「スペースインベーダー」「パックマン」を振り返りつつ次世代を考える:CEDEC 2008
「すべてはここからはじまった 〜スペースインベーダーとパックマンから学ぶ事、そして次世代へ〜」と題したパネルディスカッションには、西角友宏氏、岩谷徹氏、高橋利幸氏といった豪華メンバーが登場した。その中身をお伝えしていく。
昭和女子大学で開催中のゲーム開発者カンファレンス「CESAデベロッパーズカンファレンス 2008」において、CEDEC10周年記念パネル「すべてはここからはじまった 〜スペースインベーダーとパックマンから学ぶ事、そして次世代へ〜」と題したパネルディスカッションが行われた。
本ディスカッションには、ドリームス 代表取締役の西角友宏氏、東京工芸大学 芸術学部ゲームコース 教授の岩谷徹氏、米国で開催されている開発者向けのカンファレンス「Game Developers Conference」主幹のJamil Moledina氏に加え、司会進行役としてハドソン 宣伝部 名人の高橋利幸氏が登場。“すべてはここからはじまった”というお題通り、「スペースインベーダー」「パックマン」の話からスタートした。
まずは西角氏が、インベーダーゲームを作った当時を次のように振り返る。「アタリのブロック崩しゲーム『ブレイクアウト』が日本で大ヒットしたのがきっかけでした。箱とボールが出現して撃つだけの、ものすごくシンプルなゲームなのに、なぜこんなに面白いんだろうとショックを受けたんです。ものすごく悔しくて、何とかそれを追い越そうと思ったのが原点ですね。比べてみると分かるんですけど、ブロック崩しゲームもインベーダーゲームも画面の向こう側にターゲットがいっぱいあって、それをひとつひとつ崩していく。インベーダーゲームは当たったボールが戻ってくるのではなく、敵から攻撃してくるのが異なる点ですが、比べてみると似ているんですよ」。
ブロック崩しゲームとインベーダーゲームは似ていると語った西角氏に対し、高橋氏から「似て非なるものだと思う」との突っ込みが入る。高橋氏曰く、「それまでのゲームは敵側のキャラクターが自分に対して攻撃を与えてくることはなかった。全然違いますよ」とのこと。これに対する西角氏の回答は、「一方的ではなく、相手からのアクションがあったほうが面白いと考えたのは確かですね。(ブロック崩しを元に)ゲームの本質である面白さを生かして作ればもっと面白くなるんじゃないかと考えたんです」というものだった。
続けてパックマンについて話が及ぶと、高橋氏は「パックマンのキャラクターデザインは、ピザを一切れ食べた時に思いついたと聞いたんですが、その辺りも含めて話をお願いします」と、自身の知っているエピソードを引き合いに出して岩谷氏に話を振る。
「(パックマンのデザインは)ピザでそうなったと世界的に押し通してますので触れません(笑)」とかわした岩谷氏だったが、「昔のゲームセンターは男の遊び場で“汚い、臭い、暗い”というイメージがあり、女の人が立ち寄ってくれなかった。このままではダメだと思って、女性やカップルが楽しめるものとして考えたのが原点です。今考えると大変失礼な話ですけど、女性の“甘いものは別腹”から食べるのが好きなんだと考え、“食べる”という動詞をキーワードにしてパックマンを作りました。(パックマンは)ひと言でいうと至れり尽くせりのゲーム。何を足しても引いてもダメなんです」と当時を振り返ってくれた。
話題は現在のゲーム業界をどう考えているか? に変わる。「我々のころはとにかくハードウェアが貧弱だった。今はそこで悩むことはない。環境には恵まれているとは思います」と話した西角氏だったが、一方で「これだけ多くのゲームが出ていると、本当に面白いものを作るのは大変でしょうね。昔は何か作れば発明品だった」といったように、ゲームを作っても埋もれてしまう状況を憂いていた。
西角氏が環境について触れたこともあってか、「昔作ったゲームは全部合わせても5Kバイトだった」と話し始めた岩谷氏は、「今がブルーレイディスクの25Gバイトだとすると500万倍ですよ。これはもう大変な話です。ただ、遊びの本質はもうちょっとシンプルなところにあって、それを表現するために容量すべてを使わなくていい。適切な表現というものを考えてほしいんです」と述べた。
子どもたちと触れ合う機会の多い高橋氏は、ゲームに対する昔と今の子どもの違いを説明。「昔の子どもたちはゲームに対して驚きを持っていた。ファミコンが出てきた当時でいえば、一方通行だったテレビから、ゲーム機を使ってモニターの中のキャラクターを操ることができた。これが驚きでしたよね。今の子どもたちは生まれた時からテレビゲームがあるから、ある程度冷めてみているというか、第三者的な視点を持っています。例えば現在では、ゲームセンターに行って対戦ゲームで絶対に勝つんだ、っていう気力を持った子どもを探すほうが難しい。業界にいる身として、これは寂しいんです。1日1時間、いや2時間まではしょうがないと言えるぐらい夢中になれるゲームを出してほしい」と熱く語った。
ちなみに高橋氏といえば“ゲームは1日1時間”の名言で知られるが、この言葉が生まれた逸話も披露してくれた。「ゲームソフトの宣伝担当がいうのも何ですけど、子どもは外で野球やサッカーをやって、疲れて帰ってきた時間にゲームをやる。これぐらいにしておいてもらえると健康的に過ごせるんじゃないかと思っていたんです。1985年のゲーム大会でのことですけど、回りにお父さんやお母さんがたくさんいて、その前で何か言わなきゃいけないことがあった。その時に出た言葉が“ゲームは1日1時間”だったんですよ。遊びの中にテレビゲームはひとつしかないけど、テレビゲームだけになっちゃダメだし、もっとほかのこともしてほしいという願いを込めていった言葉なんです」。
このほか本ディスカッションでは、「日本で開発されたゲームでも世界的にブレイクしたタイトルはある」と前置きしたうえで、Jamil氏が米国向けに日本開発者が意識したほうがよいことを次のように話した。「現在(北米で)売れているタイトルには“ハリウッド映画のようなスタイル”という共通点があります。視覚的には刺激的ですが、あまりたくさんのメッセージを詰め込まない、テーマはシンプルなものです。一方で多くの日本のゲームは、あまりにもたくさんのテーマを表現しています。これは少人数に受け入れられるものですが、潜在的にはもっと大きなものを得るはずだったとしても、(たくさんのテーマを詰め込みすぎることにより)それを失ってしまうんです」。
最後は来場者に対し、高橋氏から「どんなに姿形がきれいなゲームでも、きれいな部分を取り除いていったら、真ん中にはシンプルだけどすごく面白い遊びがあるべきと考えます。遊びをずっと考えて、ぜひ将来のゲーム業界を支えていってください」との言葉が贈られ、本ディスカッションは幕を閉じた。
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