ついに「香川県民お断り」のサービスが現れ「こうするしかない」「差別を助長するのでは」と賛否 運営者に意図を聞いた
4月1日から施行された「ネット・ゲーム依存症対策条例」への対策として。
テーブルトークRPG(TRPG)を離れた人と遊べるサービス「どどんとふ」の公式サーバが、4月1日から香川県民の利用を原則「お断り」する方針を打ち出しました。現状ではトップページにアクセスすると香川県民かどうかの質問が表示され、香川県民はアクセスできないようになっています。
言うまでもなく、4月1日から施行された、香川県の「ネット・ゲーム依存症対策条例」(関連記事)への対策として実装されたもの。ネット上では「素晴らしいリスクマネジメント」「実際こうするしかない」といった声もあがる一方で、「香川県民への差別を助長するのではないか」と懸念する声もみられます。
なぜこのような対応に至ったのか、サーバ運営者に話を聞きました。
この条例を「事業者は守りようがない」
「どどんとふ」は“たいたい竹流”(@torgtaitai)さんが開発した、TRPGをオンラインで遊ぶための補助ツール。離れた相手とTRPGをプレイするためのさまざまな機能が網羅されており、TRPGユーザーの間ではよく知られたツールでした。今回「香川県民お断り」の方針を打ち出した「どどんとふ公式鯖」は、たいたい竹流さん公認のもと、「どどんとふ」を誰でも手軽に利用できるよう有志が運営・公開しているサイトの一つです(ツール作者と公式サーバ運営者は別人なので注意)。
―― なぜこのような対応に?
サーバ運営者:条例そのものの問題やそれが可決されるまでのプロセスに大きな問題があると感じ、この条例の異常さを広く知ってもらうための問題提起としてこのような対応をいたしました。ただ、実際には香川県の方も「知ったこっちゃない」を選択すれば今までと何も変わらず利用できますので、排斥するような意図はありません。
もう一つの理由は、条例を根拠にした訴訟やクレームに対して「うちは『遵守できないしするつもりもない』って書いてあるのに使っておいて何を言ってるんだ」と返すための予防線を張ることです。意味があるかどうかは分かりませんが、コインハイブの摘発事例のように、利用者の同意を事前に取ったかどうかを争点にされないようにするためです。
―― 「香川県民お断り」以外の選択肢はなかったのでしょうか。
サーバ運営者:他に検討した選択肢は「他のほとんどのゲーム提供サービスと同様に、無視して今まで通り何もしない」だけです。
「位置情報やIPアドレスなどから、香川県からの接続かどうかを確認してプレイ時間の制限などを実施する」という対応については、(どどんとふ公式鯖では)位置情報も接続元IPアドレスも取得していませんし、誤判定や不具合が発生する可能性もあります。どどんとふ以外にも複数のTRPGを楽しむためのツールを提供していますので、それら全てを問題の条例に対応するには、開発・維持のためのスキルや時間的・金銭的リソースもないため現実的には不可能です。
―― 実装後はどんな反応がありましたか。
サーバ運営者:条例を問題だと感じている方からは、この対応は致し方ないという肯定的なコメントをいただいています。一方では、香川県民への差別行為やヘイトだとか、やりすぎではないかというコメントもTwitterなどでは見かけました。
リリース当初は香川県民を選択すると「丸亀製麺」さんのサイトに飛ばすという皮肉(※)をしていましたが、実際に抗議活動をしている香川県民の方からの指摘や、丸亀製麺さんに迷惑を掛けてしまうのは本意ではないので、単純に戻るだけにすぐ変更いたしました。これはちょっと悪ふざけがすぎたと思っています。
※編注:実は丸亀製麺は香川県や丸亀市とは関係のない会社で、ネット上では香川県への“やゆ”として名前が使われることがある
―― 今回の条例についてどう思いますか。
サーバ運営者:既に反対意見をコメントされている多くの方とほぼ同意見ですが、付け加えるとしたら「具体的な対応方法の提示がない」という点で、この条例を「事業者は守りようがない」というということです。
パブコメで抗議すべきという声もありましたが、募集しているという情報を入手した時点で既に締め切りまで1日を切っていたことや、香川県民でもなく事業者でもないと思い、送ることはしませんでした。個人の運営者でも送れるという情報を前もって知っていて、かつ締め切りまで十分な時間があれば送っていたと思います。
ツール作者も取り組みには賛同
また、ツール製作者である“たいたい竹流”さんにも、今回の公式サーバの取り組みについて聞いてみました。なお、公式サーバ運営者とたいたい竹流さんは大学からの友人とのこと。
―― 今回の公式サーバの取り組みについて、たいたい竹流さんはご存じでしたか。
たいたい竹流:冗談混じりに(運営者と)話してはいましたが、実施するかどうかまでは知りませんでした。
―― 実際に行われたのを見てどう感じましたか?
たいたい竹流:自由で良いと思いました。全ての活動は自由であるべきというのが私の持論ですので。またこの件については批判もあるようですが、それらは香川県議会にこそ向けられるべきものだとも思っています。
―― 今回の条例についてどう思いますか。
たいたい竹流:自分たちが不慣れで縁遠い物を忌避するのは自由ですが、それを子どもたちに押し付けるのはあまりにも抑圧が過ぎると考えています。真に子どものことを思うのであれば、個々人の自由を尊重すべきではないでしょうか。
「恣意的な運用」を避けるにはこれしかない?
今回「お断り」の根拠とされているのは、条例の第7条および第11条。いずれも関連する“事業者”の責務を定めたもので、第7条では「県や市町が実施するネット・ゲーム依存症対策に協力する」こと、第11条では「県民がネット・ゲーム依存症に陥らないよう、自主規制など必要な対策を実施する」ことをそれぞれ定めています。
しかし、事業者が具体的にとるべき“対策”の内容が条文では示されておらず、また対象が県外の事業者(ゲーム会社だけでなく、インターネットを通じて情報を提供する事業者全般も含まれる)にも及ぶことから、「恣意的な運用をされる恐れがある」「厳密に守ろうとするなら香川県民の利用を全てシャットアウトするしかない」など、素案の段階から今回のような対応を予想する声が多くあがっていました。
※4月3日0時55分追記:当初「コインハイブによる不正アクセス禁止法による摘発事例」と書いていましたが、同案件は「不正指令電磁的記録に関する罪(通称ウイルス罪)」による摘発でした。お詫びして訂正します
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