欅坂46「不協和音」「サイマジョ」はどうやって誕生したのか 作曲家「バグベア」に聞く“ヒットの裏側”(3/3 ページ)
――今年は岡山県が開催した「岡山県魅力発信プロジェクトPRイベント」にも出席されるなど、西日本豪雨災害のチャリティー活動にも積極的に取り組まれているお2人ですが、復興支援のきっかけは何だったのでしょうか。
こぎみいい:テレビなどの報道で岡山県が大変な状況に置かれているという惨状を目のあたりにして、「自分たちだからこそできる何か」があるのではないかと思ったことがきっかけです。フロントマンではない自分たちに一体何ができるのかを考えたときに、ご当地の子たちと何かをすることはできないか。災害という大変な状況の中で、一つだけでも「これは良かったな」と思い出に残していただけることはないだろうかということを考えました。
――もともと岡山にご縁があったのでしょうか。
こぎみいい:二人とも東京出身なのでありませんでした。本当にテレビで豪雨の被害を知って動き出したという感じです。
ここみらい:最初はこぎみの方から、岡山のために何かやりたいという話が出てきて、その後も計3回「やっぱり何かやりたいんだ」という話が出たので、これは本当にやりたいんだなと思い、本格的に動き出しました。
こぎみいい:豪雨災害の報道から1週間くらいで、岡山県で活動するアイドルグループ「Sha☆in」に連絡を取りましたが、そこまではかなり悩みました。これまでに欅坂46やAKB48、HKT48など秋元先生関連でお仕事をいただくことが多かったので、ほかのアイドルグループにお声がけしていいのだろうかとか、例えばチャリティー活動をやることに対して「売名行為ではないか」という批判を受ける可能性もあるとか、自分の中で「やりたい」と思う気持ちと、現実問題としての「できること」をよく考えました。
――アイドル好きやアニメ好きの間では「バグベア」は高い認知度を誇っていますから、「Sha☆in」の皆さんも最初に連絡をもらったときは驚いたでしょうね。
こぎみいい:それが、最初に送ったメールはいたずらだと思われてしまったようで、スルーされまして(笑)。その後あらためて「バグベアと申します。何かやれることはありますか」というご連絡をしたところ、「Sha☆in」サイドも信じてくださって(?)「ぜひに」というお話になりました。
――その後、楽曲制作はどのように行われたのでしょうか。
ここみらい:8月9日に被災地を訪問して、どういう曲がふさわしいかというリサーチを行いました。
こぎみいい:当初はチャリティーっぽい曲を想定していたのですが、被害の大きかった真備町の避難所の皆さんにお話を聞かせていただく中で、皆さんから「チャリティーっぽいのは嫌だ」というお声をたくさんいただいたんです。
ここみらい:どちらかというと湿っぽい曲よりも元気になれる曲が良いというご意見が多かったです。
こぎみいい:そうしたお話を参考に、ロック色のあるAメロからメロディアスな流れに入れる仕組みにしようということを決めました。「Sha☆in」にも「チャリティーっぽくない曲になりそうだ」と伝えましたが、「それでいきましょう」と言っていただけましたし、現地で聞いたお話を歌詞に反映しているので、「僕は君を全力で笑顔にする」は岡山の人と一緒に作り上げた曲という感覚があります。
ここみらい:あと被災地を回らせていただく際、逆に私たちの方が元気や優しさをいただく場面が多くかったのも印象的でした。2番のサビに「なんて強い人だ 僕は愛をもらった」というフレーズがあるのですが、これは避難所で出会ったお母さんの実体験がもとになっています。モデルになっているのはお子さん2人を抱えた方なのですが、水がマンションの中に迫ってきてあとは子どもを守るしかないという状況になった際、冷蔵庫の上にアルバムとかを積んで、お子さん2人を少しでも高い場所へと避難させたそうなんです。そのときもう自分は助からないと思って、親御さんにも「多分だめだ」という連絡をするぐらいのギリギリの状態だったと聞きました。その親子はその後何とか難を逃れることができましたが、お母さんは「自分の判断ミスで逃げ遅れてしまった。子どもを危ない目に遭わせてしまった」と自分のことをすごく責めていました。
こぎみいい:でも僕たちはそのお話を聞いたときに、1センチでも子どもさんを高い場所へ避難させようとしたその気持ちが、最後の奇跡を起こしたんだと思いましたし、この人は「なんて強い人だ」と感じたんです。
――モデルの方がいらっしゃっての歌詞だから、胸に刺さるんですね。
こぎみいい:Dメロも被災地の方に向けた気持ちをダイレクトに伝える手紙のような部分なので、そこはしっかり聞いていただきたいですね。復興は着実に進んでいますので、観光なども含めて岡山を応援していただけたら本当にうれしいです。
作曲家の地位向上を目指して
――バグベアのお2人はSNSでファンの方と交流されることも多く、これまでの作曲家像よりも親しみやすい印象があります。
こぎみいい:ありがたいことに僕たちとのやりとりを楽しみにしてくださっている方もいらっしゃるので、楽しんでやらせてもらっています、しかし、たまに忙しくてお返事ができない場合もあって、そういうときは「申し訳ないな」と思います。ただ曲作りをするときのテンションによって雰囲気違ったりするので、フォロワーの皆さんからは「キャラがぶれている」って言われることもありますね(笑)。でもTwitterでいろいろな人とつながれたらうれしいので、気軽にフォローとかしてもらえたらうれしいですね。
――これから先、バグベアのお2人はどんな作曲家になっていきたいですか。
こぎみいい:一つの目標としては、作曲家という仕事の認知度アップと地位向上を掲げています。脇役でも裏方でもなく、作曲家もアーティストだと語っていきたいですね。作曲家自身もいろいろなムーブメントを起こす力を持っていますし、主役になれる存在まで引き上げたいので、まずは自分たちが作曲界の大きい幹のような存在になれたらと思っています。一方で一生懸命曲作りをする中で、作曲家としての限界を感じるシーンが多々あるのも現実です。表に出る機会が少ないので、伝えたいことを直接伝えられないとか、フロントマンだったらこう動かせたのにとか、歯がゆい思いをすることも少なくはないんです。海外だと、作曲家に近い立ち位置の「DJ」がフェスなど主役として出演したり、DJ自身がお客さんを集められる存在だったりします。日本にもそういう存在が居ると良いと思うので、2019年は作曲家としてフロントマンとしても活躍できるよう、努力していきたいです。
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