「天才とはイっちゃってる人」「プロは思考を言語化しない」 『アオアシ』小林有吾×棋士・広瀬章人が語る、自分の世界を広げる方法(3/6 ページ)

» 2018年11月30日 12時00分 公開
[杉本吏ねとらぼ]
※本記事はアフィリエイトプログラムによる収益を得ています

言語化能力と感覚


――アオアシには、先ほど小林さんが言われていた「言語化能力」というのが一つのテーマとして出てきます。プレイ中に考えていた内容を、常に言葉にすることを監督やコーチから求められる。



小林:最初の担当編集さんの影響ですね。その人は、思っている全てのことを、曖昧なままにせずに言葉にする人だったんです。

 アオアシが、選手だけじゃなく指導者側のことも描く作品であるとすれば、僕は「こう教えたから急にチームが強くなった」というのは、いかに漫画の中だといってもちょっと違和感があって。

 やっぱり、なんで強くなったかっていうのを言葉として当てはめていかないと。そしてそれは実際、「当てはめられる」んですよね。だから、自分が(漫画家として)通ってきた道、教えてくれた人たちの影響があって、もし自分が教えるとしたらこういう風に言うだろう、ということを考えながら描いています。

――取材の中で実際の選手たちと触れ合って、気づいたことはありますか?

小林:取材した選手たち、みんなめちゃくちゃ考えてて、めちゃくちゃサッカーを愛してて。試合中も、「偶然あそこに立ってる選手はいないんだ」って思いながら見るようになりました。

 後からプレイを見ながら解説してもらうんですけど、エグいくらいみんな考えてるんですよ。あのスピードで。そんなこと考えながらできるんですか? って思って。頭脳戦をしながら曲芸をやってるような感じなので。ちなみに将棋って言語化とかは……?

広瀬:将棋でいうと、感想戦などで読み筋を披露するということなのかなと思いますが、難しいですよね。プロ同士だとあんまり細かく言わなくても、数手後のこの局面がどうなのかっていうのは分かっちゃうので、言語化する必要がないんですよ。

 もちろん新聞などの観戦記者の方のために言語化することはありますけど、むしろ(レベルが高くなる)プロのほうが言語化するというのは少ないと思いますね。

――アオアシでは、BチームからAチームに昇格したアシトが、凄まじいスピードでパス回しをする先輩たちを見て、「(言語化して)考えてなんかなくねえか?」と気づくシーンが出てきます。



広瀬:そうですね。プロ棋士は、Aチームの集まりってことなのかもしれないですね(笑)。

小林:だから、そこまでいくと必要なくなるんですよね。でも言語化するっていうのは、育成の段階では間違いなく必要なことだと思います。中には最初からずーっと感覚で行ける人もいるんですけど、それは一握りのすごい人。安定した実力を身に着けるためには、やっぱり言葉としてストックしていったほうが良いのかな、と。

 ちなみに漫画家だと、『ボールルームへようこそ』を描いている竹内友先生とか、『恋は雨上がりのように』の眉月じゅん先生なんかは、その“一握りのすごい人”で、完全に感性の人だと思ってます。広瀬さんは理論派と感覚派、どちらですか?

広瀬:昔は感覚派だったんですけど……いや、今でもそうですね。コテコテの理論派ではなく。でも、その感覚も棋士によって微妙に違うので、だから勝敗を分けるのはそういうところなんだと思いますね。感覚のちょっとした違い。

小林:『将棋の渡辺くん』(※)を読んだら、渡辺明さんは理論派と書かれていたんですけど、そうなんですか?

将棋の渡辺くん

広瀬八段とも親交の深い、プロ棋士の渡辺明棋王の日常を描いた漫画。作者は渡辺棋王の妻である伊奈めぐみさん。



広瀬:渡辺さんは典型的な理論派です!

小林:そうなんだ、理論派と感覚派。……それは話……合うんですか?

広瀬:(笑)。普段、棋士同士はあんまり将棋の話はしないんですよ。トッププロ同士では特に。「こないだのタイトル戦、こうだったねー」くらいはちらっと話したりしますけど。ある(盤面の)テーマ図を基に議論する、みたいなことは若手同士のほうがやってると思います。

――言語化と言えば、棋士の方って文章がお上手な方が多いですよね。

広瀬:戦術書とエッセイなんかではまた全然違うと思いますが、自分の考えを人に説明するのには慣れてる人が多いかもしれないですね。

――アオアシも、絵の迫力だけでなく、セリフ回しが素晴らしいと感じることが多々あります。

小林:自分の理想のネームは、絵が入ってなくても文字だけで面白いと思えるもの。そういう意味で自分の作品は、文章の比重が大きいのかもしれないです。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

昨日の総合アクセスTOP10
  1. /nl/articles/2412/22/news047.jpg 刺しゅう糸を20時間編んで、完成したのは…… ふんわり繊細な“芸術品”へ「ときめきやばい」「美しすぎる!」
  2. /nl/articles/2412/18/news207.jpg 「理解できない」 大谷翔平と真美子さんの“スキンシップ”に海外驚き 「文化は100%違う」「伝説だわ」【大谷翔平激動の2024年 現地では「プレー以外のふるまい」も話題に】
  3. /nl/articles/2412/21/news040.jpg 友達が描いた“すっぴんで麺啜ってる私の油絵"が1000万表示 普段とのギャップに「全力の悪意と全力の愛情を感じる」
  4. /nl/articles/2412/22/news034.jpg 後輩が入手した50円玉→よく見ると…… “衝撃価値”の不良品硬貨が1000万表示 「コインショップへ持っていけ!」
  5. /nl/articles/2412/21/news019.jpg 毛糸6色を使って、編んでいくと…… 初心者でも超簡単にできる“おしゃれアイテム”が「とっても可愛い」「どっぷりハマってしまいました」
  6. /nl/articles/2412/22/news036.jpg 「これは家宝級」 リサイクルショップで買った3000円家具→“まさかの企業”が作っていた「幻の品」で大仰天
  7. /nl/articles/2412/21/news023.jpg 「人のような寝方……」 “猫とは思えぬ姿”で和室に寝っ転がる姿が377万表示の人気 「見ろのヴィーナス」
  8. /nl/articles/2412/15/news031.jpg ザリガニが約3000匹いた池の水を、全部抜いてみたら…… 思わず腰が抜ける興味深い結果に「本当にすごい」「見ていて爽快」
  9. /nl/articles/2412/17/news042.jpg 山奥で数十年放置された“コケと泥だらけ”の水槽→丹念に掃除したら…… スッキリよみがえった姿に「いや〜凄い凄い」と210万再生
  10. /nl/articles/2412/22/news020.jpg 余りがちなクリアファイルをリメイクしたら…… 暮らしや旅先で必ず役に立つアイテムに大変身「目からウロコ」「使いやすそう!」
先週の総合アクセスTOP10
  1. ザリガニが約3000匹いた池の水を、全部抜いてみたら…… 思わず腰が抜ける興味深い結果に「本当にすごい」「見ていて爽快」
  2. ズカズカ家に入ってきたぼっちの子猫→妙になれなれしいので、風呂に入れてみると…… 思わず腰を抜かす事態に「たまらんw」「この子は賢い」
  3. フォークに“毛糸”を巻き付けていくと…… 冬にピッタリなアイテムが完成 「とってもかわいい!」と200万再生【海外】
  4. 鮮魚スーパーで特価品になっていたイセエビを連れ帰り、水槽に入れたら…… 想定外の結果と2日後の光景に「泣けます」「おもしろすぎ」
  5. 「申し訳なく思っております」 ミスド「個体差ディグダ」が空前の大ヒットも…… 運営が“謝罪”した理由
  6. 「タダでもいいレベル」 ハードオフで1100円で売られていた“まさかのジャンク品”→修理すると…… 執念の復活劇に「すごすぎる」
  7. 母親から届いた「もち」の仕送り方法が秀逸 まさかの梱包アイデアに「この発想は無かった」と称賛 投稿者にその後を聞いた
  8. ある日、猫一家が「あの〜」とわが家にやって来て…… 人生が大きく変わる衝撃の出会い→心あたたまる急展開に「声出た笑」「こりゃたまんない」
  9. 友人のため、職人が本気を出すと…… 廃材で作ったとは思えない“見事な完成品”に「本当に美しい」「言葉が出ません」【英】
  10. セレーナ・ゴメス、婚約発表 左手薬指に大きなダイヤの指輪 恋人との2ショットで「2人ともおめでとう!」「泣いている」
先月の総合アクセスTOP10
  1. 「何言ったんだ」 大谷翔平が妻から受けた“まさかの仕打ち”に「世界中で真美子さんだけ」「可愛すぎて草」
  2. 「絶句」 ユニクロ新作バッグに“色移り”の報告続出…… 運営が謝罪、即販売停止に 「とてもショック」
  3. 「飼いきれなくなったからタダで持ってきなよ」と言われ飼育放棄された超大型犬を保護→ 1年後の今は…… 飼い主に聞いた
  4. アレン様、バラエティー番組「相席食堂」制作サイドからのメールに苦言 「偉そうな口調で外して等と連絡してきて、」「二度とオファーしてこないで下さぃませ」
  5. 「明らかに……」 大谷翔平の妻・真美子さんの“手腕”を米メディアが称賛 「大谷は野球に専念すべき」
  6. 「やはり……」 MVP受賞の大谷翔平、会見中の“仕草”に心配の声も 「真美子さんの視線」「動かしてない」
  7. ドクダミを手で抜かず、ハサミで切ると…… 目からウロコの検証結果が435万再生「凄い事が起こった」「逆効果だったとは」
  8. 「母はパリコレモデルで妹は……」 “日本一のイケメン高校生”グランプリ獲得者の「家族がすごすぎる」と驚がくの声
  9. 「ごめん母さん。塩20キロ届く」LINEで謝罪 → お母さんからの返信が「最高」「まじで好きw」と話題に
  10. 「真美子さんさすが」 大谷翔平夫妻がバスケ挑戦→元選手妻の“華麗な腕前”が話題 「尊すぎて鼻血」