工事現場にひな人形、サンタ、カブトムシ! 仮囲いのディスプレイに熱注ぐ「ガテン系アート」 中の人にインタビュー(1/3 ページ)
ある工事現場の仮囲いに現れた、ひな人形やカブトムシ――やたらとこだわっているディスプレイ、手掛けている建設業者に思いを取材した。
2018年の3月某日。いつものようにねとらぼ編集部へ向かうため有楽町線の麹町駅の改札を出て、地上出口から1つ目の角を曲がった……とき、おかしなものに気がついた。工事現場の仮囲いから、ひな人形がこちらを見上げているのだ。
どういうことかというと。この角のビルでは1年前から建替え工事が始まり、ずっと仮囲いが設置されていた。よく街中で目にするような、無機質な白いパネルが並んでいるだけの囲いだと思っていたので気に留めて来なかったのだが、よーく見ると、囲いの角っこだけが透明で三角柱状のディスプレイスペースになっている。その足元に、ひな人形のお内裏さまとおひなさまが飾ってあるのだ。しかも赤い布が敷かれ、金屏風に桜の枝まで添えてあるなど、けっこう立派な装飾で。
それだけはなくコーナーは全体的に造花でカラフルに彩られている。工事現場の人が季節に合わせて、通行人に向けてちょっとした癒やしを与えてくれているのだろうか……にしてもなぜこんな足元に? なんともゆるい展示物にほっこりしながら、編集部に向かった。
そして4月に入り、「ひな人形、まだ飾っていないよな?」と例のコーナーを確認してみると。ひな人形の代わりに、今度は3匹のうさぎとタマゴのフィギュアが飾られていた。イースターである。「何この工事現場、ディズニーランドみたい」と大興奮。
そこからぼくの通勤ライフには「仮囲いチェック」が加わった。案の定、この現場の展示物は季節に応じて定期的に更新される。5月に入ると端午の節句に合わせ、かぶとと鯉のぼりのミニチュアが登場。夏になると虫かごと虫取り網とカブトムシ(フィギュア)が現れた。しかも面白いことに、月日を追うごとにディスプレイの質がどんどんあがっていくのだ。
極め付きは夜だ。このコーナーではディスプレイだけでなく、日が落ちるとプロジェクターを使ってイラストが投影され始めるのだ。
7月ごろは天の川を眺める家族の絵、9月は赤とんぼを追い回す子どもたちの絵。初めて夜にこの仕掛けに遭遇したとき「ここまでやるのか……サービス精神旺盛すぎるでしょ」と、テンションがあがったのは言うまでもない。
殺風景なイメージの仮囲いを使って、ビジネス街の通行人たちに楽しみをもたらそうとするエンターテイナー精神。展示の質が高まっていくところに見て取れる職人気質。けれども展示は気付きにくい足元に置かれ続けるなど、いつまでたっても抜けないDIY感に、現場の人たちの純朴さも感じられる。ぼくはこの展示をひそかに「ガテン系アート」と呼び親しみ、経過を追い続けていた。
しかも調べてみると、仮囲いに展示を施している現場はここだけでないらしい。もっと大きいスペースでひまわりやコスモス、クリスマスツリーなど植裁を設けるところもある。五反田のある現場ではマネキンの母子を飾り、Twitterで一時注目を浴びたこともあった。
仮囲いでこうしたディスプレイを設けることは、建築・土木業界で何かしらのブームになっているのだろうか? いつから、どんな目的で始まったのかしら? 興味を膨らませいていたところ、とうとう2018年10月末にビルの建替え工事が終了し、大好きだったあのコーナーディスプレイが仮囲いとともに撤去されてしまった。
1年間ぼくに癒やしを与えてくれた仮囲いの中の住人たちは、どんな気持ちでディスプレイを手掛けてきたのか。思い切って現場担当の前田建設工業さんにインタビューしてみた。
「最初は嫌々ながらやっていたんです」
インタビューに応じてくれたのは、ディスプレイを手掛けてきた2人、作業所長の櫻田広さんと、部下の今野幸祐さん。2019年1月でちょうど創業100年を迎える前田建設工業の社員で、2017年のGW明けからこのビルの工事を担当しながら仮囲いに工夫を凝らし続けてきた。
――突然、変な取材を申し込んですみません。
櫻田: 写真を撮ったりする人はたまに見掛けていましたが、まさかここまで食いついてくる人がいるとは驚きました。
今野: 内輪で盛り上がっているだけかと思っていたので(笑)
――いえいえ、ぼく以外にも通勤しながら気にしていた人、結構いると思います。前田建設さんではいつも仮囲いにこうしたディスプレイを設けているのですか?
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