シンガポールの映像作家が11年かけ作り上げた巨大ロボットSF映画 「メカバース:少年とロボット」レビュー(1/2 ページ)
「パシフィック・リム」的ガチなクオリティーの画と「トップをねらえ!」的王道プロットの合わせ技。
映画「メカバース:少年とロボット」が11月17日から劇場公開中だ。本作でまず驚嘆するのは、シンガポールの映像作家リッチ・ホーが、資金繰りを含めた企画プロデュース、監督、脚本、撮影、音楽、美術・衣裳、VFX監修の7役を務め、11年間かけて製作した映画だという事実だ。
世界を股にかけた一大プロジェクト
ひとりのクリエイターが気の遠くなるほどの時間をかけて、多大な情熱と執念を持って作りあげた映画ということから、「JUNK HEAD」を思い出す方も多いだろう。
だが注意したいのは、(「JUNK HEAD」もそうだが)監督1人で全てを作り上げたというわけではないことだ。特別映像で、彼は「この映画1人で作った? いや違います。私は複数の役職を担いましたが、その何倍もの力をチームの皆さんが尽くしてこの映画は完成しました」と語っていたりもするのだから。
11年の歳月をかけ、個人ではなくチームで作り上げたということもあって、映像面でのクオリティーは「ガチ」。予告編などを見れば、あの「パシフィック・リム」をもほうふつとさせる映像になっていることは伝わるはずだ。
ニュージランドで撮影、オーストラリアでCG制作、そして日本で吹き替え制作および初公開されるという、世界を股にかけた一大プロジェクトとなった本作。その吹き替えでは、主人公の少年を小野賢章、相棒となるロボットを花江夏樹が担当。さらには森川智之、津田健次郎、伊藤健太郎、ファイルーズあいと、これ以上は望めないほどに超豪華キャストが集結した。
ストーリーは王道で、後述するように「クセ強いな!」と思うところも多いが、それも含めて楽しめると信じている。さらなる魅力を記していこう。
抜群のつかみと、日本への愛情
あらすじは「両親を失った少年が、パイロット育成学校に入学し、相棒となるAI搭載の巨大ロボットと出会う」というシンプルなものだ。
映像面での見応えは抜群で、特に冒頭の「つかみ」が秀逸だ。津田健次郎の良い声のナレーションでお出迎えしてからの、「スター・ウォーズ」ばりの宇宙空間での戦いが勃発し、そこにしっかりと「巨大ロボ」が出撃する。
ロボットのデザインはカッコよく、きらびやかなエフェクト、スケール感、効果音に至るまで安っぽさは感じさせない。2021年には「機動戦士ガンダム」の実写映画が製作発表されたが、「あれ? もうできてね?」と錯覚を起こすほどである。
そんな圧巻のオープニングで「主人公の運命が決定づけられた」ことを描き、その後は仲間とぶつかり合いながらも猛特訓をしていくという、スポ根ものにも近い王道の青春成長物語を展開していく。主人公の親がいなくなってしまっていることもあり、アニメ「トップをねらえ!」などを連想する方もいるだろう。
「ロボットとの関係性」も尊い要素だ。相棒となるロボットは「パートナーとなる人間の性格に大きく影響を受け、良いところだけでなくネガティブな側面や隠れた性格も引き継いでしまう」特性を持っており、2人は「似たもの同士」かつ「お互いに文句を言ったりもするけど、それでも補いあう仲」になっていく。小野賢章が「お前は“かわいい枠”さ」と告げ、ロボットである花江夏樹が「かわいい?」と不思議に思う様は「マジでかわいいなオイ!」と思うしかなかった。
察しがついた方が多いと思うが、リッチ・ホー監督は日本のアニメや特撮の大ファン。日本向けのコメントでも、「ロボット・メカ作品の宝庫である国、日本でプレミア公開することはまさに私の夢でした」「『ウルトラマン』や『超時空要塞マクロス』、『ドラゴンボール』シリーズなどを見て育ち、そのアクションやストーリーに魅了されてきました」「日本は、世界中の人々が、ロボットや怪獣がたくさんいると夢想する場所。つまり私にとっては夢を見る人、夢を持って戦い・生きた人たちがたくさんいる場所です」とアツいメッセージを送っているのである。
日本を愛する監督が、11年をかけて日本へのラブレターをしたためてくれた。その事実はとてつもなく感動的だ。実際に本編を見れば、その愛の強さと重さを思い知ることだろう。
飲み込みづらさもまた味わい……なのかもしれない
さて、称賛したままレビューを終えたいところなのだが……お話のいろいろな部分がだいぶ「困った」作品であることには、残念ながら触れざるを得ない。端的に言って「クセ」が強く、「飲み込みづらい」ことこの上ないのである。
例えば、訓練で「24時間以内にロボットと共に目的地に到達する」というミッションが課せられるシーン。そこでは「サバイバル能力」も合わせてチェックする目的もあるそうなのだが、主人公は盛大に迷って「ここ通るの5回目なんだけど」「釣り、下手すぎじゃない?」とロボットにツッコまれたりする場面もある。主人公は筆記試験で学校史上最高の点数を取るほどの秀才のはずだったのに、いきなり間抜けな描写を重ねられ、厳しいはずの訓練がユルく見えてしまう。
これに限らず、ギャグセンスが全体的に独特すぎるのだ。例えば、「濃いやつばっかり」と語られる仲間たちの性格づけが本当によくも悪くも極端で、異常な潔癖症である優等生が事あるごとに「一番!」と口に出して言うとか。体つきはいかついけど性格は優しい親友は、ジョーク好きだけど滑舌が悪すぎて(?)何ひとつ聞き取れないとか。見ていて彼らにどのように思い入れを持てば良いのかと、頭を抱えてしまった。
他にも、ゲ◯を吐くシーンがやたら多かったり、中盤の爆弾の処理の仕方がぶっ飛んでいたり、中盤の“挫折からの復活”という定番のくだりで「それでいいんだ!?」という展開とか、ラストに至るまで「うん……?」「あっ……今のはギャグ……だったのかな……?」と喉に引っ掛かりまくることばかりで、もはやあらすじすら頭に入ってこなくなる勢いなのである。
そんなわけで、「せっかく11年作り込んだのだから、お話やギャグのほうももっとちゃんとできたんじゃ……」と思ってしまう部分はあった。
とはいえ、やはり映像は11年かけただけあるガチの凄さであるし、要所要所の飲み込みづらさを横に置いておけばメインプロットは王道中の王道である。隅々まで日本のコンテンツへの愛情がたっぷり詰まっているのは事実なので、やはり独特の味わい(困惑)も込みで楽しめると信じたいのだ。ぜひ、劇場で見届けてほしい。
(ヒナタカ)
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