ニュース
» 2018年02月22日 16時30分 公開

ゴボウとご飯がてんこ盛り! 300年以上続く福井の奇祭「ごぼう講」に行ってきた

超大盛りのゴボウ料理とご飯をみんなでパクリ。

[中川マナブねとらぼ]

 近年まれに見る記録的豪雪に見舞われた北陸・福井県越前市国中町では、「惣田正月十七日講(そうでんしょうがつじゅうしちにちこう)」(通称:ごぼう講)と呼ばれる奇祭が毎年2月17日に催されています。

福井 300年 奇祭 ごぼう講 福井で300年以上続く奇祭「ごぼう講」

 その始まりは江戸中期の宝永2年(1705年)。領主の年貢が厳しくなり、地域の神社裏にある隠田で収穫した米を藩主に隠れて食べたとも、村の結束を強める目的だとも言われています(諸説あり)。今回、300年以上に渡ってこの地域で脈々と続いている奇祭を前日の準備から取材してきました。

ごぼう講 福井県越前市国中町 ごぼう講の舞台、福井県越前市国中町

 ごぼう講」の舞台となる福井県越前市国中町は、JR福井駅から車で南下すること約35分のところにあります。

ごぼう講 氏神様 国中神社 地域の氏神様「国中神社」

 隠田があったとされる町名の由来となった地域の氏神様「国中神社」の境内は、立ち入ることができないほど深い雪に覆われていました。戦時中は社務所でごぼう講が行われたこともあったのだとか。

ごぼう講 下準備 前日から下準備がはじまっていた

 ごぼう講に参加できるのは国中町に住むおよそ45戸の“講人”と呼ばれる男性たち。祭りを取り仕切る宿主は講人の持ち回り制で、当番になるのはおよそ45年に一度。祭りの費用は毎回、その年の宿主が全て負担する決まりで、宿主が回ってくるのを機に(舞台となる)家をリフォームする人も少なくないそうです。

 祭りの前日となる2月16日。今回ごぼう講が開かれる宿主の見延さん宅の隣のガレージには講人が集まり、祭りで供されるゴボウ料理の下準備をしていました。

ごぼう講 青森産のゴボウが300キロ 青森産のゴボウが300キロ

 プラスティック製のケースに入っているのは300キロものゴボウ。長さが整えられたゴボウは縄で束ねられ、糠に入った水にさらしてアク抜きをします。昔は国中町でもゴボウが採れたといいますが、今は青森産のゴボウを使っているそうです。

ごぼう講 ゴボウ ゆで上げ 束ねたゴボウを大きな釜で20分ほどゆで上げます

ごぼう講 ガレージ内に作られた仮設調理場 ガレージ内に作られた仮設調理場

 ゆで上がったゴボウは冷めないうちにガレージ内に運ばれます。ガレージ内は前が見えなくなるほどの湯気が立ちこもり、ゴボウの香りが充満していました。

ごぼう講 ゆでたてアツアツのゴボウ ゆでたてアツアツのゴボウ

ごぼう講 すりこぎでたたくと簡単にほぐれる すりこぎでたたくと簡単にほぐれる

 ゆでたてのゴボウをすりこぎでバンバンとたたいて繊維をほぐし、さらに食べやすいように手でほぐしていきます。

ごぼう講 作業 みんなで語りながら作業します

 作業に当たっていたのはおよそ25人。参加していた70代の方にお話を聞いたところ、その昔はこの地域で田畑や山を所有していないとごぼう講に参加することができなかったそうです。終戦後、一時は中止を考えたこともあったといいますが、凶作だった寛永元年(1748年)と宝暦5年(1755年)を除いて食糧難だった戦時中も欠かすことなく、現在まで続いてきたとのことです。ここまで続けてこられた理由を聞いてみると「国中町に生まれた男の意地があるから」と話していました。熱い。

味噌は市内にある味噌専門店で1年前からこの日のために仕込まれた味噌を使用 味噌は市内にある味噌専門店で1年前からこの日のために仕込まれた味噌を使用

 ほぐしたゴボウは砂糖を合わせた味噌であえ、樽の中で一晩寝かせます。別の鍋ではゆでたゴボウを丸切りにして醤油、味噌、砂糖、酒で味付け、唐辛子を入れた油で炒めた「丸揚げゴボウ」を作っていました。

丸揚げゴボウは甘辛に炒め煮 丸揚げゴボウは甘辛に炒め煮

別鍋では下駄割大根を調理 別鍋では下駄割大根を調理

 ガレージのお隣では大根を鶏がらスープや醤油、酒でじっくり煮た「下駄割(げたわり)大根」を調理。試食させてもらったところ、じっくり煮込まれた下駄割大根は味がしみてホクホクと柔らかかったです。

味がしみこんだ下駄割大根 味がしみこんだ下駄割大根

宿主の見延勝彦さん 今回のごぼう講の宿主、見延勝彦さん

 今回の宿主となる見延勝彦さんは、下準備にめどがついたところで羽織袴に着替え、講人の家にあいさつ回りに向かいます。前述の通り、祭りの費用は毎回、その年の宿主が全て負担。まさに一世一代の大行事ですね!

羽織袴姿の正装で全員集合 羽織袴姿の正装で全員集合

 一夜明け、ごぼう講の当日。前日までの和やかな雰囲気とは打って変わり、羽織袴姿の正装に身を包んだ講人が集まり、厳かな空気の中神事が始まります。神座では神主のおはらいと祝詞があげられ、玉串をささげて1年の豊作と繁栄を祈ります。

御膳に用意されたゴボウ料理と物相飯 御膳に用意されたゴボウ料理と物相飯

 ここでごぼう講で供される料理をあらためてご紹介。前日に準備した味噌あえのゴボウ(大量)、5合分のボリュームが圧巻の「物相飯(もっそうめし)」と呼ばれる超大盛りのご飯。丸揚げゴボウと半切りのたくあん、下駄割大根の上には焼き豆腐が1丁、味変え用に唐辛子が1袋つきます。

調理器具が重要文化財並みに古い 調理器具が重要文化財並みに古い

 物相飯は物相型(もっそうがた)と呼ばれる木製の型に、超てんこ盛りのご飯が盛られます。物相型の側面には“天保十年”(1839年)と墨で書かれたものもあり、およそ180年前からこの形でご飯が作られていたことが分かります。ちなみに「天保十年」がどれくらい古いかというと、その2年前に起こった主な出来事が「大塩平八郎の乱」(1837年)。マジか……!

乾杯後は直会(なおらい)と呼ばれる宴がスタート

神事が終わると次第に和やかな雰囲気に 神事が終わると次第に和やかな雰囲気に

いよいよ大盛りゴボウ食うぞ! いよいよ大盛りゴボウ食うぞ!

早速、ひとくち 早速、ひとくち

手でゴボウをつまんでパクリ! 手でゴボウをつまんでパクリ!

次々とお酒が注がれます 次々お酒が注がれます

 お酒は宿主の親戚が一人一人に注いで回り、お互いの近況を語らいます。

だんだんお酒が回ってきました だんだんお酒が回ってきました

みんなでゴボウを豪快にパクリ みんなでゴボウを豪快にパクリ

飲んで食べてにぎやかな「ごぼう講」 飲んで食べてにぎやかな「ごぼう講」

 講人たちが大いに飲んで、食べ、語らった宴はその後もにぎやかな雰囲気で続きました。ちなみに食べきれなかった料理はパックに詰めて家に持ち帰るのだそうです。

 男性しか参加できないごぼう講ですが、それを支える講人の奥様方の協力なしには開くことができません。直会が終わり、講人が帰宅した後、協力いただいた皆さんに感謝とねぎらいの食事会が開かれるそうです。

 深い雪がまだまだ残る福井県で300年以上続く「ごぼう講」は国中町で生まれ育った男子が一世一代の大盤振る舞いをして地域の人々の健康と豊作を祈るお祭りでした。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

昨日の総合アクセスTOP10
  1. /nl/articles/2312/02/news048.jpg 「明らかに写真と違う」 東京クリスマスマーケットのフードメニューが物議…… 購入者は落胆「悲しかった」
  2. /nl/articles/2312/03/news054.jpg 藤本美貴、“全然かわいくない値段”のテスラにグレードアップ スマホ一つでの注文に「震えちゃ〜う!」
  3. /nl/articles/2312/02/news075.jpg 黒木啓司の妻・宮崎麗果、1年空けずにフェラーリを追加購入 愛車は高級外車ぞろい「何台目!?」「カッコいいの一言」
  4. /nl/articles/2312/07/news009.jpg 「入居者が全くいない」ボロボロの築古アパートをリノベしたら……? 驚愕の“激変ぶり”に「すてきです!」
  5. /nl/articles/2312/03/news018.jpg 黒猫に見えるニャンコ、“かわいすぎる秘密”をかくし持っていた……! まさかの事実に「じゃないんだ」「白い……!」
  6. /nl/articles/2312/03/news015.jpg ハムスターが「寒い寒い!」とスライディングお布団→「スヤァ」 人間味あふれる“ぬくぬく姿”が「可愛すぎ注意」と話題
  7. /nl/articles/2208/06/news075.jpg 「ごめん母さん。塩20キロ届く」LINEで謝罪 → お母さんからの返信が「最高」「まじで好きw」と話題に
  8. /nl/articles/2312/03/news012.jpg 猫たちがストーブの特等席を陣取るが、大事な事に気付き…… 「おかあさーん!!」とシンクロで訴える姿に冬の訪れを感じる
  9. /nl/articles/2312/02/news003.jpg ちいかわデザインのおくすり手帳を開いたら……? “まさかの中身”に衝撃走る「絶対に笑ってはいけない」
  10. /nl/articles/2311/30/news197.jpg 一世風靡の52歳元アイドル、がん受診の遅れ巡って後悔しきり 同じ病で亡くした母思い「怖さわかってるはずなのに」「自業自得なんです」
先週の総合アクセスTOP10
  1. 大好物のエビを見せたらイカが豹変! 姿を変えて興奮する姿に「怖い」「ポケモンかと思った」
  2. 「3カ月で1億円」の加藤紗里、オーナー務める銀座クラブの開店をお祝い “大蛇タトゥー”&金髪での着物姿に「極妻感が否めない」
  3. 愛犬と外出中「飼いきれなくなったのがいて、それと同じ犬なんだ。タダで持ってきなよ」と言われ…… 飼育放棄された超大型犬の保護に「涙止まりません」
  4. ミキ亜生、駅で出会った“謎のおばさん”に恐怖「めっちゃ見てくる」 意外な正体にツッコミ殺到「おばさん呼びすんな」「マダム感ww」
  5. 永野芽郁、初マイバイクで憧れ続けたハーレーをゲット 「みんな見ろ私を!」とテンション全開で聖地ツーリング
  6. 道路脇のパイプ穴をのぞいたら大量の…… 思わず笑ってしまう驚きの出会いに「集合住宅ですね」の声
  7. 柴犬が先生に抱っこしてほしくて見せた“奥の手”に爆笑&もん絶! キュンキュンするアピールに「あざとすぎて笑っちゃった」
  8. 病名不明で入院の渡邊渚アナ、1カ月ぶりの“生存報告”で「私の26年はいくらになる?」 入院直後の直筆日記は荒い字で「手の力も入らない」
  9. 小泉純一郎元首相、進次郎&滝クリの第2子“孫抱っこ”でデレデレ笑顔 幸せじいじ姿に「顔が優しすぎ」「お孫さんにメロメロ」
  10. デヴィ夫人、16歳愛孫・キランさんが仏社交界デビュー 母抜かした凛々しい高身長姿に「大人っぽくなりました」
先月の総合アクセスTOP10
  1. 「酷すぎる」「不快」 SMAPを連想させるジャンバリ.TVのCMに賛否両論
  2. 会話できる子猫に飼い主が「飲み会行っていい?」と聞くと…… まさかの返しに大反響「ぜったい人間語分かってる」
  3. 実は2台持ち! 伊藤かずえ、シーマじゃない“もう一台の愛車”に驚きの声「知りませんでした」 1年点検時に本人「全然違う光景」
  4. 大好物のエビを見せたらイカが豹変! 姿を変えて興奮する姿に「怖い」「ポケモンかと思った」
  5. 渋谷駅「どん兵衛」専門店が閉店 店内で見つかった書き置きに「店側の本音が漏れている」とTwitter民なごむ
  6. 西城秀樹さんの20歳長男、「デビュー直前」ショットが注目の的 “めちゃくちゃカッコいい”声と姿が「お父さんの若い頃そっくり」「秀樹が喋ってるみたい」
  7. “危険なもの”が体に巻き付いた野良猫、保護を試みると……? 思わずため息が出る結末に「助けようとしてくれてありがとう」【米】
  8. 「やばい電車で見てしまった」「おなか痛い、爆笑です」 カメがまさかの乗り物で猫を追いかける姿が予想外の面白さ
  9. おつまみの貝ひもを食べてたら…… まさかのお宝発見に「良いことありそう」「すごーい!」の声
  10. 「3カ月で1億円」の加藤紗里、オーナー務める銀座クラブの開店をお祝い “大蛇タトゥー”&金髪での着物姿に「極妻感が否めない」