日本・サウジアラビア合作のアニメ映画「ジャーニー」レビュー バーフバリ的な大戦闘と古谷徹と神谷浩史の関係性でご飯何杯でもいけた(2/3 ページ)
さらに、監督は劇場版「名探偵コナン」シリーズや「シドニアの騎士」を手掛けた静野孔文、キャラクター原案をゲーム「逆転裁判」シリーズの岩元辰郎、音楽制作を「忠臣蔵外伝 四谷怪談」で第18回日本アカデミー賞で優秀音楽賞を受賞した和田薫が担当と、最強レベルのスタッフたちがアッセンブルしている。スケールの大きい戦闘描写に迫力があるのはもちろん、それぞれの戦士の剣闘がスピーディーかつスタイリッシュに仕上がっており、スクリーンで見るアニメ映画としての見応えも抜群だった。
また、映画の基本構成とコンセプトを手掛け、制作後も東映アニメーションと共に全てのプロセスに関わったのは「マンガプロダクションズ」。サウジアラビアの皇太子が2011年に設立した、「ミスク財団」の子会社であるアニメ制作会社だ。2020年末にはそのミスク財団が、人気格闘ゲーム「キング・オブ・ファイターズ」などで知られる日本企業「SNK」を買収したことで話題になったのも記憶に新しい。
マンガプロダクションズの代表取締役イサム・ブカーリは、「アラブには現地の人々はもちろんのこと世界中の視聴者を魅了するようなコンテンツが不足している」「世界的な制作会社と競い合える質の高い作品がない」ことを課題に上げている。また海外の制作会社ではアラブの文化、人々、宗教について正しく伝えることが困難であるとの考えから、「『ジャーニー』を国際競争力のあるクリエイティブコンテンツにすること」を目標に掲げ製作したそうだ。
実際の本編は、アラブの人々の文化や信仰心へのリスペクトが存分にあり、後述する「4つの説話」が語られるという非常にボリューミーな内容でもあった。日本最強レベルの豪華キャストの熱演とスタッフによるハイクオリティーなアニメのおかげもあり、「アラブのことを世界に送り届けたい!」というパッションは「これでもか」と伝わることだろう。
4つのアラブの説話が展開する大ボリューム
本作のさらなる特徴は、合計で4つのアラブの説話が展開することだ。戦士たちが侵略者に立ち向かうメインの物語は「アブラハと象の軍隊」であり、要所要所で「ノアの方舟」「モーゼの奇跡」「円柱のイラム」という3つの説話が挟み込まれる構成になっているのである。
この3つのアラブの説話が語られるシーンのクオリティーも高い。それぞれがアーティスティックで美しく、現地でプロの演奏家と一緒に録音したという民族音楽も印象に残る。
キャラクター原案の岩元辰郎は、この説話シーンのために110枚の絵を一人で描ききっているそうだ。しかも、それぞれの説話のナレーションを担当するのは、古谷徹、三石琴乃、堀秀行という、やっぱり耳が幸せ大気圏越えのぜいたくさなのである。
ただ、これら3つの説話が始まると「話が止まってしまう」問題が浮上している、というのも正直なところだ。メインの物語が面白く先が気になるだけに「説話はもうお腹いっぱいかな……」という気持ちになってしまう方もいることだろう。
静野監督も「本編のドラマの中に意味付けを考えて3つの説話を組み込むのが難しかった」と語っており、確かにその苦労のあとが見られる。とはいえ、それぞれの説話はメインの物語における登場人物の主義主張にリンクしているし、話に一定の区切りのついた場面(緊急時ではない)に挿入される。なるべくストレスなく見られるよう、冨岡淳広による脚本には存分に工夫が凝らされていた。
ぜひ、「またメインの話を止めてしまう説話か……」とネガティブに捉えず、「アラブの説話を美しい画と豪華声優のナレーションで楽しめるぞ!」と気持ちを切り替えて見てみることをおすすめしたい。全体的な物語を振り返ってみれば、決して無理やり関係のない話がぶっ込まれているというわけではない、「勇気」や「忍耐」の大切さを訴える物語の精神性が一貫していることも分かるはずだ。
また、それぞれの説話には「神への信仰」という要素が強く入っており、無宗教者も多い日本人にとって入り込みにくいところがあるのも事実だろう。だがその点では、前述した神谷浩史ボイスのキレイゴトが嫌いなニヒルな傭兵が、「ノアの方舟」の説話を話す主人公に対して、冷ややかな態度を取っているのが効果的だった。
客観的かつ批判的な視点があるため、「宗教くささ」が苦手だという方でも受け入れやすくなっているのだ。悪役が「神を信じれば解決するのか?」という価値観のもと、圧倒的な力による侵略を試みているのも、主人公の対比としてうまく生かされていた。
何より、主人公が確かな「信念」を持って戦いに挑む。困難な道へ進み、そして「希望」をつかみとるまでの物語は、むしろ日本人にこそ響くのではないだろうか。何より、アラブの説話を、ここまでのハイクオリティーのアニメをもって世に送り届けるというパッションにあふれた作品は今までになかっただろう。その志の高さに加えて、ライバルキャラとの関係性に萌え死にしそうにもなる、万人が楽しめるエンターテインメントに仕上げているのが実に偉い。ぜひ、劇場でご覧になって欲しい。
(ヒナタカ)
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