「僕にとってゲームは悪」だが……富野由悠季氏、ゲーム開発者を鼓舞(4/6 ページ)
信じるな、考えろ
僕は去年の暮れ押し詰まって、ハンナ・アーレントという政治哲学者を紹介した本を読みました。読んで驚きました。17世紀、ルネサンスまでの人類のほとんどが、ものを判断し、決定することができない人の集まりだったとあったたためです。この話が信じられますか?
だってもし人類がバカなら、ルネサンスが起こるまでの人類史は構築できなかっのではないか。人類史を構築する知恵があったなら、独自に物事を判断することもできたはずです。それぞれの文化を構築するための知恵があって、いろんな判断力があったっていいと思うじゃないですか。だけど、ハンナ・アーレントに言わせりゃ、大勢がよってたかって作れば、これくらいのものは作れるよと。
17世紀までの人たちはどうやって生きてきたか。ハンナ・アーレントは簡単に回答を出しています。物事を信じて生きてきたんです。信じるだけで17世紀の間、歴史を作ってきた。このことの意味を考えてください。だから、人類には宗教が必要だった。教義を信じるということは、ものを考えなくて済む、信じれば済むということ。
ここで、原理原則に帰ってものを考えるというさっき言ったぼくの一番基本に立ち戻ります。ですが、少なくとも宗教にあって、原理主義者と言われている人たちが今起こしている事件が、新しい時代を構築しているわけではありません。
単純に、原理原則を信じてはいけない。原理原則に戻って独自に考えなければならない。ハンナ・アーレントは17世紀以降、ようやくものを考える人、賢い人が出てきたといっている。
ガリレオが地動説を唱えたことなどで、物事を観測して判断すること覚えた。科学的にものを考える価値が17世紀以降はっきりと出てきた。それで、我々は少しものを考えられるようになってきた。
1人では1つの作品も作り出せない
さっき言った通り、個性がそれぞれにあって、個性を大事にしようという話は、うそ。うそを信じて、個性があるということを信じていると、いつまでたっても自分の企画、開発の方法、自分の考え方だけで1つのプロジェクトが達成できると思ってしまうんだよな。
1つの企画を達成する時、自分1人の基準だけで達成できるかと言われるとできない。3人、5人、10人とあっという間に関係者ができる。(企画を進めるときは)相手を納得させて、ある時には半分くらい信者にする。信じさせる言葉使いを獲得しなきゃならない。
ということは、あなたたちがもともと持たされている能力、表現力だけでは絶対に、1つの作品企画だって達成できない、作り出せない。
器用貧乏という日本語があるが、器用貧乏は一番危険です。現に一緒に仕事をしている自分と同年齢の人にも、上にも若い人にもいます。器用貧乏が一番使い物にならないかもしれない。即戦力にはなるけど。
自己陶酔型もだめ。自分の企画や考えが絶対だと突っ走るやつは、企画から外す。どんどん凝り固まっていくから。それがヒットすればOKだけど、確率は高くない。いろいろな要素を取り入れなくてはならない時、自分の個性だけ、趣味だけでは取り入れられない。自分の好みは関係ないんです。
なのに何で、「○○さんのポリシーに乗っ取って」とか、「会社の方針がこうだから」とか(言うのだろうか)。さっきあの、いやな言い方、この10年くらいでしか流行ってないような「顧客開発」とかいう言葉使いを平気で使う営業マンに商品開発や作品開発なんてできない。だから、そんなやつの言葉は聞くな。
自分の感性にのっとってというけれど、自分の感性だけでやるプロジェクトは絶対に大きなプロジェクトにはならない。となると、自分自身が、現在の職場・自営業でもいいし、その環境の中で自分がどの位置にいるのかを客観的に観察し、判定する能力が必要になる。そういう意味では、残念なことだけど、スポンサーなり、自分よりも能力ある人なり、自分の先代の人たちの話をあるときは聞かなくてはならないかもしれない。
こういう場で、富野ってやつが何を話すのか1時間くらい聞いてやろうという心根も必要かもしれない。実際、必要だと思う。だから自分も必要とされていることをしゃべりたいと思っています。
お前らと一緒に仕事がしたい だから講演をする
ただ、ハウツーが分かっているなら俺がやる。お前らには、やらせない。分からないから学んでいる。僕が今この場で、何を学習しているかっていうと、どの年代のどういうやつが集まっているのかと、かなりムキになって見ています。
どの場所でも集まっている人はみんな違う。これだけの数の人を、今この瞬間に見られるなんて、こんな便利なことないからね。こういう僕の話に対して、どういう反応をしているか、していないかも。全部僕の資料になっている。
だからお前らが俺の話を聞きに来ているなんて、偉ぶれないんです。悔しいことに。何でかっていうと、俺、お前らと一緒に仕事やりたいから。僕、欲が深いですよねってよく言われます。
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