家電と伝統工芸の融合――開発陣の想いが込められた象印マホービンの炊飯ジャー「南部鉄器 極め羽釜」:売れるのには理由がある(2/2 ページ)
「極め羽釜」ですべてを白紙に
象印マホービンは2001年以降、「真空かまど釜」と呼ばれる内釜を高機能炊飯ジャー商品に採用してきた。これは軽くて手入れもしやすいうえ、「内釜の側面に真空構造を設けることで底面からの熱を素早く釜内に伝え、側面からの放熱は真空層で閉じ込められる非常に優れた内釜でした」と後藤氏が自負するように、象印マホービンの炊飯ジャーの特長でもあった。
しかし、2000年代後半から、象印マホービンの炊飯ジャーの中でも高機能フラグシップモデルの販売不振が目立つようになったという。この事態から脱却するため、社内でも異例の部署横断型のプロジェクトが2009年1月に発足した。炊飯ジャー開発プロジェクトのメンバーは、「1人の不満も出さない炊飯ジャーを作ること」という困難なテーマに挑むこととなり、一度今までの考えを白紙に戻してゼロから再出発する必要に迫られた。そこで出会ったのが、先述の「銀シャリ屋 げこ亭」であり、「げこ亭」では広く浅い形状の釜と全体を包み込むような火力が、美味しいごはんの決め手になっていることをヒントとして生まれたのが「極め羽釜」だという。
「極め羽釜」は、広く浅い羽釜の形状をした内釜で、従来の製品に比較して側面からの加熱を強化することに成功している。その秘密はIH底ヒーター、ふたヒーターに加えて、内釜中央部の羽からも直接加熱し、かまどのような強火と均一加熱を再現しているところにある。
だが、様々な挑戦をすることとなった「極め羽釜」は、内釜の羽部分が実際に販売されている製品の形状になるまで失敗の連続で、炊飯性能と使いやすさを両立するために何度も修正している。また、試作品を持って「銀シャリ屋 げこ亭」にて試食してもらったものの何度もダメだしをされ、その段階でもさらに試作品を作り直したという。
そもそも従来、炊飯ジャーの開発では、外観デザインなどの構造、機能設計を先に行い、内釜はそれに合うものを採用するのが常だった。その常識を覆し、「おいしさの追求」を最優先させた「極め羽釜」は、まず内釜に着手し、それに合わせて構造、機能を設計したという。
そんなこだわりから生まれた「極め羽釜」は、「本当においしいごはんが食べたいという、『本物志向』のお客様に受け入れていただけたのです」と後藤氏が語るように、初年度計画数を3万台としていたところ、発売から3ヵ月だけで出荷台数が1万5000台を突破するほど好調な売れ行きだった。
伝統工芸と家電の融合「南部鉄器 極め羽釜」
「極め羽釜」で釜の「カタチ」を極めた後は、「素材」も極めたいという思いから、伝統工芸品、南部鉄器による内釜を使用した特別仕様の「極め羽釜」、「南部鉄器 極め羽釜」が製品企画された。発熱効率や蓄熱性が高い「南部鉄器」はIH(Induction Heating、電磁誘導加熱)式の炊飯ジャーの内釜としては理想の素材だったのだ。そこで、「南部鉄器」の内釜を生産することができる協力工場を探すことになったものの、従来製品で「南部鉄器」を使用したことがなかったため、量産までの道のりは平坦ではなかった。
その手法はごはんを食べ歩いたときのように、担当者が自ら歩いて工場を探すというものだったが、「やっとのことで見つけた協力工場の生産能力が、実は日に5、6個程度で量産ベースにないことが発覚し、協力工場探しが振り出しに戻ったこともありました」と後藤氏は言う。
「南部鉄器 極め羽釜」について、後藤氏は「極め羽釜」にも「本物志向」のユーザーが多かったのではないかとしつつ、「ごはんは、日本の食文化の原点と言っても過言ではありません。『ごはん』へのこだわり、日本古来の炊き方に原点回帰したという点で、『南部鉄器 極め羽釜』がより多くの『本物志向』のお客様に受け入れられたのだと感じています」と分析する。
実は「南部鉄器 極め羽釜」には、「羽釜」「南部鉄器」という分かりやすいキーワードだけでなく隠されたメッセージがある。それは、一見相容れない伝統工芸品と家電という珍しい組み合わせのコラボ製品を実現させた開発陣が、日本古来の炊飯方式である昔ながらのかまどと羽釜による炊飯を追及していく過程で感じたこと、願い、であるかもしれない。
「南部鉄器 極め羽釜」には、鉄釜ならではのおこげを楽しめる「かまど極め」コースや、茶懐石の最後に食べる「湯の子」というメニューを搭載している。それはただ奇をてらってのことではなく、「現代の技術を通して日本伝統の食文化をもう一度蘇らせたい、伝えていきたい」という象印マホービン、炊飯ジャー開発陣のメッセージでもあり、そういった願いがこの「南部鉄器 極め羽釜」という製品に込められているためにほかならない。
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