レビュー
» 2019年01月27日 12時00分 公開

司書メイドの同人誌レビューノート:絵はがきに写った100年前の景色、今はどうなってるの? 実際に見に行った同人誌『繪はがき寫眞旅』がロマンの塊

こういう比較わくわくしますよね。

[シャッツキステ,ねとらぼ]
シャッツキステ

 平成最後の年末……と何かとにぎやかに年を越し、さてもうすぐ2月も目前です。年末年始に見た故郷はいかがでしたか? 成人式などで、久しぶりに母校や懐かしい場所を訪れた方もいらしたのではないでしょうか。毎日暮らしていると変わり映えしないような街並みも、ふと気付くと新しい動きがあったりしますね。

 ご紹介する同人誌は、「絵はがきの旅」です。絵はがきと称されますが、今回の対象は名所が撮影された写真タイプの絵はがきです。それと同じ光景を求めて撮影された現地へと旅立つ……ただし、その絵はがきはおよそ100年ほど前のものなのです。

今回紹介する同人誌

『繪はがき寫眞旅』B5 16ページ 表紙・本文カラー

『繪はがき寫眞旅2』B5 16ページ 表紙・本文カラー

作者:武部将治


同人誌 シャッツキステ 繪はがき寫眞旅 絵はがき
同人誌 シャッツキステ 繪はがき寫眞旅 絵はがき 本文もカラーで、過去と今の比較が一目で分かります

同じ光景に出会える? 100年前の景色を探せ

 もともと、旅と古い町並みがお好きな作者さん。ふと「古い絵はがきと今をくらべてみたら……」と思い付き、神田古書店街で、風景写真のはがきをたくさん購入なさったそう。明治末期から昭和初期の写真を片手に、旅に出発です。

 手掛かりになる絵はがきはおよそ80年〜100年前の風景。そのままの光景があるのでしょうか。出雲、三重、青森、北海道、そして台湾まで。作者さんは絵はがきに載った建造物などを手掛かりに、その地へと行きつき、同じ構図にこだわって撮影された2枚の景色が、その移り変わりをまざまざとみせつけます。

同人誌 シャッツキステ 繪はがき寫眞旅 絵はがき同人誌 シャッツキステ 繪はがき寫眞旅 絵はがき 変わらない鳥居と稜線に、その土地の時間がゆっくりと流れているように感じます

調べる、見つける、今を楽しむ! 三拍子そろった旅へ

 同じ景色もあれば違う景色もあるというのは、100年経てば当然のような気がします。しかし中には、そもそもの絵はがきの方に不思議があることも。

 山口県下関市の関門海峡の写真絵はがきを、いまの現場と比べてみると……なんと“対岸が無い”という事態に! 建物や植物が変わるのはありえそうですが、対岸の土地がまるまる写っていないなんて、どういうことでしょう!?

同人誌 シャッツキステ 繪はがき寫眞旅 絵はがき同人誌 シャッツキステ 繪はがき寫眞旅 絵はがき 山が消えた? その謎ははがきに添えられた一文から解き明かされて……

 実は、その写真が撮影された昭和11年(1936年)、関門海峡一帯は国内有数の要素地帯で、軍部により撮影の規制がされていたのだそうです。砲台や高射砲が写り込むのを避けて、対岸の山並みも、画面からすっぱり削除して改ざんの結果、壇ノ浦は島影一つない水平線の広がる大海原になってしまったのです。当時、この絵はがきを見て関門海峡を訪れた人はびっくりしたんじゃないでしょうか。

 作者さんは、絵はがきから分かるさまざまなことを調べ、旅に生かしていらっしゃいます。例えば絵はがきの発行年。関門海峡のものには軍が検閲、許可した年月日が記載されていましたが、時には宛名面の消印や切手の価格などから推察することも。他にも、事前にストリートビューや国土地理院の地形図を利用して撮影ポイントを予測したりと、絵はがきから得た情報を調べて深めることが、旅先での「そうなんだ!」という発見の楽しさをより増しているように思いました。

 けれどいくら調べても、やっぱり現場で見比べてみると「こんなにまで違うんだ」と思うこともおありだとか。普段はなんとなく見過ごしている「時代の流れ」を、現地で発見してみたくなります。おまけに作者さんが、ちょこちょこと旅先のおいしいものについて言及されているのも何気ない、でも重要ポイント! 過去の比較だけならず、今の土地の旅を十二分に楽しんでいらっしゃるんです。古い絵はがきと同じ渓谷を見ながら、秘境のホテルでいただくコーヒー……足を運びたくなります。

 1枚の紙を伴うことで楽しさが倍増し、たくさんの楽しみを連れての旅になるとは、なんてすてきな道連れなのでしょうか。

同人誌 シャッツキステ 繪はがき寫眞旅 絵はがき 秘境のホテルからの景色は今も昔も絶景

穏やかな文がいざなう優しいタイムトラベル

 このご本で発見のある楽しい旅をより一層深めているのは、作者さんの優しい目線です。

 千葉県印旛沼では、おそば屋さんが発行した絵はがきをとりあげます。でも写っているのはおそば屋さんではなく、小さなほこら。なぜおそば屋さん発行でほこら? という不思議から、その土地に伝わる「佐倉義民伝」のエピソードを紹介し、地元のお百姓さんの代表や、沼の渡守りの甚兵衛がその身をかけて尽くした話を分かりやすく説きます。

 このおそば屋さん絵はがきのページは、なんと見開き半分が「佐倉義民伝」のエピソード。でも、その物語を知ることで、なぜ? という疑問も解けるばかりか、いまも、甚兵衛を祀るほこらが土地にありつづけることに思いをはせることができます。このページの文末は「この沼の奥底に甚兵衛が眠っているのかと思うと、頬に落ちる雨つぶが一段と冷たく感じました」という一文でした。旅先に寄り添うそのまなざしと、絵はがきを中心にして、周辺の知識が分かりやすく記された文体を追っていると、町が変わっていることも、変わっていないことも、穏やかに楽しめる……そんな気持ちになりました。

同人誌 シャッツキステ 繪はがき寫眞旅 絵はがき同人誌 シャッツキステ 繪はがき寫眞旅 絵はがき 絵はがきと現地の写真に加え、近隣の様子や地図も添えられ、見やすく読みやすいです

サークル情報

サークル名:ムサシノ工務店

Twitter:@rutakebe

Webサイト:http://sangyoisan.com/

現在入手できる場所:『繪はがき寫眞旅』(Amazon.co.jpCOMIC ZIN)、『繪はがき寫眞旅2』(Amazon.co.jpCOMIC ZIN


今週のシャッツキステ

シャッツキステ メイド 同人誌 見回してみたら、梯子(はしご)に絡まる蔦が成長したみたい? 少しずつ変わる館内を見比べてみるのも楽しいかもです

著者紹介

シャッツキステ メイド 同人誌 司書メイド ミソノ 司書メイド ミソノ:秋葉原カルチャーカフェ「シャッツキステ」でメイドとしてお給仕する傍ら、とある大きな図書館で司書としても働く“司書メイド”。その一方で、こよなく同人誌を愛し、シャッツキステでも「はじめての同人誌づくり」「こだわりの特殊装丁」の展示イベントを開く。自身でも同人誌を作り、サークル活動歴は「人生の半分を越えた辺りで数えるのをやめました」と語る

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