段ボール防音室「だんぼっち」にひきこもって歌ってみたよ
周囲を気にせず“歌ってみた”ができる「だんぼっち」を使ってみました。段ボール好きのうちのネコを追い払い、いざ熱唱……!
「松尾さん、だんぼっちのレビューやりません?」「やる! 買おうと思ってたし!」というわけで、ねとらぼ編集部からの依頼でだんぼっちを我が家で試せることになりました。周囲を気にせず“歌ってみた”ができると話題になったアレです。
ヒトカラも良いけどやっぱり自宅で練習したいよね
何を隠そうわたくしは底辺ボカロPである以前に底辺洋楽歌い手です。「天国への階段」とか「エピタフ」とか、古いロックのカバーばかりをやっております。ハードロックが好きなのでシャウト系の曲が多いんですが、困るのが自宅で録音するとき。
録音ならカラオケ屋でヒトカラとか、スタジオの個人練習でやればいいじゃんという意見もあるでしょうが、いきなり行ってその場で歌うってのはできないのです。何度も間違いながら録音してやっとできるもんなんですよ。その間に上達していくわけだし。やはり自宅に録音ブースがほしい。アビテックスほしい。
憧れはヤマハの防音室「アビテックス」だけど……
個人用防音室の中で最も評価が高いのが、ヤマハの防音室「アビテックス」。使っているプロミュージシャンも多いです。見積もりシミュレーションしてみたのですが、一戸建て1階設置1.2畳で夕方6時までの防音レベルということで82万9500円。わお。
「金はないけど防音したい」ニーズはヤマハも認識しているようで、レンタル、中古もヤマハ自身がやっていて、それだと月々1万円ちょっとから(0.8畳)。ただ、1年以上の契約が必須で、解体時には4万6000円かかります。確かに安いけど、お手軽にというわけにはいかないですね。いや、なにも完全な防音を目指しているわけじゃないんです。ただ、ご近所の迷惑になったり、家族の目を気にせずに歌の練習や録音ができるといいなあ、と常々思っていたんです。
だんぼっちは、そのくらいのニーズにぴったり合致して6万円を切るお値段(5万9800円)。設置・解体にも別料金がかかる防音室に対し、これは組み立ても自分だけで手軽にできるという話。届くのを心待ちにしておりました。
だんぼっちの組み立てはほんとに簡単
発売前のだんぼっちが開発・販売元のVIBEさんから我が家に届いたのは1週間ほど前。巨大でした。110(幅)×80(奥行き)×160(高さ)センチの部材が収納されているんだから当然ですが。
組み立て方のマニュアルがなぜか入っていなかったため、箱に入っているもののどれが部品でどれが梱包(こんぽう)材なのか分からずに苦労しました。だってどれもこれも段ボールなんだもん(ちなみに今回のレビューに使っただんぼっちは試作品のため、製品版とは形状などが一部異なります)。
幸い、公式モニターの方のブログで解説されていたので、それを参考に組み立てました。ただし、バージョンによっていろいろ違いがあるようで、四辺のところのプラスチックも、ぼくのところに届いたのは白。実際に販売される製品版に近いようです。
上下それぞれ1枚、縦板が3枚、そして扉。合計6枚の段ボール板を組み合わせるのですが、ただ組み合わせていくだけなので、1人でもなんとかできました。扉の取り付けと気密性を高めるためのねじ絞めを終えたら完成。棚板もありますが、これはただ置くだけ。十数分あればできるのではないでしょうか。
ドライバーなどの工具は一切要りません。これだけ簡単なら、バラして移動も手軽にできます。毎日組み立てるのはさすがに面倒ですが、引っ越しなんかのときは便利ですね。組み立てたままでも同じ部屋での移動なら、ずるずるとひきずっていけます。軽いので。
段ボール――それはネコとの戦い
ところで、組立て時の写真でお分かりのように、うちにはネコが2匹います。新しい段ボールが来ると、必ずその中に入り込むことになっているので、段ボール製防音室もその標的になるかと怖れていたのですが、それはなかったようです。外装がきれいにフィニッシュされていて段ボールよりも固いので、それとは気づかないのかもしれません。
しかし、中にこもって録音していると、上からゴリゴリ音がします。天井に乗って、通気口に乗せてある段ボール箱で爪研ぎを始めたのです。これはいかにも段ボールなので、標的になってしまいました。ネコが天井に乗らないように工夫しなければなりません。160センチと手頃な高さのようなので、通気口の周辺に軽いものを乗せてふさぐことにしました。
ネコがのっかるのを防止できればそれでよし。ネコとの戦いはひとまず終了です。それでは中に入って試してみます。
だんぼっちの中で歌ってみた
中は高さが150センチ弱と、多くの人は立ったままで作業するのは難しいです。なのでイスを置いて座って歌うなり演奏するなりすることになります。ただし、このだんぼっち、ボーカル専用にできていて、例えばギターや管楽器などの特性には向いてないそうです。なので、試してもいません。歌うかしゃべるか、どっちかってことですね。
で、歌ってみました。動画はこちら。
11月21日に東京ドームで行われたポール・マッカートニーの最終公演に行ってきて、さすが俺の人生を変えた人はすげーな、ということで、アンコールの「Hey Jude」をだんぼっちの中で再現しようという試みです。
中に持ち込んだ機材は、iPad Air、iPad 2、iRig Mic、そしてビデオ収録用のiPhone 5s。まずは、内外のノイズの違いなどを披露して、部屋の中のノイズがかなり軽減されているのを確認。そして真っ暗。だんぼっちに入ってびっくりする前に、懐中電灯アプリなどをライト代わりにしておくといいです。
収録ですが、イスがキイキイいわないように、マイクのケーブルと棚が触れ合わないように気をつけたりしながらポジションを確認。あとはひたすらGarageBandに録音、聞き直し、歌い直し。5分以上の曲をたぶん7、8回は録り直して、最後のシャウトのところは声が出るようになるまで何度もリトライして、最後はあきらめてだんぼっちから出てきました。2時間以上はこもっていたようです。すると、部屋が寒い。
そう、だんぼっちは暖かいのです。暖房っちでもあるんですね。目張りがされているために、外気がシャットアウトされます。通気口はありますが。エアコンも高いのは10万円以上したりしますから、5万円台で確実に寒さをしのげるだんぼっち。コストパフォーマンスは高いかもしれません。
あ、肝心の遮音性ですが、実はだんぼっちの中と外では会話ができるくらいで、完全な防音ではありません。しかし、音量は確実に下がります。我が家の場合は普段、1階で収録しているときには2階にも何の曲を歌っているのかが聞こえてしまうという状態だったのですが、だんぼっちにこもっていると「何かやってるのは分かったけど、それが何なのかまでは分からなかった」と家族のコメント。騒音のレベルが1段階下がるのは確実だと思います。
ただ、防音室を使ったからといって、騒音を完全にシャットアウトとできるかというとそうではないので、使う時間帯などは考えておきたいですね。アビデックスでも、24時間使える防音は別途見積もりと書かれています。
音質はどんな感じ?
次に音質です。最初に気になるのは、リバーブがかかっていること。段ボールの反射音がけっこうあるのです。ナチュラルリバーブと思って納得し、後で加工すればそれほど気にならないかもしれません。PET素材を利用した吸音材を内部に貼るという方法もあるみたいなので、気になる人は試してみるといいかも。
サンプル動画としてあげたHey Judeの後半、動画の3分30秒以降にさまざまなシャウトを試みていますが、これは、以前部屋の中で録音したときには歌えませんでした。恥ずかしくて。ベーラベラベラベラウギャー!! とかやってるときに家族が入ってきたりしたら赤面もの。東京ドームで6万人と一緒に歌ってる気分が一気にしょぼんとなります。
だんぼっちがあれば、そんな魂を削られるようなこともなく、窓もない真っ暗なブースで、己の声に磨きをかける孤独なロックシンガーになりきれるのです。
結論としては、返却したくありません。だって、年末のライブに向けてバンドを3つもかけもちしてて、ボーカルの練習をしなくちゃいけないんです。しかもその曲は、通常のボリュームでは出せない音域なので、こもって全力シャウトを練習できる環境が必要なんです。
ニコニコ動画やYouTubeに投稿している歌い手や生主だけじゃなく、ご近所や家族を気にしている全ボーカリストが持つべきものじゃないでしょうか。ギターやシンセを1台買うと思えば安いものだし。「ボーカルは金かかんなくていいよな」とほかのバンドメンバーから言われたら、「いや、俺も防音室入れてリキ入れてやってるよ」みたいな会話もできますし。
ところで、VIBEでは、静音(しずね)というキャラも用意してるんですね。とても艦これっぽいです……。
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