「韓国・フェミニズム・日本」特集はなぜ大ヒットしたのか? 『文藝』編集長に聞く、86年ぶり3刷の裏側(2/2 ページ)

» 2019年07月26日 18時00分 公開
[不義浦ねとらぼ]
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「文芸誌初めて買った」

――雑誌の増刷ってビジネス的になかなかない判断だと思うのですが、社内ではなぜ決定されたんですか。

坂上 やっぱり読者からのものすごい反響があったおかげです。発売が金曜日(7月5日)で、金曜にうちの営業から全国の書店さんに案内したんですね。そしたら反応がすごくよかったので、「これ売れるかもね、ははは」とか言ってたら、月曜(7月8日)に在庫が全部なくなった(笑)。

 在庫がなくなるなんて近年はなかったので、Twitterで「在庫がなくなった」ってつぶやいたら、それがかなりRTされて、店頭からもどんどん在庫が消えていきました。

 『文藝』って、最後に重版したのは17年前(※8)なんですよ。その時の記録も当時社内にいた人に聞くしかないし、そもそもうちは雑誌を1つしか出していないので、雑誌重版の経験がほとんどない。どうするか迷いましたが、ただ「こんなに欲しいって言ってる人がいるんだったら、それは届けてあげたいね」って会社で決めて発表しました。そしたら一瞬で重版分の在庫もなくなったので、3刷に至ります。

※8……2002年冬季号。音楽活動休止中だったCoccoの新作絵本にまつわる特集が話題になった。

――どんな層が購入していると考えていますか?

坂上 おそらく『82年生まれ、キム・ジヨン』を買っていた層だろうとは予想しているんですが、それだけではないみたい、という感触はあります。韓国やフェミニズムになにか興味がある人、ただもちろん特集だけではなく、新作小説や連載を目当てに手に取ってくれる方もいらっしゃいます。あとラップも。

文藝韓国・フェミニズム・日本 チョ・ナムジュ著『82年生まれ、キム・ジヨン』(書影はAmazonより)

――どのような反響が届きましたか? 編集部にメールやお便りが来たり……?

 今はもうSNSですよね。メールは来ないです(笑)。むしろお待ちしてます! 今回はSNSと相性がいいトピックがそろっていたのがよかったのかもしれないですね。

 一番うれしかった反響は「文芸誌初めて買った」ですね。あと、個人的には最果タヒさんのツイートは印象的でした。この特集タイトルのつけ方、実はそんなに深い意味を込めていないんですけど、最果さんは「このキーワードを並列にする感じがすごく文芸誌っぽくて好き」「文芸誌っぽいけど、でもすごくGoogleの検索ワード感もあっていいな。検索じゃ出てこないものが出てくるのが文芸誌」って書いていらして。なるほど確かに、と思いました。

今後は本になる?

――今特集を単行本にする予定もあるんですね。

坂上 もともと、今回のテーマを単行本化しようとは思っていたんです。当初は今回、誌幅の都合で実現できなかった用語集やエッセイ、韓国文学の楽しみ方などを集めた韓国文学のガイドブックのようなものを出そうかと考えていました。ただ、反響がすごくあったので、読者のみなさんに喜んでもらえるコンセプトはどんなものだろうか、すでに雑誌を買ってくださった人もさらに深く楽しめる内容にしたい……と再検討しています。11月には刊行する予定です。

――ちなみに、書き下ろし作品の韓国語翻訳をする可能性はあるんでしょうか。

坂上 作家の方々とのご相談になりますが、許していただけるなら交渉したいとは思っています。国を超えた広がりへの期待は、編集部の希望としてはあります。河出書房新社はそもそも翻訳文学を数多く出版してきた出版社なので、韓国の出版社さんとお付き合いは以前からあったんです。それはうちの会社だからできることだと思っているので、今後も何かしらコラボをしていきたいですね。

文藝韓国・フェミニズム・日本 ハン・ガン著『すべての、白いものたちの』(書影はAmazonより)

つらいときには、文芸誌を

――今坂上さんが注目されている文学ジャンルはありますか。

坂上 うーん、ジャンルは難しいですね…。とりあえずその時々に手にとった本をきっかけに興味が広がっていくので。たとえば最近だとおもしろかったのは岸本佐知子さん訳、ルシア・ベルリン『掃除婦のための手引き書』だったり、『キム・ジヨン』ばりのベストセラーになっている劉慈欣の『三体』だったり、うちの会社から出たばかりですが閻連科の『黒い豚の毛、白い豚の毛』だったり。韓国文学もおもしろいですが、中国の現代小説ももっと読みたいなとは思っています。

文藝韓国・フェミニズム・日本 ルシア・ベルリン著『掃除婦のための手引き書』(書影はAmazonより)
文藝韓国・フェミニズム・日本 劉慈欣著『三体』(書影はAmazonより)
文藝韓国・フェミニズム・日本 閻連科著『黒い豚の毛、白い豚の毛』(書影はAmazonより)

――坂上さんは昨今のフェミニズムに対してどんな印象をお持ちですか。

坂上 個人として声を上げていくことがフェミニズムに限らず重要だと思うので、今盛り上がってるのはすごくいいことだと思います。まあ、まだまだマッチョな社会ですからね……。

 小説は多様な読みができるし、1つの気分に陥らずにいろんな気分にさせてくれるのがいいところですよね。生きていく中でハードなことってすごく多いので、そういうときに文芸誌がそばにあると……お得ですよって(笑)。今回の『文藝』、計算すると約80万字あるんですよ。原稿用紙で言えば2000枚分単行本8〜10冊分です。単行本買うより安いし超絶お得。ほかの文芸誌も面白いことやってるので、みんなもっと文芸誌コーナーに行くといいと思います!

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