日本初の「かに寿し」駅弁を生み出した会社の駅弁づくりに密着(1/12 ページ)
毎日1品、全国各地の名物駅弁を紹介! きょうは「かに寿し」を生み出したアベ鳥取堂編(1)です。
「駅弁屋さんの厨房ですよ!」第25弾・アベ鳥取堂編(第1回/全6回)
「駅弁、種類が多過ぎて、何にしたらいいかわかんない!」。ターミナル駅に響く旅行者の心の叫び。そのなかで敢えて人気食材のツートップを選ぶなら、肉は「牛肉」、魚介系は「かに」になりましょうか。ただ、牛肉は通年でいただけるのに対し、かには冬が旬。しかし、いまでは1年を通じて美味しいかにをいただくことができるようになりました。そのきっかけの1つとなった駅弁が鳥取にあります。
京都から東海道・山陽本線を通って、兵庫県の上郡から第3セクターの智頭急行に入り、因美線を経由して鳥取を目指す特急「スーパーはくと」。一部の列車は、山陰本線に乗り入れて、倉吉まで直通しています。平成6(1994)年12月の運行開始から25年あまり、関西と鳥取を結ぶ列車として定着。智頭急行HOT7000系気動車が、パワフルに山陰路を駆け抜けています。
この「スーパーはくと」が発着する鳥取駅の駅弁を手掛けるのが「アベ鳥取堂」です。当初は、かにの旬にあわせて鳥取駅弁のご紹介を予定していましたが、緊急事態宣言に伴う東京からの移動自粛のため、3月に入ってからの訪問となりました。
アベ鳥取堂の名物、「元祖かに寿し」(1280円)! 昭和27(1952)年の発売から、来年(2022年)で70年、昭和33(1958)年の通年販売開始からも60年以上経つロングセラー駅弁です。日本海を想起させる水色に、大きく描かれた赤いかにの絵が目を引く、伝統のパッケージ。鳥取駅はもちろん、東京駅の「駅弁屋祭」や催事等で販売されることも多く、全国でおなじみの駅弁です。
鳥取駅南口から歩いて8分ほどのところにあるアベ鳥取堂の社屋。まず見せていただいたのは、かにの仕込み風景です。早朝、アベ鳥取堂の調理場には、かにとお酢の香りがいっぱいに広がっていました。
旬の時期に獲れたベニズワイガニを冷凍し、通年販売している元祖かに寿し。その日に製造するぶんだけ冷凍庫から取り出して、流水で解凍されます。解凍されると、いよいよ仕込みがはじまります。
アベ鳥取堂・オリジナルの技術でつくられているという元祖かに寿し。手作業でほぐされているというかにの身は、同じかにだけでなく、別のかにを混ぜることで、より美味しさが増すと言います。
ほぐし身、棒肉ともにアベ鳥取堂秘伝の調味料が加えられ、優しく揉み込まれていきました。そして、かにはこのまま丸1日寝かされて、翌日の盛り付けを待つわけです。なるほど! この寝かされている間に、あの独特の味わいがつくられていくのですね。
さあ、アベ鳥取堂・秘伝の味がたっぷり仕込まれたベニズワイガニの身を使って「元祖かに寿し」の盛り付けが行われていきます。
かにの甲羅を模した八角形の折にはあらかじめ酢飯が詰められていて、その上に錦糸玉子と刻み生姜が敷かれ、そしてカニのほぐし身が盛り付けられます。錦糸玉子は調理場でつくられる一方、刻み生姜もオリジナルの味付けとなっています。
続けてかにの棒肉が4本、丁寧に載せられて、紅白のかにと自社生産の錦糸玉子、オリジナルの刻み生姜による、彩り華やかな盛り付けができ上がってきました。さらにオリジナルの塩昆布と奈良漬が詰められて、「元祖かに寿し」は概ね完成。
ちなみに昆布は北海道産、奈良漬は兵庫県の酒蔵で加熱処理をせずに製造しており、ともにできるだけ添加物を減らしているのが特徴だと言います。
盛り付けが終わったら、透明のシートを挟んで紙蓋が載せられます。ふたが閉じられると、おなじみ水色のパッケージに入れられます。冬季限定だった当初は冬の山陰の海らしく緑色の掛け紙でしたが、通年販売になったころ、夏の海に近い水色になったと言います。さあ「元祖かに寿し」の完成! 鳥取駅はもちろん、倉吉駅や鳥取空港、さらに新大阪・京都などの関西主要駅の駅弁売店をはじめ、遠く東京駅へと出荷されていくわけですね。
【おしながき】
- 酢飯
- ベニズワイガニ
- 錦糸玉子
- 奈良漬け
- 塩昆布
何度いただいても、また食べたくなる、アベ鳥取堂の「元祖かに寿し」。今回、製造風景を見せていただいて、かにの身や酢へのこだわりが、想像以上に大きく、盛り付けはあっという間でも、じつはとても手が込んでいる駅弁だと感じました。パッケージの爽やかさ、彩りの華やかさはもちろん、このこだわりがあるからこそ、70年近い歴史を紡いでいる……ロングセラー駅弁に“こだわり”ありです。
倉吉を発車して、山陰海岸を望みながら、鳥取から京都を目指す特急「スーパーはくと」。きっと、「元祖かに寿し」を買い込んだ乗客もいることでしょう。
駅弁膝栗毛の人気特集企画「駅弁屋さんの厨房ですよ!」第25弾・アベ鳥取堂編。次回からは、40年近くにわたってアベ鳥取堂のトップを務める阿部正昭(あべ・まさあき)代表取締役社長に、鳥取駅弁のさまざまなエピソードを伺ってまいります。
(初出:2021年4月10日)
連載情報
ライター望月の駅弁膝栗毛
「駅弁」食べ歩き15年の放送作家が「1日1駅弁」ひたすら紹介!
著者:望月崇史
昭和50(1975)年、静岡県生まれ。早稲田大学在学中から、放送作家に。ラジオ番組をきっかけに始めた全国の駅弁食べ歩きは15年以上、およそ5000個!放送の合間に、ひたすら鉄道に乗り、駅弁を食して温泉に入る生活を送る。ニッポン放送「ライター望月の駅弁膝栗毛」における1日1駅弁のウェブサイト連載をはじめ、「鉄道のある旅」をテーマとした記事の連載を行っている。日本旅のペンクラブ理事。
駅弁ブログ・ライター望月の駅弁いい気分 https://ameblo.jp/ekiben-e-kibun/
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