「目には見えない見どころ」を探せ! 「横須賀トンネル旅」やってみた【観音崎・久里浜・衣笠編】:横須賀トンネルめぐり1日旅(2)(2/4 ページ)
パスタを食べていたら、愉快なウクレレ演奏がはじまる喫茶店
CAFE エルムが提供するトンネルヌードルは「ナスとベーコンのトマトソーススパゲティ・サラダ、カップスープ付き」(税込800円)です。
喫茶店のザ・パスタですね。安心できるおいしさです。サービス精神旺盛なボリュームがうれしい。パスタは110グラム、ナスは2本分使っているそうです。三浦半島を1周するサイクリストでも満足できるボリュームでしょう。ナスはオリーブオイルをたっぷり吸っていて、とっても美味。
CAFE エルムは家族経営のお店です。取材日にはお母さん、お父さん、お嫁さんがおり、気さくに話しかけてくれました。17年前(2001年ごろ)、観音崎には飲食店がないからと早期退職をしてお店を始めたそうです。
そんなトンネルパスタをうまうまと食べていたところ、常連のお客さんがおもむろに「南国の夜を聞きたいな。あの歌好きなんだよ」と言いました。
お母さんは待ってましたとばかりに「南国の夜だって。やるよー!」とキッチンに声をかけます。すると、お父さんもお嫁さんもフロアに出てきて、楽器を構えてビシッと準備OK。演奏が始まり、お母さんが歌いだしました。凛としたパワーのある、何てすてきな声なのでしょう……あぁぁ(うっとり)。……いやいや。な、なんだー、この店はー!?
お母さんがボーカルとウクレレ、お父さんがベース、お嫁さんがパーカッションとコーラスを担当。暇な時間帯であれば、お客さんのリクエストに応えて演奏をします。「家族でできるっていいよね」とお客さんも楽しんでいました。
この日は「南国の夜」「カイマナ・ヒラ」「オール・オブ・ミー」と3曲も歌ってくれました。パスタもおいしかったし、いい音楽も聴けたし、満足、満足。さあ帰りますか。
って、オイ。今日はトンネルを愛でに来たんだった。あまりにもインパクトがあるすごいお店と出会ってしまって、本題に入る前に満足してしまいました。おそるべし横須賀。
トンネルヌードルは取材日(2018年11月5日)時点で約60食とかなり売れているそうです。「東京から来る人もいるのよ。東京には歴史あるトンネルがなかなかないそうね」(お母さん)と反響に驚いていました。
CAFE エルムでもらえるトンネルカードは「鴨居隧道」。CAFE エルムから徒歩7分くらいの場所にあります。地元の方も気が付いていませんでしたが、鴨居隧道は全国でもめずらしい特徴があるんです。
この装飾が珍しい「鴨居隧道」
「小さい古いほうだからねー! 気を付けて」とCAFE エルムのお父さんに見送られながらトンネルに向かいます。昔は、浦賀へ行くのに険しい山を歩いて越えなければなりませんでした。その後谷を歩くようになり、昭和9年(1934年)に鴨居隧道ができました。昭和46年(1971年)にはさらに大きい新鴨居隧道が造られます。2018年現在は鴨居隧道が観音崎方面、新鴨居隧道が浦賀方面の一方通行で使われています。
前回の記事でも説明しましたが、トンネルの年代を知る手がかりは「素材」にあります。れんがのトンネルは明治から大正、コンクリートブロックのトンネルは大正から昭和初期にかけて多く造られました。昭和9年にできた鴨居隧道も例に漏れず、コンクリートブロックでできています。
間近でよく見てみましょう。なんと、色の違うコンクリートブロックを組み合わせて、模様が描かれているのです。こんな方法で装飾を施したトンネルは全国的に見ても希少なのだそうです。
なぜ、こんな模様を作ったのでしょう。トンネルが造られた昭和9年は、素材別トンネル年代早見表を見ても分かるように、使用素材がれんがからコンクリートへ変化した時期にあたります。コンクリートはれんがに比べると武骨で装飾的ではない素材。そのために、少しでも華やかに見せようと工夫したのでしょうか。
しかし本当に「華やかに見せるため」だったのでしょうか。今でこそ観音崎は自然と眺望、バーベキューなども楽しめる観光スポットの1つですが、鴨居隧道が造られた昭和9年当時、観音崎の一帯は軍事要塞でした。一般の人は入れない場所だったのです。
江戸時代末期(1853年)、浦賀にペリーの黒船が来航します。観音崎には東京湾防衛のための砲台が造られ、明治14年(1881年)には要塞地帯となります。それは第二次世界大戦が終わる昭和20年(1945年)まで続きました。一般人が立ち入れない要塞に造ったトンネルに、なぜ凝った装飾をわざわざ施したのでしょう。
このように見れば見るほど不思議な気持ちになるトンネルです。
2018年現在、観音崎一帯は公園として整備されています。園内には歴史的トンネルが何本かあります。中でも平沼さんオススメの2本に立ち寄ってみました。まずは「観音崎の浜辺の隧道」です。横須賀市内最古となる素掘りトンネルで、嘉永5年(1852年)に造られました。
次は「28サンチ砲台への隧道」(センチではなく「サンチ」。当時はフランス語読みか漢字表記の「珊」を用いていました)。28サンチ砲台といえば司馬遼太郎「坂の上の雲」で登場するアレです。明治初期のトンネルで、完成当時からほとんど手が加えられていません。多彩なれんがの積み方を楽しめます。
「トンネルの歴史を知って、見えているもの以上を楽しむ」。こんな上級者のたしなみ、めちゃくちゃ面白くないですか?
次に行く「金子隧道」はもっとすごいです。このトンネルこそが平沼さんが「目に見えない見どころ」があると教えてくれたトンネルなのです。見えないのに見どころって、一体どういうことでしょう? では、現場に行ってみましょう。
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