「諸悪の根源は製作委員会」ってホント? アニメ制作における委員会の役割を制作会社と日本動画協会に聞いた(3/3 ページ)
日本動画協会に聞く、製作委員会とアニメーター
制作会社の取材内容を受けて、編集部ではアニメ製作の業界団体・日本動画協会に所属する増田弘道さんにも見解を伺いました。増田さんは1979年にキティミュージックに入社。2000年にアニメ制作会社マッドハウス代表取締役に就任し、現在はビデオマーケットの監査役を務めるなどアニメや出版の業界に関わってきました。
製作委員会方式は映画から始まった
――製作委員会に関する情報がネットで話題になっています
動画協会・増田さん:昔から「テレビ局が悪い」とかそういう話はよく聞きましたから、今は「製作委員会が悪い」になっているのでしょうね。そもそも製作委員会の歴史は映画から始まっています。昔は1社出資で作品を作っていましたが、1958年をピークに徐々に観客動員数が少なくなっていき、そこで生み出されたのが製作委員会方式です。テレビアニメに関しては1984年にOVAが誕生し、1996年からはアニメの深夜放送が始まったことから製作委員会方式を採用するアニメが増えてきました。
――製作委員会方式が主流になってきたのはいつごろからでしょうか
動画協会・増田さん:2000年代からですね。製作委員会の名称について「○○町内会」「○○組」のように名前のお遊びが始まったのもこのあたりからでした。
――製作委員会方式ならではの問題などはありますか
動画協会・増田さん:作品の著作権が製作委員会に全共有されるため、何かをするためには基本的に製作委員会参加者全員の承諾が必要です。そのため決め事に時間がかかることでしょうか。
――製作委員会に入りたくても入れないというケースはあり得るのでしょうか
動画協会・増田さん:あり得ます。そもそも、もうかっている作品の製作委員会にはあとから入れてくれと言っても入れてもらえません(笑)。それは冗談として、ビジネスプランの確立は、製作委員会においてかなり重要なファクターです。担当窓口となる事業に対して意欲的な回収計画を描けて、なおかつ宣伝的にもシナジーを発揮できるというプランがなければ参加は難しいでしょう。
――ネットでは「スポンサーがアニメ制作会社がもうけることを嫌う。そのためもうけすぎないようにグッズの出荷調整を行っている」という情報もありましたが
動画協会・増田さん:そんなことはないでしょう。グッズが売れれば製作委員会に出資した全ての会社に利益が配当されるわけですから、わざと赤字にしたりすることはあり得ません。偶然品薄になった商品がそう見えたのかもしれませんね。
声優とアニメ作品の関係
――アニメ業界のウワサの中には「有名声優を使ったために予算が足りなくなり、アニメーターに支払う制作費から補填したらしい」という話もあるようなのですが
動画協会・増田さん:それは絶対にないですね。制作費の中には音響費というものがあり、アニメーターに支払う予算とは別に組まれているので、そこから割り振るということはあり得ません。
――声優のギャラは結構高いんでしょうか
動画協会・増田さん:音響費は大体制作費の15%程度の枠の中でやりくりするのですが、声優の報酬はランクが定められており1人あたり1万5000円から4万5000円までがスタンダードです。中にはランク外でこれよりもかなり高い方もいますし、俳優や芸能人などを起用するともっと高くなります。
編集部注:金額は1話数あたりの数字。
アニメーターへの利益還元
――アニメーターからは「作品がヒットした時に何らかのインセンティヴが欲しい」という声もあります
動画協会・増田さん:確かにもうかった時にアニメーターやその他のスタッフに還元するシステムはあっても良いと思います。しかし、では赤字だった時はどうするのか、という問題もあるんです。アニメ作品の多くは赤字状態なので、もうかったときだけ還元していると、システムがうまく回らなくなってしまいますよね。まあ、もうかったら還元するという曖昧な約束よりは目先のギャラを上げる方が説得力があると思いますが(笑)、当たるかどうかはホントに分かりませんからね。
――アニメーターの離職率が高いという話も度々話題になっています
動画協会・増田さん:アニメーターは技術職なので、一人前になれるのかならないのか育ててみないと分かりません。アニメーターにも動画職と原画職がありますが、現在動画職は原画職へ上がるためのステップと考えられています。原画は実写で言えば役者と撮影を兼ねた重要な役割を担っています。非常に高度な技術を求められるので、そこに上がるための動画職としての研修期間は長く、その間給料も安かったりするので確かに定着率は低いですね。ジブリや東映アニメーションのように動画職に対してもいい雇用条件のスタジオはあるのですが、それはまあ企業体力次第ですね、やはり。またアニメーターは基本的にフリーランス指向があるので、一人前になった途端に会社を移るケースが多いことも事実です。
――アニメーターは長時間労働とも聞きますが
動画協会・増田さん:例えば「毎日終電まで働いている」と聞くと、ものすごい長時間労働なんだとびっくりしますよね。しかし、よく見ると出社時間は夕方なんてことも多いのです。ただし一方では作画監督の長時間労働が浮き彫りになってきており、これは現在の制作事情をよく反映していると思います。
――アニメーターが1人前になれたら給料は安定するのでしょうか
動画協会・増田さん:動画職から原画職になれば作画単価が一気に20倍以上になるケースもあります(※)。固定給や歩合など契約によって違いますが、ある程度安定するでしょう。キャラクターデザインや作画監督といった付加価値が付くようになると「稼げるようになる」ケースが多いです。
※動画単価を200円前後、原画単価(レイアウト+原画)を4000円程度と考えた場合。
アニメ業界の今後
――これからのアニメ業界はどうなっていくのでしょうか
動画協会・増田さん:キーワードはデジタルでしょう。今後はデジタル技術を良い形で導入した会社が伸びるでしょう。ただし、デジタルの導入には投資が必要なので経営者の意識改革も求められるようになると思います。最初からデジタル志向のCG系の会社はIT系の血が入っていることもあって生産性の向上に前向きです。また労働環境も既存のアニメスタジオより敏感です。流通(ネット)も含めてやはりデジタル技術によって業界は変化していくといくのは間違いないと思います。
低賃金、長時間労働など、マイナス要素が注目されがちな最近のアニメ業界。現場レベルの不満はSNSなどを通して目につきやすい反面、業界全体の構造については周知されておらず、「全貌がよく分からない」といった声もあがっていました。
今回取材に協力いただいた複数の関係者から指摘されたのが予算の枯渇。製作委員会方式で2億円もの予算が確保されるのに関わらず、高いクオリティーが求められる現在のアニメ制作現場ではその予算が足りないという状況が発生しています。関係者の一人は「アニメ作品の急増に伴い、力のないアニメーターや制作会社が急増してしまった」と話し、自転車操業に陥っている制作会社も出てきているとも話していました。
ねとらぼでは過去にもなぜアニメの放送は“落ちる”のか、アニメーターの待遇問題は改善されているか、女性アニメーターに聞くアニメ業界の今など、アニメーターや現場関係者に焦点を当てた記事を掲載してきました。今後も本記事で提起された「キーワードはデジタル」など、まだまだ掘り下げたい分野の取材を引き続き行っていきたいと思います。
(kikka:聞き手・構成、福田瑠千代:聞き手)
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