「魔法の国イケア」と、ていねいに暮らしたい (1/2)
【エッセイ】イケアの観葉植物、すごいエネルギーを感じる。
「ていねいな暮らし」を目指す、かしわさんの暮らしエッセイ。
「生活が楽しくなるような、気分よく使えるような、自分の生活を愛せるようなアイテムを、少しずつ生活に取り入れている」ことを目指す連載です。今回はイケアで仲間に加わった観葉植物たちの話。
私は、イケアが好きだ。入り口で食べる駄菓子みたいに安価なホットドッグも、サービスエリアみたいにたくさんあるトイレも、夫が好んで買うバカみたいにカロリーの高いジンジャークッキーも、帰宅してからなんでこんなもの買っちゃったんだろうって笑うようなたくさんの雑貨たちも、実家にいたころ玄関に掛けるための大きな鏡をなんとかタクシーで持ち帰って家族4人で慎重に運んだのに、家に着いた瞬間、割れてしまって泣き笑い、したことも。すべてイケアが連れてきた、私の生活をめぐるささやかな記憶である。
「晴れ男/晴れ女」、や「血液型占い」をまったく信じない私だが、「植物を育てるのが上手い人/下手な人」という二分法は信じて止まない。絶対そうじゃん、と思っている。いわずもがな、私は後者である。
中学生のころ、仲の良かった友だちからすこし早めの誕生日プレゼントをもらった。
手に乗るほどの大きさの丸い缶には「ワイルドストロベリーの種」と書いてある。どうやらあらかじめ土の入ったその缶のなかに種を蒔くと、ワイルドストロベリーが育つらしい。友人には「できたら見せてね! 収穫したら1個わけてね!」と言われた。
こうなることはわかっていたのだけれど、しかし私はワイルドストロベリーを枯らした。プレゼントしたばっかだったのに、という非難の表情で友人は「アーア」と言った。私もアーアと思った。水やりを怠ったのだったか、それとも水をやりすぎてしまったのか、忘れたけれどとにかく、わたしは野いちごを見ることなく、早々にその芽を枯らしてしまった。植物は難しいな、と思った。小学校のころに易々と育てあげたアサガオやミニトマトは、あれはどうしたって育つようになっているのかもしれない。そうだそうだ、と一人合点した。
はじめにつまずいてしまうと、その後の失敗は怖いもので、くだんのワイルドストロベリー以来、植物とは距離を置いていたのだが、そんな失敗体験から早幾歳、結婚して実家から新居へ移ることになった。新しい家具などを揃えてゆく過程でふと、「部屋に植物があったらステキじゃないかしら……?」とひらめいてしまう。愚かなことだ。だって私は「枯らすほうの人間」。夫に聞いてみても植物にはそんなに関心がないようだ。となると世話をするのは私ということになるだろう。枯れる未来はもう見えている…のにやっぱりどうしても! 新生活で植物を愛でたい! 育てたい!
悶々とした欲望をかかえながら、われわれはレンタカーでイケアに向かっていた。
新生活といえばニトリ、無印良品、そしてイケアである。こだわりのある人を除いて、多くの若者の部屋がこれら3つのどれかの家具や商品で構成されているのではないだろうか。多分に漏れず、われわれの部屋もそうである。
ダイニングセットだけは結構良いものを両親に買ってもらったけれどそれ以外のすべての家具、ベッドに始まり本棚、食器棚、ソファと家具のどれもがニトリ、無印、イケアのいずれかで買ったものだ。そういえば実家のソファも初代はイケアのもので、めちゃくちゃ使い倒した結果、脚がぐらついてダメになってしまったのだった。二代目のソファは無印良品と、なんということもない、実家もたいがい若者趣味でした。二代目の無印のソファは脚が太くしっかりしているけれど、足もとに床との隙間がほとんどなく、ソファの下が定位置だった実家の猫は新しいソファが来てから居場所を失ってすこしかわいそうでもある。
ニトリや無印良品はわりと近所にもあるものだけれど、しかしイケアはちょっと趣が違ってなかなか電車で行ける距離にはない。ばかでかい倉庫なのだ。われわれが車を走らせて向かったのは確か三郷のイケアだった。休みの日とあって、めちゃくちゃ人が多い。みんな全身から「ヨシ! 家具を選んじゃうぞ!」という活力に満ち満ちているよう。そのぐらい元気がなければ来られない場所、と思う。
2階の展示フロアで、コーディネートされた部屋に置かれた家具の一つひとつひとつを撫でながら、進んでゆく。キッチンコーナー、リビングコーナー、ベッドルーム、洗面スペースなど、エリアごとにたくさんの家具が並ぶ。たいてい展示されているどの部屋のベッドにも子どもが遊んで寝転がっていて、しかし中には真剣な表情でベッドのスプリングを確かめる大人もいる。
生活の、例示。こんな風ですよ、と示されて生活というものは、なかったものを「ある」ものに作り上げることなんだと知らされる。そしてそこに誰かが新しく「暮らす」ことによって、ゆっくりと、いやたいていは忙しなく回りはじめるものなのだ。たくさんの生活の例示を見て回るうちに、そんな不思議な感慨のようなものがやってくる。
実家に住んでいた1カ月前までそこにはなかった、自分たちの家、部屋、家具、つまりたったひとつの暮らしが「ある」ことが、それを自分たちで作ったことが、なんだか信じられない。
その後何度か行ったり来たりを繰り返し、本棚とベッドと食器棚を選び、その番号を控えておく。最後にメモを見い見い、階下の巨大倉庫にセルフで目当ての商品を取りに行くのも他の家具屋とは違うところだ。
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