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憎しみは書く原動力になる

こだま:なんか『わからないまま母と生きる』ってタイトルだけ見ると、すっごい憎み合ってるように思われるかもしれません。でも、よその家と比べても全然、普通の親子関係というか、外から見たら仲良さそうに見えてると思うんですよね。

たろちん:そこが絶妙だと思いました。本の中で「近い存在ゆえの苛立ちや憎らしさはあるが、母が誰かに責められていたら庇いたくもなる」と書かれていて、家族ってまさにこれだよなあと。

こだま:完全に敵とは思えないから、どっちつかずでいる感じです。母もそんなに大きく変わらないことは、もうわかってきたので、このまま付き合っていくしかないなと思っています。

たろちん:他人は変えられないし、変えられるのは自分だけですよね。この本は、昔から母に複雑な感情を抱いてきたこだまさんが「受け入れる」という選択をした物語として、すごく共感のある話でした。今後のお母さんとの関係はどうなっていくと思いますか?

こだま:これから母がだんだん弱って病気になっていく時期を迎えるとして、そのとき私はどうするんだろう、という不安があります。認知症になったらどうやって介護するのか。今はふざけていられるけど、ふざけられなくなる時期が来るのかなと、ちょっとだけ予想しています。

たろちん:そうなると、またもう一段階、大変になりますね。

こだま:でも、介護しながらもっと憎しみ合って、それがまた書くエネルギーになるだろうな、とも思っています。

たろちん:なるほど。「書く」というのも、ひとつの覚悟ですね。

こだま:書くと思いますね。憎しみは書く原動力になるので。母に直接言っても全然聞いてくれないようなことを、エッセイにしていく気がします。一方で、父はがんで急に何もできなくなってしまったので、母が動けるうちは何かしてあげたいという気持ちもあります。旅行にはまだ行きたいですね。

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昔のインターネットの価値観を残した匿名作家

たろちん:書くことで乗り越える、というのはわかる気がします。僕も、ネットに書いたり配信したりすることで、自分の中の淀みを吐き出してきたので。ただ、僕はこだまさんとは逆に、ネットと現実の自分が分離している状態が気持ち悪くなってきて、本名も顔も全部出すようになりました。今は家族がいるので控えていますが、住所とか銀行口座もほとんど晒してた時期があります(笑)。

こだま:本当に真逆ですね(笑)。ネットの自分と実際の自分に差がない。

たろちん:こだまさんは、ずっと親に認められたいという思いがあったわけですよね。「私は東京でも知られている作家なんだ」と伝えたいとは思わないんですか?

こだま:言えたらよかったんだろうな、とはたまに思います。母は図書館でいろんな本を借りてくるので、「この作家さんと会って話したことあるよ」と言ったらどうなるかなとか。でも言ったら、今まで積み上げてきたものが一瞬でなくなる。その怖さのほうが勝つので、言えないです。

たろちん:知られたとき、「すごいね」とはならないんですか?

こだま:「すごい」と「ひどい」が両方あると思います。コソコソ東京に来て、嘘をついて出かけたイベントで家族の話をバラしている。本にもなっている。それは家族として、特に母にとっては許しがたいと思います。母の悪行を全部書いているので(笑)。

たろちん:僕も「酒を飲みすぎて死にかけた」という親不孝すぎる内容の本ですけど、両親は喜んでくれたんですよね。こだまさんのお母さんも、もしかしたらそうなるのかな、と思ったんですが。

こだま:たしかに母が喜ぶ可能性もあるかも。でも、私は家族にテーマを絞りすぎているので、知られたら堂々と書けなくなるんですよね。「これは了承してもらったから書ける」という書き方になってしまうと、もう書けないと思います。

たろちん:じゃあ、一生覆面作家として、家族の中でスパイのようにネタを集めていくと(笑)。

こだま:最初の本を出したときから、そうすると決めていました。迷いはありません。ちょっとでも身元がわかったら、「これがあのお母さんだね」と、小さな田舎の中で母を見る目が一気に変わってしまいます。母や夫や、いろんな人を守るためにも、言ってはいけない。少なくとも私の一時的な承認欲求のためには言わないと決めていますね。

たろちん:すごいなあ。生き方としてやっぱりインターネット的ですね。

こだま:本当に古代インターネットですね(笑)。

たろちん:でも昔のネットの有名人って、一般社会では誰も知らない存在でしたよね。超人気サイトの管理人とかでも「ネットで顔を出すなんてとんでもない」という時代があった。こだまさんは今も、家族にも知られずに国民的なエッセイを書いている。昔のインターネットの価値観のまま現実を生きて、しかもそれで成功を収めたらどうなるのかという、すごく貴重なケースだと思いました。

こだま:友達が多かったら言いたくなったと思います。でも、もともと言えるような親しい人がいなかったので……。

たろちん:それもインターネットだ。こだまさんのような赤裸々な文章って、どこか懐かしさも覚えるんですけど、それこそ昔のインターネットにはそういう話がよく書かれていたんですよね。今も「はてな匿名ダイアリー」とかには、その文化が残ってるなと思います。

こだま:はてなの話、面白いですよね。奇抜な体験がたくさん出てきて。

たろちん:お母さんやせいちゃん、喫茶店のマスターの話も、「作家が書いたはてな匿名ダイアリー」みたいな読み心地がありました。あれってやっぱり匿名じゃないと書かれないエピソードだなと思って。今はSNSも現実の自分と紐づいたひとつの社会になっているので、みんなああいう体験や感情があっても発信しづらくなっている。それをこだまさんがこうして世に出していることは、すごく昔のインターネット的な意義があるなと思いました。

こだま:誰の目も気にしなくていい、という強さだけはあると思います。周りの誰にも応援されないんだから、これぐらい書いてもいいだろうと勝手に思っているんです。本当に独りよがりですけど、もうそれでいくしかないなと。

たろちん:その強さに共感したり、救われたりする人は絶対多いですよね。現実の一部を犠牲にしつつネタを探してくる匿名作家魂を感じました。今後も身バレしないようがんばってください!

こだま:ありがとうございます(笑)。

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