シュールで社会派でカルト! ジョージア・ロシア合作のアニメ映画「クー!キン・ザ・ザ」レビュー(2/3 ページ)

» 2021年05月15日 12時15分 公開
[ヒナタカねとらぼ]

 だが、かわいらしい絵柄のアニメになったためでもあるのか、シュールでゆるいおかしみは、むしろパワーアップしている。基本プロットはほぼ同じでも細かな違いはたっぷりとあるので、「不思議惑星キン・ザ・ザ」と「クー!キン・ザ・ザ」が同時上映されている劇場で、見比べてみるのも楽しいだろう。

<劇場情報>

 なお、アップリンク吉祥寺のロビーでは、「不思議惑星キン・ザ・ザ」における2メートル超の巨大宇宙船も出現している。きっとその大きさと実在感に、圧倒されるだろう。

 なお、「不思議惑星キン・ザ・ザ」は、現在も口コミでロングランヒットを記録しているストップモーションアニメ映画「JUNK HEAD」の堀貴秀監督が強い影響を受けたと公言している。シュールな雰囲気や、どこかとぼけていてかわいいキャラクターなどに共通点を見い出せるので、こちらも合わせて見てみるのがおすすめだ。

代名詞といえる「クー!」とは?

 「不思議惑星キン・ザ・ザ」および「クー!キン・ザ・ザ」の代名詞的な存在が「クー!」という叫び声だ。

よりすぐり「クー!」41連発

 これは宇宙人たちが使う、あらゆる名詞・形容詞・副詞・感嘆詞などを指す言葉(ただし罵倒語だけは「キュー」)。何でも「クー!」で物事を済ませようとする振る舞いが、かわいらしいと同時にやはりおかしみに満ちていて、見た後は「クー!」とマネをしたくなってしまう。

 ただ、宇宙人たちは地球人の脳をスキャンして思考を読み取るテレパシー能力を持っているため、ロシア語の会話もあっさりとこなすことができる。「クーしか言えないかとおもいきや普通に意思疎通できるやんけ!」はシュールなツッコミどころでもあるが、それでも肝心な時には「クー!」だけで会話をしようとするので、やはりかわいらしくてほっこりと笑顔になれる。

シュールで、かわいい、社会派かつ、ゆるい。アニメ映画「クー!キン・ザ・ザ」レビュー (C)CTB Film Company、Ugra-Film Company、PKTRM Rhythm

身分制度の痛烈な風刺も?

 シュールなギャグが主体のこの「クー!キン・ザ・ザ」であるが、実は身分制度への痛烈な風刺もある。

 例えば、社会的地位がズボンの色により区別されており、緑色は下級者、黄色は偉い人、そして赤いズボンはエリートとされている。さらに、下級者は上級者への忠誠の誓いとして、鈴を鼻につけ、自分の頬を2度たたき、膝を曲げて「クー!」のあいさつをしなくてはならないなど、独特なルールが設けられているのだ。

シュールで、かわいい、社会派かつ、ゆるい。アニメ映画「クー!キン・ザ・ザ」レビュー (C)CTB Film Company、Ugra-Film Company、PKTRM Rhythm

 1986年製作の実写版「不思議惑星キン・ザ・ザ」は「表向きは平等を唱えていた社会主義体制下のソ連の政治体制を皮肉めいた視点で描いている」と評されてもおり、当時の「鉄のカーテン」を示唆する場面もあった。

 現代に作られた「クー!キン・ザ・ザ」は携帯電話の他、「出稼ぎの外国人労働者」という現代的な事象も描かれるようになり、惑星での社会的地位の格差が、富裕層と貧困層の分断が顕在化した今のロシアの(または世界中にある)問題を、改めて痛烈に皮肉っていると言っていいだろう。

シュールで、かわいい、社会派かつ、ゆるい。アニメ映画「クー!キン・ザ・ザ」レビュー (C)CTB Film Company、Ugra-Film Company、PKTRM Rhythm

 また、これまでゆるい、ほっこりするなどと作品の印象を書いてきたが、前述したかわいらしい「クー!」のあいさつにさえも、身分制度にまつわる問題が見て取れるという、社会派かつ多層的な構造がある。

 さらに、おかしな道中の先には意外な展開が待ち受けており、唐突に見える展開にも実は周到な伏線が用意されていたりする。何となく見ているだけでも楽しいが、作品のディテールを探ってみると奥深い内容であることも分かることだろう。

シュールで、かわいい、社会派かつ、ゆるい。アニメ映画「クー!キン・ザ・ザ」レビュー (C)CTB Film Company、Ugra-Film Company、PKTRM Rhythm

 なお、「不思議惑星キン・ザ・ザ」および「クー!キン・ザ・ザ」で監督を務めたゲオルギー・ダネリヤは2019年に88歳で逝去した。今回の「クー!キン・ザ・ザ」の日本公開には、監督への追悼の意味も込められているのだろう(事実、その命日である4月4日に先行公開もされていた)。ぜひ、ヘンテコだが奥深い、一風も二風も変わった映画を期待して、劇場で見ていただきたい。

ヒナタカ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

昨日の総合アクセスTOP10
  1. /nl/articles/2411/16/news007.jpg まるで星空……!! ダイソーの糸を組み合わせ、ひたすら編む→完成したウットリするほど美しい模様に「キュンキュンきます」「夜雪にも見える」
  2. /nl/articles/2411/16/news013.jpg 自宅のウッドデッキに住み着いた野良の子猫→小屋&トイレをプレゼントしたら…… ほほ笑ましい光景に「やさしい世界」「泣きそう」の声
  3. /nl/articles/2411/15/news016.jpg 「飼いきれなくなったからタダで持ってきなよ」と言われ飼育放棄された超大型犬を保護→ 1年後の今は…… 飼い主に聞いた
  4. /nl/articles/2411/17/news066.jpg 「ヤバすぎwwww」 ハードオフに1万8700円で売っていた“衝撃の商品”が690万表示 「とんでもねぇもん見つけた」
  5. /nl/articles/2411/16/news014.jpg 330円で買ったジャンクのファミコンをよく見ると……!? まさかのレアものにゲームファン興奮「押すと戻らないやつだ」
  6. /nl/articles/2411/14/news014.jpg ドクダミを手で抜かず、ハサミで切ると…… 目からウロコの検証結果が435万再生「凄い事が起こった」「逆効果だったとは」
  7. /nl/articles/2411/11/news056.jpg 大量のハギレを正方形にカット→つなげていくと…… “ちょっとした工夫”で便利アイテムに大変身! 「どんな小さな布も生き返る」
  8. /nl/articles/2411/17/news038.jpg 58歳でトレーニングを始めたおばあちゃん→10年後…… まさかまさかの現在に「オーマイガー!!!」「これはAIですか?」【海外】
  9. /nl/articles/2411/17/news039.jpg 母犬に捨てられ山から転げ落ちてきた野良子犬、驚異の成長をみせ話題に 保護から6年後の“現在”は……飼い主に話を聞いた
  10. /nl/articles/2411/17/news004.jpg 「水曜どうでしょう」“伝説のシーン”そっくりな光景にネット騒然 「ダメだ笑っちゃう」「なまら怖い」
先週の総合アクセスTOP10
  1. アレン様、バラエティー番組「相席食堂」制作サイドからのメールに苦言 「偉そうな口調で外して等と連絡してきて、」「二度とオファーしてこないで下さぃませ」
  2. 「母はパリコレモデルで妹は……」 “日本一のイケメン高校生”グランプリ獲得者の「家族がすごすぎる」と驚がくの声
  3. 「何言ったんだ」 大谷翔平が妻から受けた“まさかの仕打ち”に「世界中で真美子さんだけ」「可愛すぎて草」
  4. 「真美子さんさすが」 大谷翔平夫妻がバスケ挑戦→元選手妻の“華麗な腕前”が話題 「尊すぎて鼻血」
  5. イモト、突然「今日まさかの納車です」と“圧倒的人気車”を購入 こだわりのオプションも披露し光岡自動車からの乗り換えを明かす
  6. 「この動画お蔵かも」 親子デートの辻希美、“食事中のマナー”に集中砲火で猛省……16歳長女が説教「自分がやられたらどう思うか」
  7. 老けて見える25歳男性を評判の理容師がカットしたら…… 別人級の変身と若返りが3700万再生「ベストオブベストの変貌」「めちゃハンサム」【米】
  8. 「ガチでレア品」 祖父が所持するSuica、ペンギンの向きをよく見ると……? 懐かしくて貴重な1枚に「すげえええ」「鉄道好きなら超欲しい」と興奮の声
  9. 「デコピンの写真ください」→ドジャースが無言の“神対応” 「真美子さんに抱っこされてる」「かわいすぎ」
  10. 「天才」 グレーとホワイトの毛糸をひたすら編んでいくと…… でっかいあのキャラクター完成に「すごい」「編み図をシェアして」【海外】
先月の総合アクセスTOP10
  1. 50年前に撮った祖母の写真を、孫の写真と並べてみたら…… 面影が重なる美ぼうが「やばい」と640万再生 大バズリした投稿者に話を聞いた
  2. 「食中毒出すつもりか」 人気ラーメン店の代表が“スシローコラボ”に激怒 “チャーシュー生焼け疑惑”で苦言 運営元に話を聞いた
  3. フォロワー20万人超の32歳インフルエンサー、逝去数日前に配信番組“急きょ終了” 共演者は「今何も話せないという状態」「苦しい」
  4. 「顔が違う??」 伊藤英明、見た目が激変した近影に「どうした眉毛」「誰かとおもた…眉毛って大事」とネット仰天
  5. 「ごめん母さん。塩20キロ届く」LINEで謝罪 → お母さんからの返信が「最高」「まじで好きw」と話題に
  6. 星型に切った冷えピタを水に漬けたら…… 思ったのと違う“なにこれな物体”に「最初っから最後まで思い通りにならない満足感」「全部グダグダ」
  7. 「泣いても泣いても涙が」 北斗晶、“家族の死”を報告 「別れの日がこんなに急に来るなんて」
  8. ジャングルと化した廃墟を、14日間ひたすら草刈りした結果…… 現した“本当の姿”に「すごすぎてビックリ」「素晴らしい」
  9. 母親は俳優で「朝ドラのヒロイン」 “24歳の息子”がアイドルとして活躍中 「強い遺伝子を受け継いだ……」と注目集める
  10. 「幻の個体」と言われ、1匹1万円で購入した観賞魚が半年後…… 笑っちゃうほどの変化に反響→現在どうなったか飼い主に聞いた