い画像です。
これを使って完成した“ない本”は、「傾いた惑星」というSF小説。表紙では男性と斜めの水平線のみがトリミングされ、その傾斜に沿って「傾いた惑星」「Tilted Planet」というタイトル文字が大きく掲げられています。さらに裏表紙には「ハードウェアエンジニア・鍬原耕記がある朝目覚めると、66.6度傾いていた。片付けもそこそこに外に出た鍬原が直面したのは……」とそれらしいあらすじが。「葛藤と決断を描いた日本SFの傑作。」って締め方、めっちゃよく見るやつだ。
カバーは他にもバーコードや価格、文庫のロゴ、背表紙にも分類コードが書かれるなど実に丁寧に作り込まれており、本当にそんなSF小説が実在するかのようです。もとは海水浴を斜めに撮っただけの写真なのに……。この制作過程をなぞったツイートは1日で1万回以上リツイートされるなど大評判となっています。
生まれた“ない本”はまだまだあります。道端に落ちた汚いフライパンの写真は、白黒でいい感じに加工されて「覇王の残飯」という料理小説に進化。「貧乏学生がゴミ捨て場で拾ったフライパンには、かつて近隣のホームレスを『食』によって束ねていた覇王の魂が宿っていた!」……あらすじがやはり本格的。
黒板に謎の生き物がへなへな描かれた写真は、「僕だけの耳長獣」という小説に。ある日教室の黒板で見つけた作者不明の怪獣の絵が、喫茶店の看板、すれ違った人のパーカの柄など至る所で目にするように。「日本一気配り上手な小学生・仙道幸路の人生に紛れ込む小さな違和感を切り取ったシリーズ第二弾」。推理モノ? いやサスペンスかな……とにかく適当に描かれたであろうあの絵から、こんなに風呂敷が広がるとは。作者の始島指針って誰だよ!
とにかく適当な画像から“ない本”を作ろうという発想と、表紙のデザイン、あらすじの作り込みが秀逸。そして一般人の何気ない写真が、本当に文庫小説としてありそうな体裁になってしまう変身ぶりが何とも楽しいアカウントです。
運営者は、「インターネットに胡乱で曖昧な読み物を増やそう」を目的に活動する読みものサイト「ひざかけちゃーはん」の主催・能登たわしさん。ない本のアカウントも、同サイトの企画の一つとして開設しました。
もともと雑誌に短編を載せるなどミステリー作家だったので話づくりには長けていたという能登さん。3カ月前に広告チラシなどのデザインの仕事に就き、まったくの未経験なので早急な練習が必要、だけど努力はしたくない……という理由から、「ない本」を始めることに。元となる画像を決めてから表紙あらすじ含む完成までは、現在2〜3時間くらいほどかかっているそうです。「仕事の練習の意味もあるので全部あわせて1時間半くらいまで短縮したいと思ってます」(能登さん)
反響については「単純にうれしいです。いい画像をたくさん送っていただいているので眺めているだけでも楽しいです」。今回の話題をきっかけに大量の画像が寄せられているためリクエストが採用されるのは難しいかもしれませんが、他の人の写真がそれらしいカバーに生まれ変わるのは、見ているだけでもわくわくしてきます。次はどんな“ない本”が誕生するのか心待ちにしたいところです。
画像提供:ない本さん(@nonebook)
(黒木貴啓)
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