「DANSKバターウォーマー」と、ていねいに暮らしたい(1/2 ページ)

【エッセイ】生活に新たに加わった、赤くてすてきな小鍋。

» 2019年07月12日 20時00分 公開
[かしわねとらぼ]

「ていねいな暮らし」を目指す、かしわさんの暮らしエッセイ。

「生活が楽しくなるような、気分よく使えるような、自分の生活を愛せるようなアイテムを、少しずつ生活に取り入れている」ことを目指す連載です。今回はまたひとつ、結婚式の引き出物でもらったDANSKのバターウォーマーが加わりました。


 「大は小を兼ねる」ということわざをウソとは思わないが、ぐらぐらと沸き立つ大きな鍋に卵3つを静かに落とし入れるときのあのよるべない気持ち、ぼこぼこととめどなく泡を噴き続ける鍋底で所在なげにかすかに揺れる卵たちを見ているときのあるいはふびんななにがしかを、私はあんまり愛さない。

 では「小は大を兼ねる」のかと言えばそうではなく、たぶん大切なのはジャストフィットしていることなのだ。

 私はずっと1週間の前半戦のための、卵3つをゆでるための、私の暮らしにぴったりの鍋を探していた。

 お弁当づくりに、ゆで卵は欠かせない。毎朝起きぬけにたまご焼きを作る気力も時間もなく、だからゆでておいた卵を半分に割って、夫と自分のお弁当箱にのせる。他のおかずは残り物ばかりでも、卵が入るとぐんとお弁当感が増すものだ。

 日曜日の夜に、3つゆでる。ゆで卵はストックがあればサラダにトッピングしたり、ラーメンに乗せたりと、その用途は広いけれど多めにゆでて週末に余らすことも多い。余ったゆで卵をそのままむしゃむしゃとやるような(まさに)ハードボイルドさは持ち合わせていないので、なんだかんだで週に2回はゆでている。

 そんな最近、友人の結婚式でもらったカタログギフトをぱらぱらとめくっていると、小さな鍋が目に入った。真っ赤で、取っ手が木製なのがなんともあたたかくって、すてき。「ほう……」と思わず声が出る。「DANSK(ダンスク)」の「バターウォーマー」というらしい。バターを温めるための鍋なんて、ていねいな暮らしが過ぎるぜ……とくらくらするが、まあ実際に私の生活にバターを温めるシーンはないにしても、これなら卵3つをゆでるのにちょうどいいのではないか。そう確信して、はがきに番号を記入した。

 相変わらず大きさの合わない鍋で卵をゆでつつ、バターウォーマーなんて単語はすっかり忘れていたころ、それはうちにやってきた。箱の「DANSK」の文字を見て「あーそうだそうだバターウォーマー」と合点し開けてみると、出てきたのは手のひらサイズの、鍋であった。上質な、おままごとの鍋にも見えなくない。この大きさ、ほんとうにバターあっためるくらいしかできないんじゃないか……!?

バターウォーマー バターウォーマーですが、今回のエッセイではバターを温めてはいません

 満を持して、いざ卵をゆでる。なんだか重要な儀式を前に神聖な気持ちさえする。

 小さな小さな鍋に水を張る。うちのコンロは3口あって奥のコンロは小さめなのだが、このバターウォーマーには奥のコンロがちょうどいい。手前のコンロだとバランスを取るのが少し難しいぐらいだ。とか言ってるうちに鍋が沸騰する。早い。ものの2〜3分ではないか。冷蔵庫から取り出した卵をひとつずつ、おたまで静かに落としてゆく。ひとつ、ふたつ……あっもうお湯がいっぱいでこぼれそう。

 沸いたお湯の3分の1ほどを捨て、3つ目の卵を沈める。3つでちょうど。ベストでジャストな容量にひとり、歓喜する。結局最初に入れる水は、鍋の3分の1程度で十分だと分かった。こんなんじゃほんとうに1分で沸くぞ。

 タイマーはきっかり8分。かたゆででもなく、かといって半熟すぎもしない、8分が私にはちょうどいいゆで加減。

 卵のゆで方やゆであがりの好みは、各人、各家庭によってきっといろいろだ。実家では、たしか水からゆで卵を作っていた……と思うけれど記憶が定かではないのは、家を出るまで作ったことがなかったから。実家にいた頃なんて、自分でゆで卵はおろか、料理なんて全て母に任せっきりでほとんど作ってこなかった。

 けれど小学校4年生くらいの頃だったか、なーんにも手伝わない私を見かねて、母が「今日からあんたは夕飯のみそ汁を作る係」と宣言した。それは、なんだか逆らえない感じだった。というか、なんだかそう宣言されたら「そうか」という気持ちになったのだ。それで私は、その日から晴れて? 「みそ汁係」になった。

 にぼしをバラバラと水に落として、火にかける。沸いたら取り出して、じゃがいもとか、白菜とか、その時野菜室にある野菜を切っていれる。火が通ったらみそを溶かして、4人分ちょうど1杯ずつのみそ汁を、作っていた。慣れればつまらない一連の作業になって、いつまで続けていたのか、もう覚えていない。けれどあのとき使っていたちょうどよい、ステンレスの小鍋のことを、なんとなく思い出す。その鍋は今も現役で、みそ汁はもちろん、卵をゆでるにも、野菜を湯がくにも、出ずっぱりだ。実家に帰ると、いつもその鍋がコンロに置いてある。

 ちょうどよい大きさの小さな鍋。うちにやってきたのは実家のあの鍋よりさらに小さいけれど、“小鍋”を持つことが改めてうれしかった。

       1|2 次のページへ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

昨日の総合アクセスTOP10
  1. /nl/articles/2412/15/news031.jpg ザリガニが約3000匹いた池の水を、全部抜いてみたら…… 思わず腰が抜ける興味深い結果に「本当にすごい」「見ていて爽快」
  2. /nl/articles/2412/18/news145.jpg “月収4桁万円の社長夫人”ママモデル、月々の住宅ローン支払額が「収入えぐ」と驚異的! “2億円豪邸”のルームツアーに驚きの声も「凄いしか言えない」
  3. /nl/articles/2412/16/news079.jpg “プラスチックのスプーン”を切ってどんどんつなげていくと…… 完成した“まさかのもの”が「傑作」と200万再生【海外】
  4. /nl/articles/2412/17/news060.jpg 100均のファスナーに直接毛糸を編み入れたら…… 完成した“かわいすぎる便利アイテム”に「初心者でもできました!」「娘のために作ってみます」
  5. /nl/articles/2412/17/news197.jpg 「巨大なマジンガーZがお出迎え」 “5階建て15億円”のニコラスケイジの新居 “31歳年下の日本人妻”が世界初公開
  6. /nl/articles/2412/17/news078.jpg 鮮魚コーナーで半額だった「ウチワエビ」を水槽に入れてみた結果 → 想像を超える光景に反響「見たことない!」「すげえ」
  7. /nl/articles/2412/18/news059.jpg 「奥さん目をしっかり見て挨拶してる」「品を感じる」 大谷翔平&真美子さんのオフ写真集、球団関係者が公開【大谷翔平激動の2024年 「妻の登場」話題呼ぶ】
  8. /nl/articles/2412/18/news015.jpg 家の壁に“ポケモン”を描きはじめて、半年後…… ついに完成した“愛あふれる作品”に「最高」と反響
  9. /nl/articles/2411/25/news189.jpg 「理解できない」 大谷翔平と真美子さんの“スキンシップ”に海外驚き 「文化は100%違う」「伝説だわ」
  10. /nl/articles/2412/18/news056.jpg 日本人ならなぜか読めちゃう“四角形”に脳がバグりそう…… 「なんで読めるん?」と1000万表示
先週の総合アクセスTOP10
  1. ザリガニが約3000匹いた池の水を、全部抜いてみたら…… 思わず腰が抜ける興味深い結果に「本当にすごい」「見ていて爽快」
  2. ズカズカ家に入ってきたぼっちの子猫→妙になれなれしいので、風呂に入れてみると…… 思わず腰を抜かす事態に「たまらんw」「この子は賢い」
  3. フォークに“毛糸”を巻き付けていくと…… 冬にピッタリなアイテムが完成 「とってもかわいい!」と200万再生【海外】
  4. 鮮魚スーパーで特価品になっていたイセエビを連れ帰り、水槽に入れたら…… 想定外の結果と2日後の光景に「泣けます」「おもしろすぎ」
  5. 「申し訳なく思っております」 ミスド「個体差ディグダ」が空前の大ヒットも…… 運営が“謝罪”した理由
  6. 「タダでもいいレベル」 ハードオフで1100円で売られていた“まさかのジャンク品”→修理すると…… 執念の復活劇に「すごすぎる」
  7. 母親から届いた「もち」の仕送り方法が秀逸 まさかの梱包アイデアに「この発想は無かった」と称賛 投稿者にその後を聞いた
  8. ある日、猫一家が「あの〜」とわが家にやって来て…… 人生が大きく変わる衝撃の出会い→心あたたまる急展開に「声出た笑」「こりゃたまんない」
  9. 友人のため、職人が本気を出すと…… 廃材で作ったとは思えない“見事な完成品”に「本当に美しい」「言葉が出ません」【英】
  10. セレーナ・ゴメス、婚約発表 左手薬指に大きなダイヤの指輪 恋人との2ショットで「2人ともおめでとう!」「泣いている」
先月の総合アクセスTOP10
  1. 「何言ったんだ」 大谷翔平が妻から受けた“まさかの仕打ち”に「世界中で真美子さんだけ」「可愛すぎて草」
  2. 「絶句」 ユニクロ新作バッグに“色移り”の報告続出…… 運営が謝罪、即販売停止に 「とてもショック」
  3. 「飼いきれなくなったからタダで持ってきなよ」と言われ飼育放棄された超大型犬を保護→ 1年後の今は…… 飼い主に聞いた
  4. アレン様、バラエティー番組「相席食堂」制作サイドからのメールに苦言 「偉そうな口調で外して等と連絡してきて、」「二度とオファーしてこないで下さぃませ」
  5. 「明らかに……」 大谷翔平の妻・真美子さんの“手腕”を米メディアが称賛 「大谷は野球に専念すべき」
  6. 「やはり……」 MVP受賞の大谷翔平、会見中の“仕草”に心配の声も 「真美子さんの視線」「動かしてない」
  7. ドクダミを手で抜かず、ハサミで切ると…… 目からウロコの検証結果が435万再生「凄い事が起こった」「逆効果だったとは」
  8. 「母はパリコレモデルで妹は……」 “日本一のイケメン高校生”グランプリ獲得者の「家族がすごすぎる」と驚がくの声
  9. 「ごめん母さん。塩20キロ届く」LINEで謝罪 → お母さんからの返信が「最高」「まじで好きw」と話題に
  10. 「真美子さんさすが」 大谷翔平夫妻がバスケ挑戦→元選手妻の“華麗な腕前”が話題 「尊すぎて鼻血」