「僕にとってゲームは悪」だが……富野由悠季氏、ゲーム開発者を鼓舞(6/6 ページ)

» 2009年09月02日 20時06分 公開
[小笠原由依ITmedia]
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CGの絵は、はっきり言ってつまらない

 ちなみに、今までの話はアナログ中心の考え方です。今の環境は、デジタル技術に支えられている。それによって新たに起こっている問題もあるのでは、と思っています。

 去年の初め頃です、俗に言う、CGを最初に始めた第1世代の人たちの中から出てきた言葉がありました。「ついにCGも理工学系の仕事からデザイナーの仕事になっちゃった」というため息混じりの発言です。

 東大の理工学系の先生の発言だと思ってください。それを聞いた時、それまでCGは理工科系の仕事で、基本的に理工科系の人がCG作品を作っていたんだなと思いました。

 そこにデザイナーが入ってきた。だいぶ前からデザイナーのCGを使ってはいたんですが、それが世間に現れるようになったのはここ2〜3年なんだなと実感しました。

 ここで言いたいのは、これまでのCGワークはものすごく妙だなと思っていたこと。CGで絵を書くと絵が下手になり、絵になってないんです。

 何か知らないけど、(CGの担当者に)理屈ではごまかされるし、こういう風にオペレーションしなければレンダリングがどうのこうのとわけの分からないことを言われるので、そういうものなんだと思っていました。「CGで作画をする」とは、作画して操作して、表現としてスクリーンに映したり、プリントアウトする行為を指します。確かに絵は描いていて、モニター上で動かしてはいる。

 理科系の仕事だったのか。だからこんなにCGの絵が、はっきり言います、つまらなかったのか、とその時分かりました。

CGは今後、変わる

 CGのソフトウェアは、しょせん道具。道具をお前がどう使うのかを考えなければしょうがない。最終的にお前の能力を、センスをもって作品を作らなきゃならんと言われてたんだが、これはほとんどうそ八百。うそ八百と感じてないでしょ? 最近それも分かってきました。

 どういう風にうそ八百かというと、筆やペン、ああいうのが道具なんです。筆でもペンでも鉛筆でも、線を描くと上手な人や下手な人、芸術家になる人。プロになる人みんな違う線が描けますよね。CGで作画をするための道具ってそういう個性が見える? 例えば、キーボード打った瞬間とか。

 一番分かりやすい例を挙げます。3DCGのキャラクター、100人の美女の顔がみんな同じだと思わない? それを100人や200人がかり、500人がかりで作画しているんだよね。なぜ同じかと聞くと「そういうソフトがありまして」と言われる。

 筆、ペン、鉛筆と言った道具と、今われわれがデジタルワークで使わされている道具はちょっと質が違う。まだ我々は、筆や鉛筆と同じように使いこなしているとは思えない。道具であってもその使い方が根本的に違うんだよ。

 そういうことを自覚してください。実際にCGワークのスタッフの方と一緒に仕事をさせて頂いたとき、自分が道具に規制されていて、こんなことしかできないという部分に足を踏み入れているにも関わらず、クリエイティブな部分が残されていると思っている方がかなりいてびっくりしました。

 少なくとも絵を描く作画に関していえば、そろそろデザイナーの仕事でなく絵描きの仕事に移行しつつある。CG用のソフトウェアも、かなり対応できるようになったので、ようやくコントロールできるようになってきたと思っています。これ以後CGの絵は変わっていくだろう。

 僕は絵描きではないので、どう変わるかという説明はできない。でも、少なくとも新しい環境に合わせた才能が登場することは間違いありません。

 でもそれが、ピクサー系の作画なのか、日本の某フルCGアニメかと言われたらそうではないと思っている。これまで理工系の連中がやってきた作画の方法を踏襲しているだけにしか見えないから。今後は、もっと自由に作画できるのではないかと思っています。

 ゲームに対しても反映できると思う。けど、まずは、ゲームの本質が遊び事なのか、戦術を開発のためなのものなのかというところからもう1度考えたほうがいい。

道具を使うことで満足していないか

 我々が使わされている道具をコントロールする、使ってみせるということにだけ振り回されていて、本来的な意味で何をしようか、という思考回路が遮断されていたのではないかと思ってください。道具を使うのが面倒くさいばっかりに、使いこなすところまでで気が済んでいたのではないか。

 60年前の日本、とても偉い人たちの集まりでも同じことをやっていたんです。大きな戦艦はいらない戦術だったにも関わらず、戦艦大和を作っちゃった。現在のお金にしてみると、戦艦大和に20兆円くらいつぎ込んでいるんです。

 同じように、デジタル技術やツールを使うことだけに精一杯になってしまっていて、10年後に残るゲームかどうかと考えることを、ここ10年くらいしていなかったじゃないかなと思います。考えられていたらとっくの昔にテトリスを突破するゲームがあっただろうけど、ないわけですから。事実が証明している。

 複雑な道具には怖い部分があります。道具を使うことが目的になってしまって、それを使って何をやろうかと想像できなくなっていることを覚えておいてください。そうすれば、どう突破して、次に進むかは、皆さん方で編み出せるはずです。

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