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ねとらぼ
2026/10/21 18:15(公開)

こだま×たろちん『わからないまま母と生きる』刊行記念対談 ネット出身作家が語る“匿名でしか書けないこと”【読者プレゼントあり】

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 2017年に『夫のちんぽが入らない』(扶桑社)で衝撃的なデビューを飾ったこだまさん。現在も家族に自分が作家であることを隠したまま活動している“覆面作家”です。

 新刊『わからないまま母と生きる』(太田出版)は、一癖も二癖もある母や周囲の人々とこだまさんの関係性を綴ったエッセイ。名前や活動を公表していては確かに書けなかっただろうと思わせる赤裸々な体験談は、心の奥底までさらけ出すような迫力があります。

こだまさん著『わからないまま母と生きる』。一癖も二癖もある母や周囲の人々とこだまさんの関係性を綴ったエッセイ

 「これ、昔のインターネットでよく見たやつだ……」と感銘を受けたのが、こだまさんと同じくネット出身のライターである私・たろちん(@tarochinko)。今回は2人の太田出版の担当編集がたまたま同じだったという縁もあり、「変えられない相手」との付き合い方や、「匿名でしか書けないこと」について語り合いました。ぜひ最後までお読みください。

こだま
作家。私小説『夫のちんぽが入らない』(扶桑社)でデビュー。同作はNetflix・FODでドラマ化されるなど大きな反響を呼んだ。また、エッセイ集『ここは、おしまいの地』(太田出版)は第34回講談社エッセイ賞を受賞した。その他著書に『いまだ、おしまいの地』『ずっと、おしまいの地』『縁もゆかりもあったのだ』(太田出版)がある。2026年に初の創作小説『けんちゃん』(扶桑社)、往復書簡こだまといりえ『虫の時間』(秋月圓)を刊行。
公式Webサイト:https://www.ohtabooks.com/sp/kodama-haha/
X:@eshi_ko

たろちん
ゲーム実況者、ライター・編集者。2008年にニコニコ動画でゲーム実況を開始。ねとらぼの編集者を経て、現在フリー。お酒をこよなく愛していたが2022年に「重症急性膵炎」を患い膵臓の3分の2が壊死。生涯禁酒となった経験をもとに、noteでは闘病生活やその後の日常について発信している。2025年10月には著書『毎日酒を飲みながらゲーム実況してたら膵臓が爆発して何度も死にかけた話』(太田出版)を刊行し、話題に。
X:@tarochinko
YouTube:@tarochinDB

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「命に関わるくらいの気持ち」で守ってきた匿名

たろちん:というわけで、今日はよろしくお願いします。

こだまさん(以下、こだま):はい、よろしくお願いします。

たろちん:いきなりですが、こだまさんはずっと正体を明かさずに作家活動をしてますよね。今も家族に自分が本を書いていることは言ってないんですか?

こだま:はい、絶対に言いたくないです(笑)。ブログの時代から身近な人には絶対に知られない形で家族の話を書いてきて、その延長線上に書籍があるという感じです。

たろちん:延長線上にしては、ちょっと売れすぎてますよ(笑)。

こだま:ブログくらいなら、ほほ笑ましい家族の話もあったんです。でも『夫のちんぽが入らない』は絶対に言えません(笑)。

たろちん:日本中に知れ渡りましたからね。

こだま:タイトルの強烈なワードもそうですし、私が出会い系をやっていた話なんかも、身内には絶対に知られてはいけないという強い気持ちでやっています。普通のエッセイだったら、そこまで匿名にこだわらなかったかもしれませんが、私の場合は命に関わるくらいの気持ちでやっています。

たろちん:最初から「名前を出して物書きになりたい」という気持ちだったら、こういう文章は書いていないですよね。ブログを始めたきっかけってなんでした?

こだま:鬱状態になって仕事を辞めて、ほとんど引きこもりのような状態で、ネットが全てみたいな生活だったんです。ちょうどブログ文化が普及し始めた時期でした。昔から個人的な日記などは書いていたので、ブログでも日々のことを書くようになって。

たろちん:それって、誰かに読んでほしいという気持ちでした?

こだま:はい、読むのは絶対に自分のことを知らない誰かのほうがよかったんです。やっぱり匿名がいちばん心地いいです。

たろちん:僕もわりとそういう感じでした。当時のネットって、現実で人には言えない悩みを抱えている人が、匿名でそれをこっそり打ち明けるような場所でしたよね。知り合いや家族には言えないけど、誰かには聞いてほしい、みたいな。

こだま:現実とネットをきっちり分けている人が多い時代でしたね。今のSNSみたいな横のつながりもあまりなかったので、それもよかったかもしれません。

たろちん:「ブログを書いている」というだけで、かなり層が絞られていましたよね。ネットを見てる人が少ない時代だから、「ブロガー」というだけでみんな似たようなこじらせ方をしてる(笑)。だからこそ共感や信頼が生まれたりしてましたね。

こだま:身近な人に言えないからネットに書く、という人が多かったですよね。今みたいに拡散されることも少なくて、純粋な形だった気がします。

たろちん:こだまさんはネット大喜利もやっていたんですよね。そこでつながった人たちと同人誌を作って、『夫のちんぽが入らない』を発表したと。

こだま:ネット大喜利も、私の居場所になっていました。ただ、最初はそっちでブログのことは公開していなかったんです。だいぶ後になってから、知られたくない過去の記事は全部消して、クリーンな状態にしてから教えました。だから大喜利の仲間は、私の黒い部分をもともと知らない状態で知り合っているんです。

たろちん:クラスタによって見せる顔を変えるやつだ。昔ながらの「インターネット人間関係」ですねえ。

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「書く自分」と「生活する自分」

たろちん:本がすごく売れて、多くの人に知られるようになりましたよね。そこで変わったことや、怖くなったことはありませんでしたか?

こだま:現実の私は変わらず普通の生活を送っていて、「書く自分」だけが今まで知らなかった世界に行く感じです。東京にもほとんど来たことがなかったので、来るだけで自分の中ではすごいことをしている気分でした。そのギャップがどんどん広がって、東京から地元に帰ると、自分が普段何をしていたのか思い出すのにちょっと時間がかかるんです。

たろちん:どちらが本当の自分、みたいな感覚ってあるんですか?

こだま:エッセイには自分のことを全部書いているので、心はエッセイのほうが本当の自分です。でも、体として生きているのは普通の私生活のほうなんです。半分ずつ完全に分かれていて、一つの体として一致しないですね。ネットで知り合って友達になった何人かとは、会って作家としての話もできます。でも、リアルの友達はまったく知りません。

たろちん:もし周りに明かしたらどうなると思いますか?

こだま:見られ方が本当に変わると思います。独身ならまだ我慢できたかもしれませんが、夫や職場への影響、世間体の問題が大きすぎるので、絶対に言えないです。田舎なので、本名や顔がバレたら「あそこの家の子が書いた本だよ」と一晩で全員に知れ渡ってしまうんですよ。

たろちん:僕のネットの友人にも宮崎の人がいて、よくそういう話をしてます。地元の人間関係が狭すぎて、消防団に入れられて、その飲み会に行かないと仕事にまで影響が出るとか。

こだま:そうなんです。ちょっとした村社会ですね。

たろちん:そこから抜け出したいとは思わなかったんですか?

こだま:もともとは抜け出したくて、大学に進学したんです。でも、実家があったのは本当に山奥だったので、大田舎と都会の中間くらいの地方都市で私は満足しちゃいました。結局は地元周辺に戻ってくることになりましたし、大都会はまだ腰が引けてて。作家活動をしていなかったら、東京に来る機会はなかったと思います。

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文学フリマは誘われたら「ほぼ100パー」出る

たろちん:僕とこだまさんは先日、オモコロライターのJETさんが企画した同人誌『e-boy/e-girl』に寄稿しましたよね。こういう同人誌にはよく参加しているんですか?

こだま:文学フリマに出る方から誘われたら、ほぼ100パーセント「やります」と言っちゃいます。全然知らない本に自分も混ざっている感覚が好きなんです。11月の回も、3冊くらいに載せてもらう予定です。自分は会場には行けないんですけど(笑)。

たろちん:めっちゃ書いてる……! そのモチベーションはどこから来るんですか?

こだま:デビューのきっかけが文学フリマだったので、そのころを思い出す機会になってるんです。作っている人たちから、当時の私が持っていたような「出るぞ」というやる気を感じると、自分も奮い立つというか。アンソロジーだと普段書かないようなテーマをもらえるのも面白いですね。

たろちん:同人誌のほうが普段の連載や仕事の原稿より思い切ったことが書ける、とかもありますか?

こだま:文字数もそんなに多くないし、テーマもきっちり決まっているので、書きやすさがありますね。『e-boy/e-girl』でも、そういえばネットを始めた頃や揉めた話ってあまり書いてこなかったな、と思い出しながら書きました。

たろちん:あれもすごい体験してるなあと思って読みました(笑)。人生が強烈です。

こだま:無駄に長生きしてきたのは、結局よかったなと思います。ネタがそれだけ多いので(笑)。

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