女子中高生に絶大なる支持を得る、フリューのプリントシール機:売れるのには理由がある
いまやショッピングモールのゲームコーナー、アミューズメントスポットに欠かせない存在なのが、プリントシール機。その分野で新たな製品を開発し続け、女子中高生に絶大なる支持を得ているのがフリューだ。
プリントシール機で女子中高生のハートを射止める
女子中高生がアミューズメントスポットやショッピングモールのゲームコーナーに向かうとき、お目当てはゲームではなく、プリントシール機なのだそうだ。プリントシール機という言い方には馴染みがない方は、いわゆる「プリクラ」といったほうが分かりやすいかもしれない。しかし、厳密にいうと「プリント倶楽部」はアトラス(現在はインデックスに吸収合併され、「『アトラス』ブランド」になっている)の製品名なので、ここではプリントシール機としておこう。
そのプリントシール機コーナーに、必ずといって良いほど設置されているのがフリューの製品だ。家電製品のように名指しして買うものではないので、メーカーを意識していない女子中高生は多いかもしれないが、彼女たちも「Heroine Face」「LADY BY TOKYO」という製品名には心当たりがあるのではないだろうか。
それもそのはず、同社のプリントシール機はアミューズメントゲーム業界誌、アミューズメント・ジャーナルの年間大賞を4年連続で受賞しているほど、ユーザーの高い支持を得ているのだ。また、2011年に年間大賞を受賞した「BF manual」は、同誌の月間ランキングで8カ月連続1位を獲得している。
「売れるのには理由がある」では、今まで主に家電製品のことを取り上げてきたが、今回はアミューズメント施設向け機器、それも女子中高生中心というピンポイントなマーケティング製品ということで、また違った興味深いエピソードがあるのではないだろうか。それではまず、おおまかなフリューのプリントシール機の歴史をひもといてみよう。
フリューのプリントシール機の歴史
1997年 撮った画像が似顔絵シールになる似顔絵シール機「似テランジェロ」を発売し、プリントシール機事業に参入した。
2000年 「フラッシュショット」を発売。ストロボ(フラッシュ)装備による画質の向上、撮影した画像に対しての落書き(スタンプ、ペン)機能が向上した。この頃、プリントシールが女子中高生の遊びとして定着した。
2004年 通信機能を搭載し、携帯電話連携を実現した「天真爛漫」を発売。これにより、携帯電話への画像送信サービスが定番に。
2006年 「姫と小悪魔」を発売。この機種には一眼レフデジタルカメラを搭載しており、写りが大きく向上した。背景色をお姫様をイメージした「パステル」と、小悪魔をイメージした「ビビッド」という2つから選択できる機能の搭載も初だった。
2007年 「美人-プレミアム-」を発売。高性能プリンターを搭載し、高画質なシールが出力可能になった。業界で初めて「目」を強調する機能を採用し女子高生から大きな支持を得た。雑誌などで、つけまつげなど目元にポイントを置いたメイクの特集などが多かった時期での発売だったため、目ヂカラブームの一翼を担った。以後、目を強調する画像処理はプリントシール機のスタンダードとなる。
2009年 「Lumi」を発売。それまで顔を撮影することがメインだったが、足のつま先まで写る全身撮影が可能となった。思い出と一緒にオシャレ(ファッション)を残すという新提案を行った。
2009年 「美顔ラボ」を発売。3人分までシールがカットされるマルチカット機能で、使い勝手も向上した。
2011年 「LADY BY TOKYO」を発売。近年、主流だった白い撮影ブースで光を拡散させてキレイに撮る方式から、さらにキレイな写りの実現のための黒色撮影ブースや撮影後に背景を選ぶシステムを採用。ナチュラルなのに「盛れる」プリントシール機の火付け役になった。
「プリ」用語を整理
プリントシール機に関する用語は、パソコンやスマートフォン、家電に登場するものとも異なっていて、家族に女子中高生でもいない限り、あまり耳にしないものばかりだ。そこで、まず本編に入る前に「プリ用語」を整理しておきたい。
- 「プリ」:プリントシール(機)の略。「新しいプリ入ったから撮りに行こうよ!」というように、プリントシール機を意味している場合と、「プリ見せて!」というようにプリントシール機で撮影したシールを意味している場合がある。
- 「目ヂカラ」:一般的には目の表情や視線が相手に与える印象のことだが、女子中高生のいう「目ヂカラ」は、化粧(アイメイク)やカラーコンタクトなどで目を大きく強調して見せることを指す場合が多い。プリントシール機では、目の大きさが実際よりも大きく見えるように画像処理を施し、「目ヂカラ」をアップさせている。
- 「目強調」:目の大きさが実際よりも大きく見えるように画像処理すること。顔を的確に認識する技術と程良く目を大きくするという画像処理の加減が難しいところ。初期の機種では、目だけが大きく目立ちすぎてしまうこともあったが、最新のものはより自然な仕上がり。好みに合わせて、数種類から目のサイズが選択できる機能も搭載している。
- 「盛る」:女子中高生が「自分を超越したかわいさ」という意味で使用する語句。目や髪など、一部の顔パーツに使われることもあるが、多くは全体を見て「自分でありながらも、実際よりもよりよく写ること」を指している。当初は「ゴージャスに派手に盛る」ことが優先されていたが、最新の機種では「自然に盛る」傾向の味付けになっている。「今日プリ盛れてる」といったときは、「今日のプリ、キレイに撮れてる」という意味だ。
- 「ピン撮(さつ)」:2人同時に、1人ずつの撮影ができるモード、機能のこと。
- 「プリ画」:プリントシール機から携帯に送信する画像のこと。最近ではブログやSNSの流行により、プロフィール用の画像としての需要も高まっており、プリ画の画質も向上している。
製品開発はリサーチに始まりリサーチに終わるが……
プリントシール機で撮影するとき、最近の女子中高生の傾向として機能の豊富さもさることながら、「どれだけキレイに撮れるか」というのが一番の選択条件になるのだという。そのため、フリューの最新機種(2012年7月現在) 「RUMOR(ルモア)」は、「盛る」加工をしつつもナチュラルさが感じられるプリとして好評だった「LADY BY TOKYO」の写りをブラッシュアップし、さらにナチュラルかつ「盛れる」撮り味になるような調整になっている。カメラ位置や画角なども追求し全身撮影なのに「顔が劇的に盛れる」という、今までにない撮影が可能となっているのが特長だ。
フリューでプリントシール機の開発を担当する業務用ゲーム事業部 開発部 リーダー 高雄行康氏によると、新機種を開発する際のコンセプト、方向性について決定する際には、女子高生へのアンケートや直接のヒアリングによって得られた情報と雑誌やテレビなど女性向けの媒体から得ることができるトレンド情報が重要視されるという。リサーチ対象の選定には、マーケティングの専門業者に対して性別、年齢、趣味などのリクエストを細やかに行い、専門業者はそれに合致するプリントシール機ユーザーを選定する。その後、構築したコンセプトの検証過程でも、女子中高校生を中心としたユーザーの反応は、重要な情報源であり商品性を評価する指標としても活用される。
ただし、リサーチの結果を重要視し、ユーザーの声は事実として真摯に受け止めるものの、そもそものコンセプトに対する評価や判断が、個別の意見に左右されないように注意することが必要になるという。「時には、ユーザー個々の声を『点』として捉えて、コンセプトがブレないようにすることも重要なんです」と高雄氏は語る。実際に「Lumi」を開発している際、そもそも当時「全身を撮る」という概念がユーザーになかったため、ユーザーの反応は決して肯定的なものではなかった。しかし、実際に製品を発売したところ、全身撮影は後継機種でも定番機能になるほど好評だった。「新機能提案タイプの企画では、ユーザー評価だけを判断基準にしていては難しい場合もあると考えています」と高雄氏は振り返る。
リサーチ中に競合他社とダブルブッキングが判明
女子高生に対するリサーチは手慣れたものの同社だが、以前、その難しさを痛感したこともあるという。「開発中の製品についてヒアリングを行っていたんですが、なんと競合他社のリサーチにも参加していることが分かったんです」と、高雄氏は女子高生にリサーチする際の機密情報管理の難しさを強調する。
また新機能提案タイプの企画でも、こんなことがあったという。2005年発売の「Funky High」は、撮影アングルを変えるために床構造を上下させたり、撮影中に風が吹き出たりするだけでなく、ゲームもできるなど、機能がてんこ盛りの機種だった。ユーザーからはびっくりしたり、おもしろがったりという反応は引き出せたもののプリントシール機としては致命的なことにリピーターいなかったのだという。「機能を欲張りすぎて、もっとも重要なはずの写りの良さが二の次になってしまいました。だからリピーターがいなくて、市場からこの機種が消えるのも早かったんです」と、高雄氏はそれ以降、同社が写りの良さをまず第一に製品開発をするように努めており、それこそがフリューのプリントシール機開発の秘訣であると教えてくれた。
実際の製品に見る「キレイ」な写りへのこだわり
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