1100万円のG-SHOCKが登場する。いったい、どんな人が買うのだろうか。
カシオ計算機が12月1日に発売する「MRG-D5000」は、世界限定20本の腕時計である。特徴は、文字盤の周りを囲む青いパーツ。実はこれ、宝石としても知られるブルーサファイアクリスタルでできている。国内で販売するのは、わずか1本だ。

高級な素材を使っているのだから、値段が高いのも分かる。だが、この時計には、もう一つ気になる話がある。完成するまでに、約10年もかかったというのだ。
なぜ、そこまで時間がかかったのか。理由を探ると、サファイアという素材の意外な一面が見えてきた。
サファイアは、ダイヤモンドに次ぐ硬さを持ち、傷がつきにくい素材として知られている。高級腕時計では、文字盤を覆うガラスにも使われている。ただし、硬いからといって、衝撃を受けても割れにくいわけではない。
カシオ計算機によると、「サファイアは大きな部品ほど割れやすく、ねじ穴のように力が集中する部分も、ひび割れの原因になる」という。
サファイアの美しさを生かしながら、G-SHOCKらしい衝撃への強さも実現する。そこが、開発の大きな壁だったのだ。

製品化を断念
開発が始まったのは2016年。「クリスタルという割れてしまう素材でつくる壊れないG-SHOCK」を目指した。
2018年には、ブルーサファイアクリスタルを採用したコンセプトモデルを発表。しかし、当時はG-SHOCKに必要な耐衝撃性能を実現できず、製品化を断念した。


ここで諦めても不思議ではないが、開発は続いた。サファイアの特性を分析し、さまざまな方法を試す。プロジェクトには「Blue Rose Project」という名前が付けられ、構造や加工技術を少しずつ進化させていった。


そして今回、カギになったのが、時計の構造そのものを変えることだった。
時計の外側をいくつもの部品に分け、それらをねじでとめずに組み立てる。採用したのは「マルチガードストラクチャー」と呼ばれる独自構造だ。「ねじ穴をなくし、パーツの形状や組み合わせ方を工夫することで、サファイアを使いながら耐衝撃性能を実現した」(同社)という。

別のモデルも発売
サファイアを使うだけでなく、時計の構造にも工夫を凝らした。約10年にわたる開発で、ようやく答えにたどり着いたのだ。
とはいえ、時計をつくるのも簡単ではない。まず、ブルーサファイアの大きな塊をつくるだけで、数カ月かかる。そこから、色の濃さや透明度が理想的な部分を選び、時計の部品に合わせて複雑な形に加工していく。加工中に欠けたり、割れたりすることもあるため、慎重に作業を進めなければならない。
さらに、ねじを使わずに複数のパーツを組み上げるには、一つひとつの部品に高い加工精度が求められる。こうした工程が重なるため、生産できる本数は月に1~2本に限られるという。
価格は1100万円。世界限定20本で、国内販売は1本のみ。数字だけを見ると驚くが、素材の選別から加工、組み立てまで、手間のかかる工程が積み重なっている。


ちなみに、カシオは今回、ブルーサファイアクリスタルをテーマにした別のモデルも発売する。ケースの上下に各2カラットのサファイアを配した「MRG-B5000SA」(88万円)と、ベゼル前面の4カ所にサファイアを埋め込んだ「GMW-B5000SB」(11万円)である。
G-SHOCKらしい強さ
サファイアは硬い。だから、時計に使うのも簡単――。そんなイメージを覆す今回の開発。美しい素材を使うこと以上に難しかったのは、その素材の弱点と向き合い、G-SHOCKらしい強さを持たせることだった。
「壊れない時計」を目指したら、開発に約10年。G-SHOCKのこだわりは、どうやら時間も惜しまないらしい。


