「赤ペンはむしろ見にくい」「プレゼン本の『良い例』は良くない例」 色弱者に聞く“本当に見やすいデザイン”とは?(3/3 ページ)
文部科学省が平成15(2003)年に、色弱の生徒に配慮した授業の進め方などを解説した資料(色覚に関する指導の資料)を策定しているのですが、この中では
- 暗い所では、細字の赤と黒の識別が難しいことがある
- 採点や添削に際しては、色鉛筆などの太字の朱色等
としています。
―― 意外と難しかったんですね、赤ペンの使い方
色弱者は日本に約300万人いるのですが、人数比としては一般色覚者の方が多く、色文化は基本的に「一般的な色覚を持つ人々の総意で決まったもの」だと考えています。
「それなら、さまざまな色覚を持つ人たちで話し合って、それぞれに配慮した色使いを考えてみよう」とCUDOが制作に関わったのが、「カラーユニバーサルデザイン推奨配色セット」です。
ここに採用されている赤色は「赤ペンの赤色」と違って、朱色に近いものです。各人の見え方、他の色との兼ね合い、光の当たり具合による見え方の変化などを考慮して調整していった結果、こうなったんですね。先ほど申し上げた“黒赤問題”の大半は、この色で解決できるんじゃないでしょうか。
―― この他に“良くない色使いの例”はありますか?
プレゼン資料の作り方を解説した本を見ると、「良い例」とされているやり方が色を使い過ぎていて、良くないことがあります。Appleのプレゼンって、かなりシンプルじゃないですか。あんな風に色は最小限に抑えて、大事なところだけ使うようにした方がいいと思うんですけどね。
一昔前は、色弱者などに配慮しておらず、見にくいデザインがかなり多かった覚えがあります。しかし、今は業界単位で対応を進めているところもありますし、主要なメーカー、印刷会社などは、だいたいカラーユニバーサルデザインを知っているのではないでしょうか。
このあいだ、「このままでは、色弱者が色弱であることに気付く機会が失われてしまうかもしれない」なんて冗談を聞きましたよ。それだけ、より多くの人にとって使いやすいデザインが広まってきている、ということでしょう。
白、黄色のチョークばかりが使われるようになった理由
―― 先日、ネット上で「ダストレスeyeチョーク」(日本理化学工業)が話題になりました。「カラーユニバーサルデザイン認証」を得た製品で、色弱者などでも識別しやすいというものですね
先に紹介した「色覚に関する指導の資料」では、チョークは「白色、黄色を主体に使う」としています。赤や緑、茶色などのチョークは色が暗くて、見にくいためです。
それで、あるメーカーが蛍光色のチョークを出したことがあります。確かに色は明るくなったのですが、全体的に白っぽくなってしまって「何色を使っても、白いチョークとあまり変わらない」という状態でした。
―― あちらが立てば、こちらが立たずですね
「ダストレスeyeチョーク」の開発にはわれわれも協力していて、色弱などがあっても各色の区別がつきやすいように配慮しました。発売自体は2004年ですが、最近、製品改良が行われまして。ネット上で話題を集めたのは、その新バージョンにあたります。
※平成30(2018)年、衆議院で「色覚に関する指導の資料」に関し、質問主意書が提出されている。同資料の“チョークの色制限”を撤廃し、「色覚チョーク」の使用を推奨してはどうか、という内容。
他に関わったところだと、気象庁の気象情報があります。降水量や災害の危険度などを表すのに、グラデーションのような表現が使われますよね。
以前は「色弱者などにも見やすいグラデーションは不可能」という声もあったのですが、「本当に無理なのか?」とチャレンジしてみると案外できるものです。
色弱者などにも見やすいデザインを自分で作るには?
―― ポスター、資料などを色弱者などに配慮したデザインで作りたいときは、どうすればよいでしょうか?
CUDOのWebサイト上では、カラーユニバーサルデザインに活用できる資料をいくつか公開しています。気を付けるべきポイント、チェックリストなどについて書いてあるのは「CUDガイドブック」。言ってみれば、「カラーユニバーサルデザインの哲学」を解説したものです。
具体的にどういう配色にすればいいかを考えるときは、「カラーユニバーサルデザイン推奨配色セット」が役立つと思います。“黒赤問題”も解決できますし、例えば、「5色で色分けしたい」という場合でも、見分けやすい/見分けにくい色の組み合わせなども掲載しているので、使いたい色との兼ね合いを考えながら活用してもらえればいいですね。
自分が配色したデザインがどれくらい見分けやすいか、人によって混乱を起こさないかをチェックしたいときは、デザイナーならIllustrator、Photoshopが利用しやすいと思います。CS4以降は「色弱者向けのCUDソフトプルーフ(擬似変換)」機能が搭載されており、P型やD型の人が感じる色の差をモニター上で確認できます。
それから、スマホなら浅田一憲氏による「色のシミュレータ」(iOS/Android)が無料で利用できます。画像ファイルやカメラを使って色弱者の見え方をシミュレーションするアプリで、P型、D型、T型と3タイプに対応しています。
※「色弱者」と同じ意味を持つ表現として「色覚異常者」「色覚障害者」などが用いられる場合もありますが、本記事では「『色弱者』の方が差別感を感じる人が少ない」というCUDOのアンケート調査結果に即して、「色弱者」を使用しました。
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