「映画ドラえもん のび太の宇宙小戦争 2021」レビュー 国際情勢と奇しくもシンクロした、大切なメッセージ(2/3 ページ)

» 2022年03月09日 12時00分 公開
[ヒナタカねとらぼ]
※本記事はアフィリエイトプログラムによる収益を得ています

 今回は旧作にはいなかったオリジナルキャラクターである、パピの姉のピイナも登場する。彼女の存在によって、パピも大好きな家族を大切にするごく普通の少年であることや、時には「姉に子ども扱いをされることに不満を持つ子どもっぽさ」も表現されていた。

「映画ドラえもん のび太の宇宙小戦争 2021」レビュー ウクライナ侵攻のタイムリーさと、大切な「やれるだけのことをやる」メッセージ 新キャラクターでパピの姉・ピイナ(新予告より)

 パピは8歳で大学を卒業しており、ピリカ星では年齢に関係なく好きな仕事に就けることも告げられる。そのような価値観の社会に生まれた、非の打ち所がないよう少年大統領であっても(だからこそ)、今回は「まだ10歳の子どもなんだ」という視点がいくつか付け加えられているため、より彼が愛おしくなるし、のび太たちとの友情も強固なものに感じられるようになっているのだ。

過去最高のスネ夫の愛おしさ

 少年大統領のパピだけでなく、スネ夫の気持ちに寄り添う描写も増えている。前述したスネ夫が戦争の恐怖におびえる様は、旧作では話し相手のロコロコのおしゃべりにうんざりして耳をふさぐというギャグで一旦は処理されていたのだが、今回のスネ夫はパピと正直な気持ちを伝え合うだけでなく、のび太たちも部屋のすぐそばで聞き耳を立てて心配するなど、みんなが彼をおもんばかるような変更が加えられているのだ。

「映画ドラえもん のび太の宇宙小戦争 2021」レビュー ウクライナ侵攻のタイムリーさと、大切な「やれるだけのことをやる」メッセージ (画像は新予告より)

 終盤でまたもふさぎ込むスネ夫に対し、しずかが「スネ夫の脱げた片方の靴をどうしたか」も細かいようでいて、大きな変更点となっている。

 思い返せば「戦争が怖いから逃げたい」と思うスネ夫の気持ちは、彼もまた10歳前後の子どもなのだから当然だ。そうした「子どもの気持ちに寄り添う」描写が増えたことに加えて、やがて勇気を振り絞って立ち上がるスネ夫の愛おしさも過去最高になっている。そして、これらの描写が素晴らしいだけに、「子どもは絶対に戦争に参加させたくない」「スネ夫はもう逃げていいよ!」という気持ちも生まれてくる。

 「『ドラえもん』の映画だから子どもののび太たちが戦う」という当然の構造があるので、そこにツッコむのはやぼでもある。しかし、現実に子どもも犠牲になる戦争というものに目を向けさせる意義を、やはり感じてしまう。

「やれるだけのことをやる」

 脚本を務めた佐藤大はパンフレットで、旧作で見つけた、作品のテーマを示しているセリフについて語っている。そのセリフとは、しずかの「そりゃあわたしだって怖いわよ。でも……。このまま独裁者に負けちゃうなんて、あんまりみじめじゃない! やれるだけのことをやるしかないんだわ」だった。

 それを踏まえてか、今回ののび太もまた「ぼくはパピくんみたいに頭は良くないし、不器用だし、度胸もない……。けど何か1つくらいなら、君ができないことでもやれるかもしれない」と口にする。

 しずかだけでなく、のび太もまた、大切な友達のために「やれるだけのことをやる」心情を吐露するようになっているのだ。この他にも、スネ夫が乗り込むラジコン機を改造したり、ロコロコの長いおしゃべりでの時間稼ぎなども、それぞれのキャラクターの「できること」として際立つようになっていた。

「自分にウソをつきながら生きてはいけない」

 さらに佐藤は「現実ではフェイクニュースが溢れ、何が本当のことなのかとてもわかりづらい。偉い人ほどうまくウソをつくこんな時代だからこそ、決してウソをつかない少年大統領の姿をしっかり描くべきだ」と語っている。

 旧作でも、少年大統領のパピが「私が一度でもウソをついたことがあるか?」と聞く場面があったので、それも踏まえてアップデートしたといえるだろう。今回の終盤でパピは「自分にウソをつきながら生きてはいけない」という大切なメッセージを国民に投げかける。それは現実の独裁者がまさに陥っているのかもしれない、愚かな言動への批判でもあったのだ。

 さらに佐藤は「決してウソをつかない。やれるだけのことをやるしかない。F先生の描く、こうしたいつまでも変わらない普遍的な価値観こそ、どんな時代でも、むしろ今の時代からこそ響くメッセージになる」とも告げている。まさか、ここまでタイムリーにメッセージが突き刺さる内容になるとは、誰も予想していなかっただろう。

困難な今の時代だからこそ見てほしい

 もちろん、「映画ドラえもん のび太の宇宙小戦争 2021」は難しいことを考えなくても単純明快なエンターテインメントとして存分に楽しめる。筆者は旧作を見たことがない5歳と4歳のおいっ子を連れて行ったのだが、終盤のとあるスペクタクルに2人とも大笑いしながら喜んでいた。

 一方で、本作には子どもにも現実の世界にある問題を考えてほしいという意向が、間違いなくある。ウクライナ侵攻が起きている今、同じような悲劇を創作物で体験したくないという方もいるかもしれないが、その先にある「やれるだけのことをやるしかない」「自分にウソをつきながら生きてはいけない」というメッセージは、この困難な時代でこそ、為政者はもちろん、全ての人がいま一度考えるべき、大切な価値観だと強く思えたのだ。だからこそ、大人も子どもも本作を劇場で見て、語り合ったりしてみてほしい。

ヒナタカ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

昨日の総合アクセスTOP10
  1. /nl/articles/2503/24/news044.jpg 「これは桁違い」 コメダで商品を注文 → “想像以上の逆詐欺”に思わず呆然 「もはややけくそ笑」「他の店だったら……」
  2. /nl/articles/2503/22/news007.jpg ディズニーランドがオープンした1983年当時、カップルだった2人→37年後…… 目頭が熱くなる現在の姿に感動
  3. /nl/articles/2503/21/news067.jpg 「なんでこんなに似てるの」 2つのJR駅を比較→“想像以上の激似”に「駅名だけ入れ替えても気づかなそう」 投稿者に話を聞いた
  4. /nl/articles/2503/18/news071.jpg 息子の小学校卒業で腕を組んだ34歳母→中学校で反抗期を迎えて…… 6年後の姿に反響 「本当に素敵!」「お母さん、変わってない!?」
  5. /nl/articles/2503/19/news019.jpg 水族館のイカに“指でハート”をしてみたら… “まさかのお返し”が190万表示「こ、こんなことあるのか」
  6. /nl/articles/2503/21/news163.jpg Koki,、豪邸すぎる“木村家の一室”がウソみたいな広さ! 共演者も間違えてしまうほどの空間にスタジオビックリ「コレ自宅!?」「ちょっと見せて」
  7. /nl/articles/2503/22/news074.jpg 5年以上カットしていない白髪の女性が髪を切ると…… プロの手による“驚きのイメチェン”に「20歳若返った」「魔法のようだ」【海外】
  8. /nl/articles/2503/20/news026.jpg プロが本気で“アンパンマンの塗り絵”をしたら…… 衝撃の仕上がりが550万再生「凄すぎて笑うしかないw」「チーズが、、、」 話題になった作者に話を聞いた
  9. /nl/articles/2503/22/news053.jpg 「また凄いの出たな」 ワークマン“1780円多機能ポーチ”に反響続出「コスパ最高」「使ってみたいな」
  10. /nl/articles/2503/22/news045.jpg 舞浜のマクドナルドでマカロンを頼んだら…… まさかの“神対応”が35万表示「天才すぎるだろ」「技術すごい」
先週の総合アクセスTOP10
  1. 雑草ボーボーの運動場に“180羽のニワトリ”を放ったら…… 次の日、まさかの光景に「感動しました」「すごい食欲」
  2. 40歳・女性YouTuber「18年間、脇毛を処理していない」→“処理しない理由”語る 「脇のみならず……」
  3. 「恩師ビックリするやろなぁ」 中学3年で付き合い始めた“同級生カップル”が10年後…… まさかの現在に反響
  4. 使わない靴下をザクザク切って組み合わせると…… 目からウロコの再利用法が2500万再生「とてもクリエイティブ」【海外】
  5. ペットのカエルを土に埋め、約半年間放置→掘り返してみたら…… 「すげぇ」予想外の結末に「ほんと不思議」
  6. 「絶対当たったわこれ」→「は?」 ガリガリ君の棒に書かれていた“衝撃の文章”に「そうはならんやろ」 投稿者に当時の思いを聞いた
  7. コメダ珈琲店で「軽い食事」を注文 → 出てきた“まさかの実物”に思わず大仰天 「逆詐欺ですね」「軽食という名の主食」
  8. 最恐雑草“ヤブガラシ”根元をハサミでチョキッと切ると…… “驚愕の結末”に「すごい」「知りませんでした」
  9. 「笑い過ぎて涙が」 小学生次男、宿題で先生に不正を疑われる→まさかの原因が530万表示 「じわじわくる」 投稿者に話を聞いた
  10. 大阪梅田駅で撮影された“奇跡のような光景”に「今まで見たことない」「本当に贅沢な眺めだ」 全ホームにマルーンカラーが整列
先月の総合アクセスTOP10
  1. 最初に軽く結ぶだけで…… 2000万再生された“マフラーの巻き方”に反響「これは使える」「素晴らしいアイデア」【海外】
  2. コメダ珈琲店で朝、ミックスサンドとコーヒーを頼んだら…… “とんでもない事態”に爆笑「恐るべし」「コントみたい」
  3. パパに抱っこされる娘、13年後の成人式に同じ場所とポーズで再現したら…… 「お父さん若返った?笑」「時止まってる」2人の姿に驚き
  4. 和菓子屋で、バイトの子に難題“はさみ菊”を切らせてみたら……「将来有望」と大反響 その後どうなった?現在を聞いた
  5. 古いバスタオルをザクザク切って縫い付けると…… 目からウロコの再利用に「すてきなアイデア」【海外】
  6. 「14歳でレコ大受賞」 人気アイドルがセクシー女優に転身した理由明かす 家族、メンバー、ファンの“意外な反応”
  7. 希少性ガンで闘病中だったアイドル、死去 「言葉も発せないほどの痛み」母親が闘病生活を明かす
  8. “きれいな少年”が大人になったら→「なんでそうなったw」姿に驚がく 「イケメンの無駄遣い」「どっちも好きです!笑」
  9. ドブで捕獲したザリガニを“清らかな天然水”で2週間育てたら…… 「こりゃすごい」興味深い結末が195万再生「初めて見た」
  10. 芸能界引退した「ショムニ」主演の江角マキコ、58歳の近影にネット衝撃「エグすぎた」 突然顔出しした娘とのやりとりも話題に