『童夢』に影響を受けたサイキックバトルサスペンス映画「イノセンツ」 現実にある問題を切り取った“子どもの世界の残酷さ”(1/2 ページ)
子どもは平然と残酷なこともするが、複雑なことも考えている。
ノルウェー・デンマーク・フィンランド・スウェーデン合作の映画「イノセンツ」が7月28日から公開されている。
「団地を舞台に子どもがサイキックバトルを繰り広げるジュブナイルサスペンス」と聞くと、大友克洋による漫画『童夢』を連想するところだが、エスキル・フォクト監督はまさしく『童夢』からインスピレーションを受けたと公言している。
実際の本編でも『童夢』を強く想起させる場面があるが、それ以上のオリジナリティーも備えている。何より「子どもの世界の残酷さ」を描くことに成功しており、それにより恐怖と感動がラストに向けて加速し続ける傑作だった。
後述するように、PG12指定ならではのショッキングなシーンもあるので、その点は覚悟の上でご覧いただきたい。また、超能力の“目には見えない力”を“音”で見事に表現していたので、ぜひ音響が優れ、集中できる環境の映画館でこそ見てほしい。さらなる魅力を記していこう。
善悪の判断がつかない子どもの残酷性
9歳の少女イーダは、自閉症で口のきけない姉のアナと共に、緑豊かな郊外の団地へと引っ越してきた。イーダは同じ団地に暮らす、小さな物体を動かせる力を持つベンと、誰かと感情と思考を共有できるアイシャと仲良くなる。夏休み中の4人は、大人の目が届かないところで、それらの力で遊んだり、パワーを高めていったりするのだが……。
サイコキネシスとテレパシーを持つ友だちとの交流が始まるわけだが、問題となるのは超能力そのものよりも、「善悪の判断がつかない子どもの残酷性」であることが、序盤からはっきりと示されている。
なにしろベンという少年は、サイコキネシスの力を使わなくても、かわいらしいネコに対して、直接的な描写はやや避けてはいるものの、ここでは書くこともはばかられるほどの、とあるひどいことをするのだから。
つまりは、子どもは残酷なことを、超能力がなくても“できてしまう”のだ。作中でそのことを知っているのは、直接的な加害者であるベンと、それを止められなかったイーダという2人の子どもだけ。大人たちにはまったく気付かれることはないし、もちろん怒られることも一切ない。
つまり、超能力という現実にはあり得ない題材を扱ってはいるが、本作の真の恐ろしさは「善悪の判断がつかない子どもは、平然と誰かを傷つけることもある」「大人の目の届かないところで、子どもは何をしているのか分からない」という、リアルな側面を描いていることにある。劇中のような幼いお子さんを持つ親御さんが見れば、よりゾッとする内容だろう。
ヤングケアラーの問題
主人公のイーダには、自閉症の姉アナがいる。身につまされるのは、わずか9歳の少女が、親のいないあいだに「お姉ちゃんをちゃんと見てあげてね」と、世話を頼まれていることだ。
両親には娘たちへの愛情が確かにあるし、もちろん常識の範囲内のことを頼んではいる。だが、そのイーダには姉をうとましく思う気持ちもあり、物語の始まりから姉を物理的に傷つけてしまう。しかし、やはり大人(両親)はそのことに気付かない。
こうしたイーダの境遇は、現実にもあるヤングケアラーの問題が投影されていると言っていい。こども家庭庁によると、ヤングケアラーとは「本来大人が担うと想定されている家事や家族の世話などを日常的に行っているこどものこと」を指し、「責任や負担の重さにより、学業や友人関係などに影響が出てしまうことがある」と問題点が指摘されている。
それを踏まえても、やはり本作で描かれることは“現実と地続き”なのだ。
子どもは複雑なことを考えている
中盤からの展開は「どちらに転ぶのかわからない」「先が読めない」スリリングさがある。そして、わずか9歳で、超能力も持たないイーダに、胸が苦しくなるほどの“責務”が課せられ続けることだけは告げておこう。
「善悪の判断がつかない子どもは、平然と誰かを傷つけることもある」と前述したが、それと同時にイーダの言動からは「子どもは出来事をしっかり捉えて、ものすごく複雑なことを考えている」ことも痛感させられた。
イーダがあることを母親に“相談”をするシーンで、筆者はボロボロと泣いた。「9歳の子どもに、このような重責を背負わせてはいけないのに、そうなってしまった」悲劇性が、ここで極に達していたのだから。
クライマックスのバトルの秀逸さと、反面教師的な学び
クライマックスのバトルは、表面的には派手ではない“ように見える”からこそ、緊張感に満ち満ちていた。それぞれのキャラクターの心理が言葉に頼らない、映画ならではの演出で理解できる様にも感服させられる。ここでのブランコの描写は、おそらくは『童夢』のオマージュだろう。
総じて、この映画「イノセンツ」は、子どもの悪意による(または悪意とも思っていない)許されざる攻撃や、はたまたその攻撃をさせないための“気づき”を、反面教師的に大人に与える映画と言っていい。前述してきたように、それは超能力がなくても、現実のこの世界に確実に存在するものなのだから。
また、超能力を得てしまったことが悲劇につながることなどから、2012年のアメリカ映画「クロニクル」も彷彿とさせた。こちらの主人公たちは「イノセンツ」よりも年齢が上の高校生であり、思春期後期だからこその悩みもリアルにつづられている。こちらは大友克洋による漫画を原作としたアニメ映画『AKIRA』からの影響が大きい。ぜひ、合わせて見てみてほしい。
(ヒナタカ)
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