「『子どもいなくても幸せ』をフラットに捉えて」 “選択子なし夫婦”が抱える世間への「大きな違和感」(1/2 ページ)

Yahoo!ニュースとの共同連携企画「『子どもを持たない夫婦』のいま」の1回目では、その当事者夫婦に取材した。

» 2023年07月30日 18時00分 公開
[ふくだりょうこねとらぼ]

 近年、子どもを意識的に持たない共働き夫婦「DINKS(ディンクス)」をはじめ、子どもを持たない夫婦の形が身近になっている。Yahoo!ニュースとの共同連携企画「『子どもを持たない夫婦』のいま」の1回目では、その当事者夫婦に取材した(2回目はこちら/全2回)。

 DINKS 選択子なし 夫婦 家族 「子どもを持たない夫婦」のいま(画像はイメージです Photo:写真AC

 国立社会保障・人口問題研究所の出生動向基本調査によると、調査時点で結婚から5年〜9年経過した夫婦で子どもがいない人の割合は、1977年は4.2%だったが、2021年は12.3%と、長期的には増加傾向にある。

 DINKS 選択子なし 夫婦 家族 結婚持続期間5〜9年の夫婦の出生子ども数の分布(Photo:第16回出生動向基本調査

 DINKSを含め、生涯にわたり夫婦2人だけで生活していくことがめずらしくなくなりつつある現代。その背景にはどのような価値観があるのか。夫婦のありのままの生活と、世間に対する違和感に迫った。

「子どもって絶対に持たなきゃいけないのかな?」と疑問が生まれた

 今回、お話を伺ったのは、“子なし夫婦”に役立つ情報を発信するとうたうWebマガジン「DINKS MAGAZINE」を運営する編集長のサトミさんと、夫のケイタさん(いずれも仮名)。

 DINKs 選択子なし 夫婦 家族 “子なし夫婦”に役立つ情報を発信するとうたうWebマガジン「DINKS MAGAZINE

 年齢はともに30歳で、今年で結婚4年目。今は夫婦2人の生活を送っており、その時間を満喫している。共通の趣味もあり、食の好みも合う。特段話し合ったわけではないが、年齢を重ねるうちに自然と現在の子どもを持たない生活に落ち着いていった。

 「子どもを持たないことにこだわっているわけではありません。ただ、夫婦2人の生活を楽しむ時間が限られてしまうよりは、今の生活が充実しているので、2人の時間を優先しようかな、ということで今はこのような生活を送っています」とケイタさん。

 サトミさんは夫の考えに「大部分は同じ考え」としつつ、1つの疑問があったという。

 「30歳が近づいて子どもを持つ友達が増えていくにつれて、『子どもって絶対に持たなきゃいけないのかな?』と疑問に思ったんです。それまでは高校、大学に行って就職をする、という大多数が歩む道を私も同じように生きていたけれど、初めて人と違う感覚を覚えました。
 ネガティブな理由ではなく、夫婦2人の生活が楽しいし、私の人生をこのまま生きていきたいんだけど、ほかにそんな人はいないのかな、と」(サトミさん)

 そんな疑問がDINKS MAGAZINEを立ち上げるきっかけにもなっている。立ち上げ当初に比べると、記事を作るなかで同じ価値観や考え方の人が多くいることを知った。しかし、当時は少なからず、焦りや孤独は感じていたと語る。

 「まわりは結婚して1〜2年したら子どもを持つ友だちが多かったです。友だち同士で集まると『子どもを持つか持たないか』の話ではなく『子どもの人数は1人か2人か』という話題で盛り上がっていたので、寂しさはありましたね」(サトミさん)

夫婦2人の生活を支える“共通の趣味”と“別財布”

 夫婦共通の趣味であるキャンプには1〜2カ月に1度は行き、普段は一緒にお酒を飲んだり、冬はスキーやスノボーを一緒にやったりする。話を聞いていると2人の生活はとても楽しそうだ。最近も3泊4日で旅行に行ったばかりだという。

 「お互いに仕事も趣味もあって毎日が充実している。自分が思った通りの生活を送れるのは、“子なし夫婦”のメリットかなと思います。大人同士なので調整もしやすいですし」(サトミさん)

 交際開始から数えると、今年で7年目だという。長く一緒にいればいるほど、会話が少なくなったり、話すことに困ったりするのではと思うかもしれないが、「基本、サトミがよくしゃべるので困ったことはないですね」とケイタさんはほほえむ。普段の会話はそのときどきによってさまざまだが、自然と互いの趣味の話が多くなるようだ。

 2人の生活を送る夫婦は共通の趣味を持っている場合が多いと思う。交際時から趣味が同じ場合もあるが、付き合い始めてから互いの趣味に興味を持つことも少なくない。それだけ互いに興味を持ち、コミュニケーションを丁寧に取っていることの証かもしれない。

 DINKs 選択子なし 夫婦 家族 画像はイメージです Photo:Unsplash

 そんな充実している夫婦の生活で、気になるのは家計だ。聞いてみると、「正直、まったく管理していないです」とケイタさん。

 「基本的に、家賃など家にかかる費用は僕が払っていますが、多分、僕にいくら余剰があるのか妻は知らないし、逆に妻が普段どれだけ稼いでいるのかは僕も知りません。お金についてあまり気にしたことがないですね」(ケイタさん)

 「家計や貯金は夫婦で別々」というのは、DINKSにはよく見られる特徴と言って良いだろう。このことについてサトミさんは「子どもがいないから把握しなくてもいいかなと思う」と話す。

 「子どもを産むとなると、女性はどうしても仕事を休むことになりますし、もしかするとスムーズに復帰できないかもしれません。そうなると、夫の収入次第で子どもを持てるかどうか、持つとして1人か2人なのかなども変わってくると思います。子供を持つなど家族計画を立てるときに、夫の収入を把握したいと感じるのではないかと思います」(サトミさん)

“選択子なし夫婦”が抱える世間への「大きな違和感」

 一方、“選択子なし”について世間の目はさまざまだ。少子高齢化は喫緊の課題とされるため、“選択子なし”に対してネガティブな声が上がることも少なくない。また、経済的な理由で子どもを持たない選択をしている若者もいる。

 そんな現状だからこそ、夫婦2人だけの生活を続けていくにあたり、サトミさんのように孤独や不安にぶち当たる人もいるはずだ。子どもを持たないことについてのメディアでの取り扱い方に、サトミさんは違和感を吐露する。

 「どうしてもメディアでは経済的な理由だったり、特に女性側がキャリアを中断しなければならないことだったり、『子どもが欲しいけど、持てない』という点ばかりがクローズアップされがちです。『子どもがいなくても幸せ』というポジティブな意見はあまりメディアでは目にしないんですよね」(サトミさん)

 DINKs 選択子なし 夫婦 家族 画像はイメージです Photo:Unsplash

 少子化対策という面から考えると、確かにポジティブな意見を取り上げづらいのは事実かもしれない。では、サトミさんやケイタさんの身近な人たちの声はどうだろうか。

 「私の周囲の子どもを持つ友だちは、割とDINKSに理解がある人が多いです。“選択子なし”という生き方もいいと思うって、1つの生き方として捉えてくれます。20代前半で子どもを持った友だちは『結婚したら子供を持つものだと思っていたから、当時はそんな選択肢があるとも思わなかった』って。
 子どもが欲しくて持った人でも子育てが苦しい瞬間があると聞くのに、子どもが欲しくないのに持ったら子育てに耐えられないんじゃないかと思うし、“選択子なし”という生き方があると知ることで救われる人もいると思います」(サトミさん)

 「僕のまわりでは、絶対に子どもが欲しいわけではないという友達がほとんどですね。子どもが生まれたら生まれたで、やっぱりかわいいよとは言われますが。ただ、子どもを持つ・持たないそのものが重要なのではなく、自分の人生をどう生きたいかにフォーカスして、子どもがいる幸せも、子どもがいない夫婦二人での幸せもあるという捉え方になっていくと良いのではないかと思っています」(ケイタさん)

 確かに、さまざまな価値観への寛容性は高まっていると思われるものの、いまだに子どもを持つ・持たないという状況ばかりに注目が集まり、当事者たちの人生の幸せについては忘れられがちだ。一部では子どもを持たないことに対してネガティブな声も見られるが、その「幸せ」をどのように捉えるのかは、時代やそのときの当人たちの価値観や状況によって変化していくものなのだろう。

 サトミさんは一方で、「身体的に子どもを産むのが難しくなる年齢までは、子どもの有無はあくまで“暫定的"だと思います。私自身、自分が『DINKSだ』と強く自覚して生きているわけではありませんし、数年後には子どもが欲しくなっている可能性もあります。まわりからも『まだ子どもがいない』とだけ捉えられていると思いますし」と補足する。

 子どもを持たないことは「選択」と思われがちだが、サトミさんにとっては「今現在の状況」という表現のほうがしっくり来るという。そんな揺れ動く思いを抱えつつ、サトミさんはその発信のあるべき姿をこう語る。

 「多様性が認められる時代になってきたので、子どもを持たない夫婦も1つの家族の在り方として認められるようになり、称賛もされなければ批判もされない、フラットな考え方で広く受け止められるようになってほしいと思います」(サトミさん)

(取材・文:ふくだりょうこ  企画・編集:上代瑠偉)

※この記事は、アイティメディアとYahoo!ニュースの共同連携企画です(協力:DINKS MAGAZINE

       1|2 次のページへ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

昨日の総合アクセスTOP10
  1. /nl/articles/2411/21/news027.jpg 大きくなったらかっこいいシェパードになると思っていたら…… 予想を上回るビフォーアフターに大反響!→さらに1年半後の今は? 飼い主に聞いた
  2. /nl/articles/2411/20/news049.jpg 高校生の時に出会った2人→つらい闘病生活を経て、10年後…… 山あり谷ありを乗り越えた“現在の姿”が話題
  3. /nl/articles/2411/20/news222.jpg ディズニーシーのお菓子が「異様に美味しい」→実は……“驚愕の事実”に9.6万いいね 「納得した」「これはガチ」
  4. /nl/articles/2411/20/news027.jpg 「こんなことが出来るのか」ハードオフの中古電子辞書Linux化 → “阿部寛のホームページ”にアクセス その表示速度は……「電子辞書にLinuxはロマンある」
  5. /nl/articles/2411/20/news050.jpg プロが教える「PCをオフにする時はシャットダウンとスリープ、どっちがいいの?」 理想の選択肢は意外にも…… 「有益な情報ありがとう」「感動しました
  6. /nl/articles/2411/20/news054.jpg 「防音室を買ったVTuberの末路」 本格的な防音室を導入したら居住空間がとんでもないことになった新人VTuberにその後を聞いた
  7. /nl/articles/2411/21/news083.jpg 間寛平、33年間乗り続ける“希少な国産愛車”を披露 大の車好きで「スカイラインGT-R R34」も所有
  8. /nl/articles/2411/21/news085.jpg 「もしかしてネタバレ?」 “timeleszオーディション”候補者がテレビ局を退社 ディズニーの“船長”としても話題
  9. /nl/articles/2411/18/news107.jpg 走行中の車から同じ速さで後方へ飛び降りると? 体を張った実験に反響「問題文が現実世界で実行」【海外】
  10. /nl/articles/2411/21/news018.jpg グルーミングが出来ない生まれたての子猫、とんでもない体勢になり…… 想像以上のへたくそっぷりに「どこにも届いてないww」「反則級」
先週の総合アクセスTOP10
  1. 「飼いきれなくなったからタダで持ってきなよ」と言われ飼育放棄された超大型犬を保護→ 1年後の今は…… 飼い主に聞いた
  2. ドクダミを手で抜かず、ハサミで切ると…… 目からウロコの検証結果が435万再生「凄い事が起こった」「逆効果だったとは」
  3. 「明らかに……」 大谷翔平の妻・真美子さんの“手腕”を米メディアが称賛 「大谷は野球に専念すべき」
  4. まるで星空……!! ダイソーの糸を組み合わせ、ひたすら編む→完成したウットリするほど美しい模様に「キュンキュンきます」「夜雪にも見える」
  5. 妻が“13歳下&身長137センチ”で「警察から職質」 年齢差&身長差がすごい夫婦、苦悩を明かす
  6. 人生初の彼女は58歳で「両親より年上」 “33歳差カップル”が強烈なインパクトで話題 “古風を極めた”新居も公開
  7. 「ごめん母さん。塩20キロ届く」LINEで謝罪 → お母さんからの返信が「最高」「まじで好きw」と話題に
  8. 互いの「素顔を知ったのは交際1ケ月後」 “聖飢魔IIの熱狂的ファン夫婦”の妻の悩み→「総額396万円分の……」
  9. ユニクロが教える“これからの季節に持っておきたい”1枚に「これ、3枚色違いで買いました!」「今年も色違い買い足します!」と反響
  10. 中央道から「宇宙戦艦ヤマト」が見える! 驚きの写真がSNSで注目集める 「結構でかい」「どう見てもヤマト」 撮影者の心境を聞いた
先月の総合アクセスTOP10
  1. 50年前に撮った祖母の写真を、孫の写真と並べてみたら…… 面影が重なる美ぼうが「やばい」と640万再生 大バズリした投稿者に話を聞いた
  2. 「食中毒出すつもりか」 人気ラーメン店の代表が“スシローコラボ”に激怒 “チャーシュー生焼け疑惑”で苦言 運営元に話を聞いた
  3. フォロワー20万人超の32歳インフルエンサー、逝去数日前に配信番組“急きょ終了” 共演者は「今何も話せないという状態」「苦しい」
  4. 「顔が違う??」 伊藤英明、見た目が激変した近影に「どうした眉毛」「誰かとおもた…眉毛って大事」とネット仰天
  5. 「ごめん母さん。塩20キロ届く」LINEで謝罪 → お母さんからの返信が「最高」「まじで好きw」と話題に
  6. 星型に切った冷えピタを水に漬けたら…… 思ったのと違う“なにこれな物体”に「最初っから最後まで思い通りにならない満足感」「全部グダグダ」
  7. 「泣いても泣いても涙が」 北斗晶、“家族の死”を報告 「別れの日がこんなに急に来るなんて」
  8. ジャングルと化した廃墟を、14日間ひたすら草刈りした結果…… 現した“本当の姿”に「すごすぎてビックリ」「素晴らしい」
  9. 母親は俳優で「朝ドラのヒロイン」 “24歳の息子”がアイドルとして活躍中 「強い遺伝子を受け継いだ……」と注目集める
  10. 「幻の個体」と言われ、1匹1万円で購入した観賞魚が半年後…… 笑っちゃうほどの変化に反響→現在どうなったか飼い主に聞いた