凧を揚げて気分もアガる! 好きなキャラ絵を描き込む“痛凧”の魅力司書メイドの同人誌レビューノート

“和凧×萌絵=痛凧”。

» 2016年09月18日 11時00分 公開
[シャッツキステねとらぼ]
シャッツキステ

 あんなに暑かった日差しが一段落して、気付けば吹く風もどこか爽やか。そろそろ秋を感じ始めるこの時期に、凧を作ってみませんか! そう、風に乗って天高く舞い上がる、あの凧です。「凧って子どもがお正月に遊ぶものでしょ?」という印象は、この本を読んだら変わるかもしれませんよ。

 今回紹介する同人誌は、「痛凧」を作るところから揚げている様子までを収録した内容。そもそも痛凧とは何かと申しますと、アニメやマンガのかわいいイラストを塗装した自動車を「痛車」と言いますが、それを凧に施したもの。表紙の“和凧×萌絵=痛凧”のキャッチフレーズが分かりやすいですね。今回の本は痛凧シリーズ10冊目ということで、作者自らの痛凧歴を語るセルフインタビューからスタートしています。

今回紹介する同人誌

「イチから始める痛凧作成ガイド 冴えない痛凧の育て方素敵なヨメをこの大空へ ♯9」 B5 60ページ 表紙カラー 本文モノクロ

「普通の同人誌作家が【いただこ】やってみた。 素敵なヨメをこの大空へ ♯10」 B5 32ページ 表紙カラー 本文モノクロ

著者:里尾 栃


同人誌「イチから始める痛凧作成ガイド 冴えない痛凧の育て方素敵なヨメをこの大空へ ♯9」同人誌「普通の同人誌作家が【いただこ】やってみた。 素敵なヨメをこの大空へ ♯10」 青空に、痛凧が映えます!

きっかけは「らき☆すた」の聖地・鷲宮。老後を見据えたオタク趣味!?

 そもそもは「らき☆すた」で賑わう埼玉県の鷲宮で、「今度、キャラクターを描いた凧を揚げます」という趣旨の告知を見たのがきっかけだそう。そして出会ったのは、本物の和凧職人さんによってキャラクターが堂々と描かれた、筆使いも見事な凧。そのかっこよさに魅せられ、さらに「趣味は『和凧づくり』というと、年を取っても続けていけそう!」という理由を見出して、作者さんは痛凧作りに取り組むことに。

 ちょうどそのころ、ご自身の同人サークル活動が迷走していた時期だったとか。うん、ちょっと分かるような気がします。いろんなアニメやマンガを好きになって、ものすごく情熱を傾けて過ごすのですが、そのうち少しずつ穏やかになって、ある時ふっと「あんなに好きになれるものってこの先、出てくるのかな」と思ってしまうこと、あります(その後、何の前触れもなく情熱がめらめらと再燃焼することも、ままある話なのですが)。好きという気持ちを根底にしたものづくりの楽しさを知っているからこそ、「『何か作り続けていきたい』って気持ちがまた湧いてくることってあるのかな」と寂寥(せきりょう)感に胸を締めつけられるのではないでしようか。マンガや小説という特定の方法ではなくても、「何かこの好きって気持ちを楽しく表現したいな」と思うこともありますよね。

同人誌「普通の同人誌作家が【いただこ】やってみた。 素敵なヨメをこの大空へ ♯10」 こんなにたくさんの痛凧も、ひと塗りひと塗り丁寧な手書きです

痛凧ならできる、「描く、作る、揚げる」と三拍子そろった“好き”の発表会

 そんな時、痛凧なら、自らの手で好きな物に関わるものづくりが気軽にできる! と、この本から感じました。本体の凧は自分で一から作り上げることもできますし、市販に無地の凧のキットが販売されているので、それを入手することもできます。既に作り方のフォーマットがある程度決まっているのが、第一歩として取り組みやすいですね。

 そして痛凧の醍醐味は、なんといっても凧に自分で絵を描くこと。描くといっても、趣味の範疇(はんちゅう)として既存の絵を写し取ることが多いようなのですが(このあたりの作成方法は「冴えない凧の育て方素敵なヨメをこの大空へ # 9」に詳しく解説されています)、この自分で描いた筆跡というのが、実に味わいがあるんですよ。著者の方が最初に職人さんの筆使いにはっとしたのと同じように、筆跡には個性が出ますね。本に掲載された自作痛凧の数々を拝見すると、どのキャラクターの表情も笑ったり驚いたり、いきいきとしています。「ああ、こんな表情で自分の好きなキャラクターが青空に浮いていたら、感無量になりそう」と想像してしまうくらい、愛を込められて丁寧に描かれているのがしみじみ伝わってきます。

同人誌「普通の同人誌作家が【いただこ】やってみた。 素敵なヨメをこの大空へ ♯10」 「水濡れOKを意味して水着のキャラ絵を描く」という独創性! しかし凧あげ当日は晴れたという……

舞い上がれ! 大好きな気持ちを乗せて

 さらに痛凧のすごいところは、制作しただけで終わらず、ギャラリーのいる凧大会に堂々と出て大空を舞わせることができるという点。他人に自慢するために作ったものじゃなくても、丹精込めて作ったら、誰かに見てもらいたくてそわそわすることありますよね。上手に作って天高く揚がるほどたくさんの方に見てもらえると思えば、ますますがんばって制作できそうです。しかも、「この凧は防水仕様にしたから、水着のキャラを描いちゃおう」なんていう創意工夫も実現できちゃうあたりが自作の強み。読んでいるだけで、「私ならどんな凧にしようかなあ……」と夢を膨らませてしまうほどに熱中してしまいました。

 愛情たっぷりの凧ができたら、いよいよ凧揚げです。本には大会に参加された際のレポートが、当日の風の吹き具合や他の凧の様子も交えて書かれています。リアルに参加された最新の2016年情報なので、実際に参加してみたい方にはきっと参考になると思います。

 本によると、10月末ごろにはまた凧あげ大会が予定されているとのこと。今から制作してもまだ間に合うかも!? 秋の真っ青な快晴に、大好きなキャラが飛び立つ様子を想像するとわくわくします。痛凧が人生の新しい趣味のひとつになるかもしれませんね!


サークル情報

サークル名:全国痛凧連合

参加予定イベント:「おもしろ同人誌バザール」(有楽町交通会館で10月30日開催)

Webサイト:https://sites.google.com/site/itadakorengou/

pixiv:http://pixiv.me/ita-dako


今週のシャッツキステ

シャッツキステ 館内で映画「シン・ゴジラ」のネタばれOKの会が行われました。画像は、会話がヒートアップした時のためにお茶の出し方を研究するメイドです。「呼び名は『お紅茶ドン』かしら?」と思っていたのですが、つぶやきでステキなお声がけをいただいて「ティードン」と呼ぶことにしようと思います。ティードンって新しい怪獣みたいですね……

著者紹介

司書メイド ミソノ 司書メイド ミソノ:秋葉原カルチャーカフェ「シャッツキステ」でメイドとしてお給仕する傍ら、とある大きな図書館で司書としても働く“司書メイド”。その一方で、こよなく同人誌を愛し、シャッツキステでも「はじめての同人誌づくり」「こだわりの特殊装丁」の展示イベントを開く。自身でも同人誌を作り、サークル活動歴は「人生の半分を越えた辺りで数えるのをやめました」と語る

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