宇宙ではコショウが使えるのに、ごま塩が使えない理由 宇宙食マンガ「宇宙めし!」作者インタビュー
というか、コショウ使えたんだ。
宇宙へと飛び立った人類が口にしている宇宙食。地球に暮らす一般人にはあまり縁のない食品ですが、国内にもその開発・製造を行う食品メーカーが存在します。
「月刊!スピリッツ」(小学館)で連載中の「宇宙めし!(そらめし!)」は、そんなちょっとマイナーな“宇宙関連業界”をテーマにしたマンガ。第2巻発売(12月12日刊行予定)に合わせて作者・日向なつお先生にインタビューしました。漫画本編も合わせて掲載します。
第3食「赤飯」(前半)
第3食後半は次回記事「『宇宙食開発したぞ→お湯で戻す方法がないんだが……』でメーカーが考えたまさかの対応策」にて掲載しています
宇宙では赤飯にごま塩がかけられない理由
――― 第3食(第3話)は“宇宙食としての赤飯”がテーマ。なぜ、赤飯を題材にしたのですか?
日向先生(以下略):JAXAさんの次に取材をさせてもらった尾西食品さんで、同社が手掛けていたのが、鮭おにぎりなどのご飯系。その中から赤飯を選んだのは「お祝いごとで食べるものだから、ストーリーが作りやすいんじゃないか」と思ったからですね。
作中でも触れていますが、調べてみると赤飯ってちょっと不思議な食べ物なんですよね。各地域で全然違くて、小豆を入れるのが一般的だと思うのですが、他にも甘納豆が入っていたり、花豆入りだったり、里芋入りだったり。そういうところもすごく面白いと思いました。
宇宙で赤飯を食べることは可能なのですが、ごま塩はかけられません。国際宇宙ステーション内には精密機器がたくさんあって、ごま塩などの小さな粒が飛び散って機械に入り込んでしまうと大変なことになります。
――― コショウ、塩などの調味料も使えないんですか?
いえ、「塩は塩水にする」「コショウはオリーブオイルに入れる」などの工夫をすれば持っていけるようです。でも、ゴマの場合はさらに「油分が多くて酸化しやすい」など、いろいろ課題があるみたいですね。
――― 地球とはいろいろと勝手が違いますねえ……
宇宙飛行士の大西さんは「サラサラしたスープがたっぷり入ったラーメンが食べたい」とおっしゃっていましたね(笑)。宇宙食のラーメンはスープが飛び散らないようにとろみがついていて、麺が一口サイズにまとまっていて。お湯も80℃(※)なので「アツアツのラーメンをズルズル〜ッ」というのができないんですね。
※JAXAによると、国際宇宙ステーションには80℃のお湯が出る給水器が搭載。重力がないため、沸騰させてしまうと蛇口から噴き出すリスクがあるという。
宇宙食開発でスケジュール管理に失敗すると……?
――― 第3食(第3話)から登場する糸川さんは無表情で、いかにも“マジメでおカタい上司”。スケジュールを意識しているようですが、実際の宇宙食開発にも時間の制約があるのでしょうか?
ありますね。宇宙食を宇宙まで運べるのは、補給機「こうのとり」が物資を届けるとき。また、日本人宇宙飛行士が宇宙に行くときに合わせたりしていて、タイミングが非常に限られています。
それから、賞味期限が1年半持つのか、実際に一定の温度下に18カ月置いて実験する必要もあって、そのあいだにも膨大な書類を書かないといけなくて。もしもスケジュール通りに進まなかったら、プロジェクト完了が3年後……なんてことになりかねません。
食品メーカーの立場から考えても、開発期間が伸びると費用がかさんでしまいますから、やはり問題になりますよね。
――― 糸川さんはドライな性格に見えますが、宇宙食の開発現場ではカッチリ進めないといけない側面もあるわけですか
「宇宙に行っても人間がやることは地上と同じなんだな」
――― 宇宙飛行士はどのようなタイミングで食事を取るものなんですか?
それぞれに決められているスケジュールがあって、「食べられるときに食べる」が基本だそうです。「このミッションが片付いたら食事しよう」みたいに。ただし、水を入れて数十分待たないと食べられない宇宙食もあるので、ミッション終了時間に合わせてあらかじめ準備しておいたりするとか。
でも、皆で一緒にご飯を食べる日などもあって。食事はコミュニケーションツールとしても機能していて、他の宇宙飛行士と食事の交換をしたりもするそうです。
――― 学生時代のお弁当みたいですね(笑)
宇宙飛行士さんの話を聞いていると、宇宙に行っても人間がやることは地上と同じなんだな、と感じます。ご飯を一緒に食べたり、冗談言い合ったり。クリスマスにはお祝いするし、時にはスポーツ大会もやるし。宇宙でケガされると困るので、地上から見守っている人たちはヒヤヒヤしているそうです(笑)。
でも、任務をしっかりこなすためには、やっぱり楽しみも必要なんでしょうね。
(続く)
本記事は全4本の連載企画です
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