エジソンの知られざる“仁義なきネガキャン戦争” 映画「エジソンズ・ゲーム」が面白い「3つ」の理由(2/2 ページ)
ワインスタインが映画業界から追放され、配給会社も経営破綻し、公開が宙に浮いてしまった時、本作の支援をしてくれたのは巨匠マーティン・スコセッシだった。その協力のおかげもあり、監督たちは多忙なスター俳優たちを集め、たった1日限りの再撮影を実現させ、再編集も行った。結果的に、元のバージョンから10分を削り、新たに5つものシーンを追加した、渾身の“ディレクターズ・カット”を上映できたのは、2年越しとなる2019年のことだった。
そのワインスタインによってまとめられたバージョンは、なんとエジソンが“良い人間”に見えるものだったのだという。前述した通り、本作におけるエジソンは良い人間でもなければ悪人でもない、複雑な印象を与えるキャラクターだ。それをオミットしてしまうというのは、この作品の本質を外していると言っても過言ではないだろう。
いずれにせよ、監督やスタッフが本当に望んでいたバージョンが、この日本で公開されるということは、とても喜ばしいことだ。この“ディレクターズ・カット(インターナショナル版)”の編集はキレキレでテンポが抜群に良く、ライバル同士の対立構造も分かりやすくまとまった、エンターテインメントとして申し分のない内容になっている。今日までの生活の要となる、電気を巡る世紀のビジネスバトルを、存分に楽しめることだろう。
さらに楽しむためのトリビア〜かわいそうなニコラ・テスラ〜
本作をもっと楽しめるかもしれない、さらなるトリビアにも触れておく。
発明王のエジソンは、実は動画撮影機の“キネトグラフ”および、それを上映する“キネトスコープ”も発明していた。スクリーンに映写するのではなく、箱の中を覗き込むという形にはなるが、エジソンは事実上“映画”の原型をも発明していたのである。
そのキネトスコープを意識したと思われる、ある演出が、この「エジソンズ・ゲーム」には用意されている。見てほしいので具体的には書かないでおくが、これは映画という媒体でしかできない、映画館で見てこそ真に感動できる演出だった、ということは記しておこう。
また、この「エジソンズ・ゲーム」で、エジソンの直接的なライバルとして描かれるのは実業家のウェスティングハウスだが、実はもう1人ライバルがいる。その名はニコラ・テスラだ。彼は、驚くほどにかわいそうな人物なのである。
ニコラ・テスラは尊敬するエジソンの元で働き、自ら開発した交流方式の有用性を訴えていたものの、直流方式を推し進めるエジソンから否定され続け、会社を去らざるを得なかった。その後の彼のかわいそうなエピソードと言ったら……ぜひ、「エジソンズ・ゲーム」の本編で確認してほしい。
そんなかわいそうなニコラ・テスラという人物に、さらに感情移入できるマンガ作品も紹介しておこう。それは『変人偏屈列伝』。収録作品の原作を(一部は作画も)手掛けているのは、あの『ジョジョの奇妙な冒険』で有名な荒木飛呂彦である。
その『変人偏屈列伝』に収録されている一遍「エジソンを震えあがらせた大天才 ニコラ・テスラ」では、エジソンによるニコラ・テスラへのすさまじい罵倒を見ることができる。「このスカタン野郎がァーッ!」「きさまはクビだ!テスラァァァー!」と叫ぶエジソンの姿は、ジョジョのラスボスよりも邪悪に思えるほどである。
これは極端な描写ではあるが、歴史上の偉人の意外な一面を知ってみるというのも、意義のあることだと思う。エジソン以外にも、例えばあの野口英世や、ベーブ・ルースだって、クズいエピソードを持っている。それを含めてその人の“生き様”なのだから。
(ヒナタカ)
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