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» 2021年03月25日 19時00分 公開

冴えない青年が悪のカリスマになった「実話」 うらやましさの欠片もない邪悪な青春映画「ロード・オブ・カオス」レビュー

ブラック・メタル黎明期の血塗られた歴史を基にした実話映画。

[城戸,ねとらぼ]

 青春映画を見ると胸が苦しくなる。例えば弱小野球部員が、甲子園を目指して困難を乗り越え、一生の仲間たちと優勝をつかみ取る。ふわりと夏が香ってくるような田舎町で、美男美女がひと夏の恋をする。はたまた荒れた学校で、拳ひとつで頂点にのし上がる――。うらやましいからだ。自分に関係のない物語に卑屈な感情を抱かずにはいられないからだ。

 そんな自分にぴったりな「青春映画」があった。もうまったくうらやましくない狂乱の青春を描いた「ロード・オブ・カオス」である。キラキラした夏も学ランも登場しない、悪魔崇拝に憑りつかれた主人公・ユーロニモスのヤバい青春を描いたR-18指定の問題作だ。




スポーツも初恋もない、邪悪な青春

 主人公は、悪魔崇拝を掲げる19歳の青年・ユーロニモス。本作は実在の伝説的ブラック・メタルバンド「メイヘム」、そして悪魔崇拝者グループ「インナーサークル」の創成をリーダーである彼の視点で描いた、実録青春ドラマである。

 悪魔のもとに生きると決めたユーロニモスは、同じ信念を掲げる仲間たちと音楽活動を通して、反社会的な運動にのめり込んでいく。動物を殺したり、教会を燃やしたりといった悪行の数々は、やがてユーロニモスが作り上げたカルト集団での格付けの基準となっていく。



 もしあなたが彼のことを知らないなら、どうか鑑賞前にウィキペディアだけは読まないでほしい。この映画とあなたをつなぎとめるのは、このユーロニモスである。本作は、ただの“ヤバいバンドの再現映画”ではない。結末を知らないまま彼に感情移入すれば、きっと青春映画の味わいが口に残るに違いない。

 ここからは、作品冒頭に表示される「これは真実と虚構を織り交ぜた、事実に基づいた物語である」という表記をふまえて、あくまで映画内での彼について言及させていただきたい。

 本名をオースタイン・オーシェトといった彼は、真のブラックメタルを追及するという目的のもとバンド活動にいそしんでいた際、自らを「デッド」と名乗るヴォーカリストに出会う。この出会いが、メイヘムを本格的に始動させた。



 ブラックメタルを愛する気持ちにウソはないものの、ユーロニモスがバンドを続ける最大の目的は「自分という存在を知らしめたい」というものだった。今風に言うと承認欲求の塊であり、前述した“悪行の数々”も、彼自身が手を下すことはほとんど無く、仲間の悪事を「自分の指示だ」と触れまわるような、言ってしまえば情けない存在。学園ものの青春映画であれば“ドーテイ”役に回されるような役回りだ。

 そんな彼は、後からバンドに加入したヴォーカリストのデッドという男に衝撃を受ける。その名の通り死に憑りつかれたデッドは、客席に豚の頭部を投げ入れ、自身の両手首を切り裂き、血を流しながらすさまじい声で歌い上げる。自身の弱さを知ってか知らでか、ユーロニモスは彼に尊敬と嫉妬心を覚えた。デッドは“本物”だった。メイヘムの顔は自分ではなく、もはやデッドとなっていた。

 そしてついに、デッドは自殺してしまう。ユーロニモスは、デッドの自殺死体をアルバムのジャケットに使用し、頭蓋骨をペンダントにしてメンバーに配った。バンドはより一層格を上げることとなり、ユーロニモスは悪魔崇拝サークルを発足させる。



 痛いほどに理解できるのが、ユーロニモスの劣等感だ。彼はまぎれもない非行少年であり、まともな倫理観を持つ者ならば目を背けたくなるような邪悪である。だけど、自分より優れている者への嫉妬心が丁寧に描かれるせいで、否応なく感情移入させられてしまう。自分こそが主人公だと思っていたのに、目の前に“本物”が現れたときの悔しさ。まったくスケールの違う話で恐縮だが、自分が冷え性だという話をすると、必ず相手は自分よりもっと冷え性なのだ。相手は冷え性で病院に行っている。それが悔しい。だからユーロニモスの気持ちは痛いほど分かる。

 彼が始めたブラックサークルは、徐々に悪への歯止めが効かなくなり、「一番悪いことをした奴が偉い」という幼稚な価値観のもとに犯罪を繰り返す。悪魔に認められたいのか、それともサークルの仲間連中に認められたいのか、彼らは互いと競い合うように悪事を働いていく。

 音楽の才能とカリスマ性を持って生まれたために、ノルウェー中の若者に伝播した闇の周波は、その張本人であるユーロニモスにさえ制御のできないものになっていた。ばかりか、ユーロニモスは自身の掲げる信念に自身の覚悟が追い付いていない、未熟な青年なのだ。責任の所在が自分にあることからも逃げ続ける彼は、果たしてどんな成長を遂げるのか。

 青少年の闇の一面を抽出して描かれる物語は、ユーロニモスを慕うクリスチャンという青年の登場で、より暗い影を落としていくこととなる。ここから先は、実際に鑑賞して確かめてほしい。


 個人的に何よりも印象に残っているのが、終盤で判明する、デッドの死体を前にユーロニモスが取っていた行動。あの描写があるおかげで、本作は決して悪趣味映画では終わらないのだ。

 ただし、本作はまともな奴がひとりも登場しない上に、動物殺しや放火に始まり、過激な自傷行為、ついには殺人まで真っ向から描いている。R-18指定が付くのも当然の内容だから、覚悟のある方だけスクリーンに足を運んでほしい。逆に言えば、過激な描写を期待する方にとっては間違いなく満足のいく内容であるともいえるだろう。

音楽を知らなくても大丈夫。実力派スタッフによって裏打ちされた確かな娯楽性

 と、あらすじだけでも大いに狂っていて、「本当にこんなことがあったのか?」とうたがってしまうが、本作の監督は当時のブラック・メタルシーン最前線でドラマーとして活躍していたジョナス・アカーランド。ツテや記憶を頼りにリサーチを重ねた彼は、作品全体に圧倒的なリアリティーをもたらした。メイヘムと横一線で活動していた男の回想録としても、音楽ファンには非常に興味深い作品かもしれない。

 今やジョナス・アカーランドは、マドンナ、ビヨンセ、レディー・ガガといった大スターのミュージックビデオを監督してきた大御所。加えて映画監督としても活躍し、主演マッツ・ミケルセンの全裸アクションが日本でも話題となったトンデモアクション「ポーラー 狙われた暗殺者」も記憶に新しい。

 「ポーラー」で顕著だった、“特に目新しい話でもないのになんだか只事じゃない”味わいを残す独特の演出は本作でも健在。ことに本作は話自体も只事じゃないので、タイトル通りよりカオスを感じられる出来といえるだろう。(フィルモグラフィとしては本作のほうが前)

 そして監督に応えた役者たちが素晴らしい。主人公ユーロニモスを演じたロリー・カルキンは、かのマコーレー・カルキン(現在はマコーレー・マコーレー・カルキン・カルキン)の実弟。危うさと繊細さをあわせ持った主人公像に見事にハマっていて、これはまさに彼の代表作となるだろう。小柄なのもよい。



 そして、出番は少ないものの強烈な印象を残すデッド役には、ヴァル・キルマーの息子・ジャック・キルマー。その端正な顔立ちと、今にも消えてしまいそうな儚さを兼ね備えた、美しいデッド像を見事に体現。デッドの顛末(てんまつ)を再現した彼の演技は、本作のベストアクトといえるだろう。



 他にもスカイ・フェレイラエモリー・コーエンなど、これから何度も顔を見ることになるであろう若手が勢ぞろい。個人的にはスカイ・フェレイラが出てたから観たと言っても過言ではないのだが、まったく期待を裏切らない熱演だった。



 これを読んでいる方の中には「ブラック・メタル」になじみのない方も多いだろう。自分もその1人だったのだが、この映画は詳細を知らずに見ても絶対に面白い。数年前の「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」がそうだったように、ノンフィクションを扱った作品には予習が必須なものも珍しくないが、本作は主人公の語りに乗せて丁寧に説明してくれるので、知らないからといって魅力が損なわれることはない。無知のまま劇場へ繰り出し、フィクション顔負けの衝撃を思い切り味わおう。

 もちろん実際にブラックメタルシーンを生きた監督がメガホンを取った点も非常に重要な意味を持つ、ぜひその狂乱の青春をスクリーンで味わってほしい。得るものがあるかどうかは分からないが、とにかく面白い映画であることは保証する。刺激を求める方、そして灰色の青春を送った方ならばきっと満足できるはずだ。

 映画「ロード・オブ・カオス」は、2021年3月26日より全国ロードショー。

城戸

画像は予告より



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