庵野秀明は再び、何を作ろうとしているのか? エヴァ完結に備え「トップをねらえ!」「ふしぎの海のナディア」を見る(2/2 ページ)

» 2020年11月21日 11時30分 公開
[将来の終わりねとらぼ]
前のページへ 1|2       
※本記事はアフィリエイトプログラムによる収益を得ています

 「トップ」に続く重厚なSF描写、既存作品やTVCMのパロディー、人の死を手を抜かずに描くしっかりした作品づくり。そして何よりヒロイン・ナディアの造形が目立つ。

 褐色の美少女キャラクターという当時としては珍しい設定に加え、基本的に不機嫌で他人は信じず、周囲との対立を恐れずに自分の意見を曲げない、非常に不安定な性格は一歩間違えば視聴者から反感を買いかねないところ。しかしナディアは「思い通りにならない嫌なやつ」として描かれているわけではなく、作中何度もセリフとして繰り返されるように、14歳の彼女は「徹底的に子供」として描かれる。

基本的に不機嫌(「ふしぎの海のナディア」第2話より)

 そして「ナディア」の特徴として、子供は子供である、と同時に、「大人が大人である」点がしっかり強調して描かれていることが挙げられる。これがエヴァンゲリオン(特に新劇場版)との最大の違いだといって差し支えないのではないだろうか。

 グランディスはナディアの相談相手または反面教師として機能し、サンソンが与える助言はジャンにとって本当に大切なものを気付かせてくれる。言葉少ななネモ、また一癖あるキャラクターのエレクトラも同じく、ジャンとナディアを決して危険な目には遭わせようとしないという一線は作中を通して絶対に守り通している。シンジを積極的に戦線に向かわせるネルフの面々とは好対照である。

 責任を取るのも子供たちを守るのも大人の仕事、というのを前提にキャラクターたちが動く。だからこそ第15話のようなショッキングなシーンもあるものの、大人・子供誰が見ても感動できるストーリーとなっている。

視聴者にトラウマを刻んだ回(「ふしぎの海のナディア」第15話より)

 監督を樋口真嗣に交代した「島編」は今でもファンの語り草だが、徹底した大人の不在からくる混乱という観点ではそこまで不必要だとは考えない。所々にしっかり伏線も入っているので、「23〜34話は全部飛ばしていい」という言説には注意してほしい。

 最後に、本作の英語版タイトルは「ブルーウォーターの秘密(The Secret of Blue Water)」である。だが作中では結局ブルーウォーターが何でどのようなものなのかがはっきりと明示されていないところや、ノーチラス号に最大の危機を与えるネオ・アトランティス側の兵器名にU字磁石型の「スーパーキャッチ光線」(元ネタは「ガメラ対宇宙怪獣バイラス」)なんてものを出してしまうあたりに、今にも通ずる監督のほのかな遊び心を感じなくもない。

 当時の少年少女たち、大きなお友達を大いに沸かせた本作。良質の冒険活劇、あるいは「エヴァ」の前身として、その完結の前に見ておく価値は確実にある。抜けるような青空に始まる爽やかな名作を存分に楽しんでほしい。

将来の終わり


前のページへ 1|2       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

昨日の総合アクセスTOP10
  1. /nl/articles/2404/25/news016.jpg 「電車の中で見ちゃダメ」「笑ったww」 実家からLINE「子ヤギがすばしっこくて捕まらない」→送られてきた衝撃姿が320万表示!
  2. /nl/articles/2404/23/news090.jpg 誰も教えてくれなかった“裁縫の裏ワザ”が目からウロコ 200万再生のライフハックに「画期的」と称賛【海外】
  3. /nl/articles/2404/21/news011.jpg 小1娘、ペンギンの卵を楽しみに育ててみたら…… 期待を裏切る生き物の爆誕に「声出して笑ってしまったw」「反応がめちゃくちゃ可愛い」
  4. /nl/articles/2404/25/news043.jpg 娘の給食の献立表を見たら…… 正体不明の“謎の料理名”が「これはわからんw」と話題に その意外な正体に納得!
  5. /nl/articles/2404/25/news129.jpg プロ野球チップスでまた“不良品”流出 伊藤大海「176m」表記に続き…… カルビー謝罪「深くお詫び」
  6. /nl/articles/2404/24/news018.jpg 1年半ケージに引きこもっていたシャーシャー猫が、ある夜布団に入ってきて…… 感涙の行動に「まるで別猫」「こんな日が来るなんて」
  7. /nl/articles/2404/24/news017.jpg メルカリで300円の紙モノセットを買ってみたら…… 出品者のあたたかな心遣いに「利益は考えていないんでしょうね」「見ててわくわくします」
  8. /nl/articles/2404/23/news185.jpg 子どもに高級キーボードのパーツを捨てられた → 公式の“先読みしすぎた対応”が話題「そういうこともあろうかと」
  9. /nl/articles/2401/18/news015.jpg 巨大深海魚のぶっとい毒針に刺され5時間後、体がとんでもないことに…… 衝撃の経過報告に「死なないで」
  10. /nl/articles/2404/22/news124.jpg ダイソー「マルチ万能ほうき」が家事ラクの救世主 名前負け知らずの便利さに「これやばっ!!」「220円に驚き」の声
先週の総合アクセスTOP10
  1. 小1娘、ペンギンの卵を楽しみに育ててみたら…… 期待を裏切る生き物の爆誕に「声出して笑ってしまったw」「反応がめちゃくちゃ可愛い」
  2. 富山県警のX投稿に登場の女性白バイ隊員に過去一注目集まる「可愛い過ぎて、取締り情報が入ってこない」
  3. 2カ月赤ちゃん、おばあちゃんに少々強引な寝かしつけをされると…… コントのようなオチに「爆笑!」「可愛すぎて無事昇天」
  4. 異世界転生したローソン出現 ラスボスに挑む前のショップみたいで「合成かと思った」「日本にあるんだ」
  5. 【今日の計算】「8+9÷3−5」を計算せよ
  6. 21歳の無名アイドル、ビジュアル拡散で「あの頃の橋本環奈すぎる」とSNS騒然 「実物の方が可愛い」「見つかっちゃったなー」の声も
  7. 1歳赤ちゃん、寝る時間に現れないと思ったら…… 思わぬお仲間連れとご紹介が「めっちゃくちゃ可愛い」と220万再生
  8. 業務スーパーで買ったアサリに豆乳を与えて育てたら…… 数日後の摩訶不思議な変化に「面白い」「ちゃんと豆乳を食べてた?」
  9. 祖母から継いだ築80年の古家で「謎の箱」を発見→開けてみると…… 驚きの中身に「うわー!スゴッ」「かなり高価だと思いますよ!」
  10. 「ゆるキャン△」のイメージビジュアルそのまま? 工事の看板イラストが登場キャラにしか見えない 工事担当者「狙いました」
先月の総合アクセスTOP10
  1. フワちゃん、弟の結婚式で卑劣な行為に「席次見て名前覚えたからな」 めでたい場でのひんしゅく行為に「プライベート守ろうよ!」の声
  2. 親が「絶対たぬき」「賭けてもいい」と言い張る動物を、保護して育ててみた結果…… 驚愕の正体が230万表示「こんなん噴くわ!」
  3. 水道検針員から直筆の手紙、驚き確認すると…… メーターボックスで起きた珍事が300万再生「これはびっくり」「生命の逞しさ」
  4. フワちゃん、収録中に見えてはいけない“部位”が映る まさかの露出に「拡大しちゃったじゃん」「またか」の声
  5. スーパーで売れ残っていた半額のカニを水槽に入れてみたら…… 220万再生された涙の結末に「切なくなった」「凄く感動」
  6. 桐朋高等学校、78期卒業生の答辞に賛辞やまず 「只者ではない」「感動のあまり泣いて10回読み直した」
  7. 「これは悲劇」 ヤマザキ“春のパンまつり”シールを集めていたはずなのに…… 途中で気づいたまさかの現実
  8. 「ふざけんな」 宿泊施設に「キャンセル料金を払わなくする方法」が物議 宿泊施設「大目に見てきたが厳格化する」
  9. がん闘病中の見栄晴、20回以上の放射線治療を受け変化が…… 「痛がゆくなって来ました」
  10. 食べ終わったパイナップルの葉を土に植えたら…… 3年半後、目を疑う結果に「もう、ただただ感動です」「ちょっと泣きそう」