ハッキリ言って「学校」は地獄だ。それでも私が教員として学校にとどまり続ける理由
何度も悩んで、今でも教壇に立っている。
職業を聞かれて「教員をやっています」と言うと「マ〜すごい」「あらエラい」などと褒められたりする。祖母からは「孫のなかで一番エラい」とまで言われた。そのたび、褒められて悪い気はしないけれど、ほんとうは胸をはって教員をやっているわけではない。
ハッキリ言って、「学校」は地獄だ。監獄だ。かっこつきで示したのはあまねく学校という場所が、そもそも監獄なのだという意味である。そんなこと、実は思ったことはないだろうか。しかし学校が監獄であるならばなぜ、私は教員をやり続けているのだろう。望めばいつだって、転職を考えることだってできるのに。
私が「でもしか教師」になるまで
本が好きで、だから文学部に入り、将来はただぼんやりと編集者になりたいと思っていた。就活が始まれば大手の出版社を手当たり次第にいくつか受け、しかしどこも一次面接で落とされた。周りの熱意に圧倒されて、うまく話せない。準備もそこそこに、本が好きだというだけでは通用しなくてそりゃ当たり前だよな、と納得しながらとぼとぼと面接会場を後にした。そして手持ちのカードが全てなくなった大学4年の春、私は仕方がなく、教職の道に進むことに決めた。
それまで長く続けてきた塾講師の経験を生かすくらいしか、ほかに自分にできそうなことは思いつかなかった。けれども塾は夜が遅いし、それならば――。
「教師にでもなるか、いや教師にしかなれない」
ああ、これぞまさに「でもしか教師」である。安易な思いつきに、自分でも笑ってしまう。いっぽうその思いつきとは裏腹に、あまり積極的に学校に戻りたいとは思えない自分もいるのだった。
「来る日も来る日も同じ空間に同じ人間が決められた席に座らされて何時間もじっとしていなければならない」とだけ聞くと、そこは「独房か?」と思わずにいられない。けれどそれが学校という場所であり、生徒たちはそこで当たり前のように(表面上は)にこにこと過ごしている。
学校という空間の、なんと窮屈で窒息しそうな場所だったのだろうということには、出てみてしか気付けない。なかにいるときには学校こそが生活の拠点で、多くの子どもたちにとっては学校こそが他者との交流の居場所であり、毎日当たり前に通うところなのだ。
けれどひとたび、学校から出てしまえばもうあまりそこに戻りたいとは思わないだろう。あんなに縛られていたなんて。あんなに不自由だったなんて。また戻ろうとするのはよっぽど素晴らしい恩師に出会った人か、あの窮屈さに出てさえ気付かない、稀有(けう)な人のどちらかか。
むろん、当時の私もその苦しさを自覚していた訳ではない。登校すれば友達と笑いあって、楽しく過ごした。なのにふとした夜、なぜかたまらなく悲しくなることがあった。この毎日は、いったい何なのだろう。言葉にもできない不定形のもやもやを抱えて、しかしそれを学校に持ち込むことはなかった。たまに泣いて、そして学校では明るく過ごした。
それなのに私は、気付けば戻っていた。あんなに息苦しかった場所に。教師として。
高校生の自分が「彼ら」の中に混ざっている
……高校の教員になってからは授業の合間に、そんなことをよく生徒に向かって話した。話の締めくくりに真剣な表情で「だから私は学校をぶっ壊したくて教員になった」と話せば、「やべえよ」「やっぱ先生変だわ」と言いながら多くの生徒はお腹を抱えて笑った。
けれどもそのなかに、黙って私を見つめる生徒、少し俯いて指をいじる生徒、ゆっくりとうなずいてみせる、つまりは私の話に笑わない生徒たちがつねにいた。そしてそこには――決まってかつて生徒だった中学生や高校生の自分もまた、教員である私を彼らのなかに混ざって、見つめているのだった。
学校という場所が、そしてそこに教師と生徒という役割でしか関われないわれわれ全員が、どうしたって発揮してしまうその異常さのことを、言いたかった。しんどさを感じてしまう生徒たちに、それでいい、あなたは間違っていないと言ってあげたくて私は教員になったのだった。
放課後や休み時間に、おしゃべりや進路相談をしに来る生徒がいた。卒業式で長い長い、手紙をくれる生徒もいた。私のところに来た生徒は、口をそろえて「先生なら分かってくれると思って」と言った。そのたびにうれしくて、これからも本音を伝える教員であろう、と思った。
そうやって自分らしくふるまっていても、ふとしたときに思い出してしまう。そう、恐ろしいことに教員として学校にいる限り、教師として教壇に立つ限り、私はどうしても拭いきれない「権威」を持って、そしてどんなにその気はなくともそれを発揮してしまうのだ。いくら他の先生と比べて分かりがよくて、生徒に寄り添うようであっても、私はただ教室を支配する一個の教師だった。
そのことがどうしても嫌で、何度も悩んだ。ほかの仕事をやってみてもいいんじゃないか。やっぱり根本的に教員は向いていないんじゃないか――。
それでも「学校」にとどまり続けるということ
けれど、ひとつ教育の良いところを挙げるとすれば、それが一回きりではないということだ。
せっかく出会えた一個の私と、一個のあなたなのに、どこまでも「教師」と「生徒」であってしまう、その矛盾をしかしそれでも抱きしめて、私はやっぱりこれからも学校のなかにいる。そしてなんでもない彼らの毎日と、私の毎日を交換し続ける。ここは変なところだけど、私はあなたとここで会えたことをうれしいと思う。ここにいてもいいんだよ。もしも辛かったらこっそり相談してみてくれても、少し休んでみてもいい。ここは相変わらずつまらなくて、鬱屈として、けれどもあなたの居場所でもありつづけるから。他の人がなんて言おうと、私はあなたにそう言い続けるから。
忘れてはいけないのは、つねに私とあなた、一対一の関係が、学校であっても全てだということ。私の言葉はみんなへ、ではなくて本当は目の前のたったひとりへ向けたまなざしであるということ。
というのは建前、とまでは言わないが、何よりも実のところ私は私自身のことをずっと気にしている。
無意識に苦しくてたまらなかったあのときの自分、違和感をまるまる抱えてしかしどうにかやり過ごしていた、あのときの自分に気付けなくてごめんねと言いたくて、だからこうして学校にいる。嫌だいやだと思いながらも教壇に立って、変だと思ったことは変だよね、と口にしてみる。
なんで教室はこんな形なんだろう。なんでみんなに毎日同じ席に座ってもらってるんだろう。なんで教員の話を黙って聞かなきゃいけないんだろう。なんで教員同士でお互いを先生って呼び合うんだろう。なんでチャイムがあるんだろう。なんで私たちは、学校に通うんだろう。――それはつねに、当時の自分へ向けた言葉であるのだ。
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