ちょっとブリジットについて語らせてくれ! 「男の娘」として生まれたキャラクターが現実の「トランスジェンダー」についても知見を投げかける理由(1/2 ページ)

20年目のかわいいは正義。

» 2022年08月20日 19時00分 公開
[ヒナタカねとらぼ]
※本記事はアフィリエイトプログラムによる収益を得ています

 3D対戦アクションゲーム「GUILTY GEAR STRIVE(ギルティギアストライブ)」で人気キャラクター「ブリジット」の参戦が話題となっている。

ブリジットのキャラクタートレーラー

 ブリジットのシリーズ初登場は2002年。「どう見ても可憐(かれん)な女の子だけど、実は男の子」というキャラクターは各方面に衝撃を与え、現在に至るまで萌え文化における「男の娘」を大きくけん引してきた存在といえる。

 しかも前作に当たる「GUILTY GEAR Xrd」でブリジットは未登場であり、長い長い月日を経ての「王の帰還」だった。Steamでプレイヤー人口が5倍になるというニュースもさもありなん、あらためてその人気ぶりを見せつける結果となった。

 そして、今作のブリジットは、萌え文化と深い結び付きを持つ「男の娘」という概念に限らず、現実のトランスジェンダーへの理解をも促す、重要な知見を携えているとも思うのだ。その理由を記していこう。

ブリジットが「男の娘」だけでなく「トランスジェンダー」へも重要な知見を投げかけた理由 ブリジットのかわいい画像はキャラクタートレーラーより

以前とは変わった状況

 今作のブリジットは、まず公式サイトの紹介文が興味深い。紹介文では「以前とは状況が異なる」ことと、「自分探し中」であることが書かれているのだ。

 要点をまとめると、ブリジットは村の迷信のために女の子として育てられ、以前は「両親のため」「村の迷信を覆すため」という2つの目標のために、「男として」生きようと考えたこともある。だが、ブリジットは賞金稼ぎとして成功して村に莫大な金銭を仕送りでき、それらの目標がなくなったため、今は「自分のために」生きていてもいいという、人生の節目を迎えているのだ。

※以下、「GUILTY GEAR STRIVE」のブリジットに関するネタバレを含みます。

ブリジットの出した結論は

 実際にゲームを遊んでみると、今回のブリジットは性自認に悩み、その末にはっきりと結論を出すセリフがある。

 初めこそブリジットは「お嬢ちゃん」と呼ばれ「ウチは男です……いろいろあって女の子の格好しているだけで……」と答えるのだが、最後には「ここでごまかしちゃったら後悔するから」と決意を語った後、「(呼び方は)お嬢ちゃんでいいですよ。ウチは、女の子ですから!」と宣言するのだ。

 つまりは、これまでは「両親のため」「村のため」に女の子として生きるのか、男の子として生きるのかと葛藤していたブリジットが、それらからも解き放たれ、100%自分の気持ちに従って「女の子である」自分を認めた、ということだ。

ブリジットが「男の娘」だけでなく「トランスジェンダー」へも重要な知見を投げかけた理由 ブリジットの超かわいい画像はキャラクタートレーラーより

 ブリジットが出した「そのままの自分でいい」という結論は、性自認の話に限らないものと解釈することもできるだろう。これまでと同じように、賞金稼ぎとしての才能を開花させた、かわいい格好の女の子の自分のままで、正直に生きればいいというブリジットの姿は、およそ20年前から存在を知っているブリジットのファンには感慨深いものがある。

 さらに、テーマ曲「The Town Inside Me」の歌詞からも、ブリジットの複雑な心境と、その変化を読み解くことができる。例えば、「Only I'm not there. Just watching from afar(そこにウチはいなくて、見ていることしかできない)」はみんなとは違うという疎外感を、「I've had the gray haze for a long time though(ずっと灰色の靄がかかっていた)」は性自認にモヤモヤしていた気持ち、「No matter what changes, will no longer change me(何がどう変わろうとしても、私は変わらない)!」はやはり前述した「女の子である」「そのままの自分でいい」ブリジットの心境そのものだろう。

悪しきミームからの解放

 今回のブリジットは新たにトランスジェンダーの女性として描かれており、海外ではこれまでの「TRAP(罠、騙す)」と称するトランスフォビア(嫌悪)的なミームから解き放たれたと解説する記事も見受けられる。「どう見ても可憐な女の子だけど実は男の子」というのはブリジットの魅力かつ人気の理由でもあるが、海外では侮辱的なニュアンスで揶揄(やゆ)されることもあったのだ。

 今回の作り手に、トランスジェンダーへの知見のアップデートをする姿勢があることは間違いない。事実、以前のブリジットは衣装の頭部に 「男性」のマークがあったのだが、今回は「トランスジェンダー」のマークへと変更されている。

ブリジットが「男の娘」だけでなく「トランスジェンダー」へも重要な知見を投げかけた理由 頭部のマークに変更が見られる(画像はキャラクタートレーラーより)

 もちろん、創作物として萌えを主体として生まれた男の娘と、現実のトランスジェンダーは異なる概念であり、本来は分けて考えるべきではあるだろう。

 だが、トランスジェンダーへの侮辱的な言葉と関連づけられてしまった悪しき風習をも覆すように、はっきりと「女の子と認める」または「そのままの自分でいい」という結論を導き出したブリジットは、現実にいるトランスジェンダーの当事者の方にとって、勇気をもらえる存在にもなったのではないか。

衣装の変更も重要だった

 また、前述したトランスジェンダーのマークだけでなく、ブリジットの衣装デザインが変わった意義も大きいだろう。何しろ以前のブリジットの衣装はシスター服そのもので、しかも肌の露出が多くセクシーに見えて、そして(未成年と思われる)男の子であり、あまつさえ大きな手錠が腰についているという、聖職者のタブーに思いっきり触れるようなデザインでもあったのだ。

 これにより近年ブリジットの登場が難しくなっていたという説もあったのだが、今回の衣装は「だぼだぼパーカー」へと変更。「十字」はあしらわれているものの、それは必ずしも信仰を示すものではなく、ブリジットが自分の育った環境をこれからも自分のアイデンティティーとして受け止めたものであるとも解釈できる。そして何より、「これまでのブリジットのイメージやかわいらしさをそのままパーカーに落としこんだ」デザインに絶賛に次ぐ絶賛が寄せられているのは当然だ。

ブリジットが「男の娘」だけでなく「トランスジェンダー」へも重要な知見を投げかけた理由 キャラクター性の再構築に成功した秀逸なパーカー(画像はキャラクタートレーラーより)

 しかも、今回のデザインは「男の子っぽい体つきをごまかす方法」としても秀逸であることが指摘されている。手の甲や喉仏を隠し、胸をリボンで結んで膨らみがあるように見せ、腰回りの広がりをスカートっぽく着こなすなど、現実的なセオリーを踏襲しつつ、新たにブリジットのキュートな印象を際立たせることに成功しているのだ。

 そして、その新しいデザインのブリジットを実際にゲームで動かしてみると、ヨーヨーを駆使した戦い方がめちゃくちゃ楽しく、何より思わず「かわいい!」と思ってしまう瞬間が無尽蔵にある。

 常に体を揺らしてウキウキしていたり、ひざを抱えてゆらゆらと体を揺らしたり、人差し指を振りつつ歌いながら歩いたり、勝利シーンでヨーヨーを上昇させつつ「ニカッ」と笑う様など、細やかなアニメーションのおかげもあってとにかくかわいい! ゲームをプレイすればするほど、ブリジットというキャラクターの魅力がこれでもかと表現されていることを、改めて思い知った。

境遇が似た『ヴィンランド・サガ』のキャラクター

 最近のマンガ作品にも、ブリジットの境遇によく似たキャラクターがいる。それは、『ヴィンランド・サガ』(講談社/幸村誠著)24巻より登場する「コーデリア」だ。戦争好きの父親に、生まれたばかりの息子のコーデリアを連れて行かれることを危惧した母親は、とっさの嘘として「生まれてきたのは女の子」と主張し、その後も女の子として育てる。だが、コーデリアは成長すると、父そっくりの筋骨隆々とした体格になってしまうのだ。

 ブリジットとコーデリアには、「親から境遇を哀れられ女の子として育てられた」「成長した後は自分らしく生きる方法を模索していく」という共通点がある。そのブリジットとは違い、コーデリアは体格がコンプレックスとなり、女の子として生きたいと願う心と一致しないという悩みもある。『ヴィンランド・サガ』の時代背景は11世紀初頭であり、トランスジェンダーへの理解や常識などない頃ならではの葛藤もあるように見える。

 また、ブリジットとコーデリアは「女の子として育てられたので性自認も女の子になったのでは」という解釈もできるだろうが、筆者はそうではないと思う。女の子として育てられた環境によって「気付く」きっかけが生まれたというだけで、どちらも性自認はもともと女の子なのだろうと、その振る舞いから大いに思い知らされたのだから。そもそも、性自認が先天的か後天的かという議論よりも、「これからどう生きていくか」のほうが、その人にとって大切なことだろう。

 また、こうした創作物に登場する男の娘やトランスジェンダーのキャラクターから、現実にいるトランスジェンダーの方々の気持ちを想像することは、やはり意義深いことだ。もちろん、それが全ての人に当てはまるとは限らないし、完全な同一視も危険ではあるが、理解の一助として参照できる点はあるだろう。

 そして、かわいくなろうと頑張るキャラクター・人に「かわいい!」と素直に表明することで、世界はもっと平和になると思う。結論としては、ブリジットはいいぞ。あとコーデリアもめっちゃかわいいぞ。

ブリジットのスターターガイド。日本語の字幕をつけられる。

ヒナタカ

       1|2 次のページへ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

昨日の総合アクセスTOP10
  1. /nl/articles/2411/19/news150.jpg 「情報を漏らされ振り回され……」とモデラー“限界声明” Vtuberのモデル使用権を剥奪 「もう支えられない」「全サポート終了」
  2. /nl/articles/2411/20/news028.jpg 「うどん屋としてあるまじきミス」→臨時休業 まさかの“残念すぎる理由”に19万いいね 「今日だけパン屋さんになりませんか」
  3. /nl/articles/2411/20/news224.jpg “ドームでライブ中”に「76万円の指輪紛失」→2日後まさかの展開に “持ち主”三代目JSBメンバー「誰なのか探しています」
  4. /nl/articles/2411/19/news169.jpg 高畑充希と結婚の岡田将生、インスタ投稿めぐり“思わぬ議論”に 「わたしも思ってた」「普通に考えて……」
  5. /nl/articles/2411/20/news031.jpg 「本当に同じ人!?」 幼少期からイボをいじられていた男性→美容師の“お任せカット”が衝撃 「めちゃくちゃ大変身」
  6. /nl/articles/2411/19/news022.jpg 「おててだったのかぁああああ」「同じ解釈の人いた笑笑」 ピカチュウの顔が“こう見えた”再現イラストに共感続々、464万表示
  7. /nl/articles/2411/20/news042.jpg 「腹筋崩壊」 ハスキーをシャンプー&パックしたら…… “予想外のハプニング”に「こ〜れは大変だわ」「沼にでも落ちたのかとwww」
  8. /nl/articles/2411/20/news216.jpg “歌姫”ののちゃん、6歳現在の姿に驚きの声「あれっ!?」「ビックリしてます!」 2歳で「童謡こどもの歌コンクール」銀賞受賞
  9. /nl/articles/2411/20/news041.jpg 黄ばみのある68年前のウエディングドレスを修復すると…… 生まれ変わった姿に「泣いた」「受け継ぐ価値のあるドレス」
  10. /nl/articles/2411/18/news107.jpg 走行中の車から同じ速さで後方へ飛び降りると? 体を張った実験に反響「問題文が現実世界で実行」【海外】
先週の総合アクセスTOP10
  1. 「飼いきれなくなったからタダで持ってきなよ」と言われ飼育放棄された超大型犬を保護→ 1年後の今は…… 飼い主に聞いた
  2. ドクダミを手で抜かず、ハサミで切ると…… 目からウロコの検証結果が435万再生「凄い事が起こった」「逆効果だったとは」
  3. 「明らかに……」 大谷翔平の妻・真美子さんの“手腕”を米メディアが称賛 「大谷は野球に専念すべき」
  4. まるで星空……!! ダイソーの糸を組み合わせ、ひたすら編む→完成したウットリするほど美しい模様に「キュンキュンきます」「夜雪にも見える」
  5. 妻が“13歳下&身長137センチ”で「警察から職質」 年齢差&身長差がすごい夫婦、苦悩を明かす
  6. 人生初の彼女は58歳で「両親より年上」 “33歳差カップル”が強烈なインパクトで話題 “古風を極めた”新居も公開
  7. 「ごめん母さん。塩20キロ届く」LINEで謝罪 → お母さんからの返信が「最高」「まじで好きw」と話題に
  8. 互いの「素顔を知ったのは交際1ケ月後」 “聖飢魔IIの熱狂的ファン夫婦”の妻の悩み→「総額396万円分の……」
  9. ユニクロが教える“これからの季節に持っておきたい”1枚に「これ、3枚色違いで買いました!」「今年も色違い買い足します!」と反響
  10. 中央道から「宇宙戦艦ヤマト」が見える! 驚きの写真がSNSで注目集める 「結構でかい」「どう見てもヤマト」 撮影者の心境を聞いた
先月の総合アクセスTOP10
  1. 50年前に撮った祖母の写真を、孫の写真と並べてみたら…… 面影が重なる美ぼうが「やばい」と640万再生 大バズリした投稿者に話を聞いた
  2. 「食中毒出すつもりか」 人気ラーメン店の代表が“スシローコラボ”に激怒 “チャーシュー生焼け疑惑”で苦言 運営元に話を聞いた
  3. フォロワー20万人超の32歳インフルエンサー、逝去数日前に配信番組“急きょ終了” 共演者は「今何も話せないという状態」「苦しい」
  4. 「顔が違う??」 伊藤英明、見た目が激変した近影に「どうした眉毛」「誰かとおもた…眉毛って大事」とネット仰天
  5. 「ごめん母さん。塩20キロ届く」LINEで謝罪 → お母さんからの返信が「最高」「まじで好きw」と話題に
  6. 星型に切った冷えピタを水に漬けたら…… 思ったのと違う“なにこれな物体”に「最初っから最後まで思い通りにならない満足感」「全部グダグダ」
  7. 「泣いても泣いても涙が」 北斗晶、“家族の死”を報告 「別れの日がこんなに急に来るなんて」
  8. ジャングルと化した廃墟を、14日間ひたすら草刈りした結果…… 現した“本当の姿”に「すごすぎてビックリ」「素晴らしい」
  9. 母親は俳優で「朝ドラのヒロイン」 “24歳の息子”がアイドルとして活躍中 「強い遺伝子を受け継いだ……」と注目集める
  10. 「幻の個体」と言われ、1匹1万円で購入した観賞魚が半年後…… 笑っちゃうほどの変化に反響→現在どうなったか飼い主に聞いた