いじめによる死亡事件を描く映画「許された子どもたち」が必見の地獄めぐりである「5つ」の理由(3/3 ページ)
この“自主製作にこだわった”ことも、本作が類いまれな傑作に仕上がった大きな理由だろう。特に、主演を務めた上村侑(うえむらゆう)、彼のことを気にする少女を演じた名倉雪乃が、役とほとんど変わらない年齢であったことはとても大きい。どれだけ演技力のある俳優がこの役を演じたとしても、年齢が違ってしまってはここまでのリアリズムと存在感は出せなかっただろう。
出演を希望する中学生を対象にしたワークショップを開催し、いじめの加害者や被害者を演じることによって考えを巡らせてもらう、という製作過程も自主製作ならではだ。2カ月に渡りいじめの心理を学び、そこから抜てきされた若い役者たちは、これ以上は望めないほどの熱演を見せている。大人の俳優たちも、加害少年の母親を演じた黒岩よし、被害少年の両親を演じた地曵豪(じびきごう)と門田麻衣子を筆頭に、痛烈な印象を残すことだろう。
5:“モヤモヤ”という宿題を持ち帰られる
本作は見た人に“モヤモヤ”をもたらす内容だ。何しろ、劇中ではいじめによる殺人から始まったこの最悪の地獄めぐりの物語に、ある意味ではっきりとした結論を出さないでいるのだから。
しかし、その“モヤモヤ”こそ、本作でもっとも重要なことだ。苛烈な描写により観客の感情を揺さぶりながらも、ワイドショー的な「○○は断罪されるべきだ」「こちらに責任がある」という一方的な論調に帰結しない、最後に“この問題の宿題を持ち帰る”からこそ、映画という媒体の意義があるのではないだろうか。
本作はPG12指定であるが、ぜひ劇中の少年たちと同じ中学生に見てほしい。いじめについて多角的かつ客観的に考えられるきっかけになり、同時に“加害者側になるかもしれない可能性”を認識できる。
また、キャッチコピーの「あなたの子どもが人を殺したら、どうしますか?」という問いかけは、全ての子どもを持つ親にも痛烈に突きつけられるものだ。最恐のホラー映画という形にはなってしまうが、親御さんたちにも本作を強くおすすめしたい。
そして、本作は(マスクの着用など十分な対策をしたうえで)映画館でこそ見てほしい。“音”の演出がこだわり抜かれていることもあって、劇場という空間で堪能してこそ、この地獄めぐりが真に迫ったものになるだろうから。そして、その地獄を体験してこそ、同じ地獄に陥らないためのヒントももらえるはずだ。
(ヒナタカ)
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