ミステリ好きが早口で語る! ドラマ「アンナチュラル」の面白さ(5〜7話)(3/3 ページ)
7話「殺人遊戯」
7話は“惜しい”回だと感じました。ネットを使った劇場型犯罪、タイムリミットを設定してミコトに戦いを挑んでくる犯人――という、エンタメとして面白いシチュエーションをリアリティレベルを変えることなく無理なく設定しています。
しかもミステリファンがうれしくなってしまうような要素があります。中でも声が出たのは「ソア橋」。ホームズが登場する作品の中でも決して認知度が高くないだろうエピソードを引き合いに出しながら、ガチガチの物理トリックを描いたのには歓喜しました。
ですが……いわゆるミステリらしい物理トリックを使った副作用として、レギュラーキャラの掘り下げパートを挟む余地がないくらい、事件が複雑化してしまいました。本来7話は5話の中堂さんの行動のカウンターとして配置されていたように思うのですが、中堂さんの感情を描けていたかというと疑問です。また、そもそも中堂さんと“犯人”が重ね合わさるかというと、実はそうでもなかったり。
それに、キャラクターの深掘りを犠牲にしてまで実現したトリック自体は……(長い沈黙)。1話から見てきた身からすると、もう少し考えてほしかった! ぱっと思い付くだけで10個は疑問点が挙がってきます。
最大の欠陥は、“あの犯人”なら、そんなトリックを実行する必然性が全くないということ。あれだけ大掛かりな上失敗のリスクが高そうな仕掛けをしなくても、もっと簡単に目的が達成できました。なお「名探偵コナン」にも同様の目的で考えられたトリックがありますが、おそらくそちらの方が実現ははるかに容易ですし、コナンではきちんと「トリックを使わなければならない」状況の必然性もあります。“犯人”には「ソア橋」だけではなく「コナン」も読んでおいてほしかった……。
「アンナチュラル」は、ミステリ的な発想だけでできていないからこそ、面白いエピソードがたくさんありました。ところが一番「ミステリらしい」仕掛けを使った7話では、「アンナチュラル」らしい面白さが薄れてしまった。あらためて「ミステリって難しい……」と思いました。トリックと人間の描き方がマッチしなくなってしまったというか、仕掛けに話の尺を割くあまりに人間を描けなくなったというか……とにかくミステリ好きとしては複雑な思いを抱きましたね。
“とっておきのデレ”に期待!
「アンナチュラル」の面白さは、「この物語における“敵”は、犯人ではなく、悪意に抵抗する話でもなく、不可解な謎でもなく、不条理な死である」と示されているところにあります。ミステリはここに切り込んでいくのは難しい。ミステリは謎を解き明かし、不可解に抵抗する物語ですから。
この「不可解」と「不条理」の違いが、従来のミステリ作品とは違う視点にまで物語を持ち上げているのだと思います。だからこそ生まれる謎のパターンも見たことがないものがあるし、転がし方も予想を超えてくる。ミステリファンとして、ミステリでありながらミステリではない地平まで見せてくれる面白さを楽しんでいます。
残り3話、ここからはいよいよ「金魚」の話になっていくのでしょう。ついにこれまでそれほどやってこなかった「犯人と対抗する話」が出てくるはず。ドラマとしてどうやってその物語に向き合うのかに強い興味があります。そして、乗り越えた先に見られるはずの“とっておきの中堂さんのデレ”にも期待しています!
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