がん患者への「かわいそう」「初期でよかったね」は傷つけてしまう言葉かも? 乳がんエッセイ漫画・原作者インタビュー

読者から反響があったという「がん患者を傷つける(可能性がある)NG言葉」。

» 2021年04月02日 18時00分 公開
[ねとらぼ]


 日本の女性のうち9人に1人が発症するといわれる乳がん。身近な病気なので調べたことがある人も多いでしょう。しかし、「いつか誰かに起こること」として知っていることと、「自分で経験すること」の違いは大きいもの。

 コミックエッセイ「がんの記事を書いてきた私が乳がんに!?〜育児があるのにがんもきた」(KADOKAWA/2021年1月14日刊行)の原作者・藍原育子さんに、知識だけでは割り切れない、手術だけでは終わらない病気と向き合うことの難しさについてインタビュー。合わせてマンガ本編も掲載します。

【作品概要】がんの記事を書いてきた私が乳がんに!?〜育児があるのにがんもきた

 乳がんは退院すれば終わりではなく、患者とその家族にとっては「退院こそが始まり」だった。育児・仕事・闘病、戦いつづけた5年間の軌跡。

 原作者は健康系記事をメインとするライター。乳がんなど婦人科系の病気について多数の記事を取材・執筆してきたが、いざ自分が患者になってみるとまったく違う世界が待っていた。その戸惑いと苦しみ、そして家族と共に元の生活を再生していく5年にわたる姿を、包み隠さず明らかに。

著者プロフィール:藍原育子/あいはらいくこ(Twitter:@aihara_ikuko/Webサイト:藍原育子の仕事部屋

出版社に勤務後、2004年よりフリーランスに。2010年に長女を出産。2013年に乳がんを患い、右胸の全摘手術を行う。インプラントによる再建手術、5年間のホルモン治療を経て、現在経過観察中。近年は医療系の記事を中心に執筆活動を行い、がん保険契約者向け冊子などの企画・執筆も手掛ける。

第5話「かわいそうの呪い」



その他の一部エピソード、購入先などはWebマンガ誌「コミックエッセイ劇場」に掲載されています

―― 本書ではマンガの合間にコラムが掲載。第5話のあとには「かわいそう」「初期で良かったね」といった「がん患者を傷つける(可能性がある)NG言葉」が収録されていますね。

 そこは、すごく反響がありましたね。ほとんどが、私が実際に言われて引っ掛かっていた言葉なんですが、監修していただいた精神腫瘍科(がん患者やその家族に心のケアを行う診療科)の第一人者・大西秀樹先生に聞いてみたら「傷つける可能性のあるNG言葉」として認められたので載せたものです。

 読者の方からは「この言葉ダメなの?」といった反応もありましたが、あくまでも「傷つける“可能性がある”」ということですね。同じ言葉でも相手との関係性によって受け取り方は変わってきますし、一概には言えません。

―― 前の第4話には乳がんで全摘手術を受けることを伝えたら「胸にシリコン入れるの? いいじゃん」「どうせなら胸大きくしちゃえ!」と楽しげに話す友人が登場。あれは「NG言葉」的にはどうなんでしょうか?

 内容だけで考えたら、まさに「NG言葉」ですよね(笑)。当時、あの言葉には救われましたが、私と彼女との関係性だったからこそだと思います。

 ページ数の都合で省いてしまったところなのですが、私は乳がんが分かる3年前、35歳くらいで心のバランスを崩しかけてしまった時期に「今までやったことがないことを始めよう」と、衝動的にフラダンスを始めました。

 特にハワイやダンスに興味があるわけではなかったんですが、それまで仕事一辺倒で趣味らしい趣味がなかった私は「友達もたくさんできて、人生楽しいなあ」と。彼女はそのダンス仲間の1人です。

 出産後、フラダンスはお休みしていたんですが、育児が落ち着いてきたころに友達から「今度はフラじゃなくて、タヒチアンダンスをやろうよ」と誘われました。分かりますか? 映画『フラガール』にも出てくるんですが、腰蓑にココブラ(ココナッツブラ)をつけて激しく踊るダンスです。

 ココブラは天然のココナッツでできていて、でも、タヒチから輸入されたものは大き過ぎてサイズが合わないから「私たちは日本製だね」みたいな笑い話があったんですが……どうしてこの取材で、こんなことを話しているんでしょう(笑)

―― まあでも、友達の話ってそういうものですからね。

 その後、私は乳がんで手術を受けることになり、ココブラ以前に普段の下着にも悩むような状況になって。周囲の一部の人に病気のことを打ち明けると「かわいそう」と言われることが多く、それをツラく感じていました。

 ですが、「どうせなら胸大きくしちゃえ!」の彼女に伝えたときは違ったんです。彼女は「かわいそう」とは一切言わず、病気のことも聞かず、「タヒチのココブラ、いけるかもね」「じゃあ、いつからタヒチアンダンス始める?」みたいな話だけして帰っていきました。当時の私は、それに救われたんですよね。

―― 背景や関係性が分かると、その人なりの気遣いなのかなあ、という気もしますね。赤の他人でも家族でもなく、友達だからできる明るい話に徹している、というか。

病気をした人と話すときに理解しておいてほしいこと

 病気の人に声を掛けるとき、「NG言葉」のような知識があるかないかで変わってくるところもあると思います。ですが、最初にお話した通り、言葉の受け取り方にはお互いの関係性も関わってくるわけですよね。

―― 日常生活でも当てはまる話ですよね。普段の人間関係にも「誰かを傷つける(可能性がある)言葉」はあって、でも、誰が言うか、どう言うかなどによって言葉の意味合いは変わります。

 特に病気をしている人と話すときに理解しておいてほしいのは「その人のもともとの性格にかかわらず、もしかしたらすごくセンシティブな状態になっているかもしれない」と思っておいてほしいですね。どんな病気であれ、病気になった時点で気持ちはヘコんでしまうものですから。

 絶対に傷つけないことも、傷つかないことも現実的にはムリだと思います。ですが、「普段だったら傷つかないような言葉に傷つくかもしれない」「『この人はこれくらい言っても大丈夫』が、今は大丈夫ではないかもしれない」と頭に置いておくだけでも、違ってくるのでは。

(続く)

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