仕事へ行く前、毎朝「SHIROBAKO」を見続けた――あおいと頑張り矢野さんに支えられて働いた女が見た劇場版(2/2 ページ)
私が頑張っていたとき、ムサニのみんなも頑張っていた
テレビシリーズから4年後、2019年のムサニで、劇場版アニメを制作することになった。大きく体制を変えたムサニに残って働くあおいは、プロデューサーとしてスタッフを集め、ムサニと、ムサニに関わる人のため、懸命にアニメ制作に打ち込む。アニメーション同好会OGである5人は、それぞれアニメ制作に携わりつつも、「本当にこのままでいいのかな」と思い悩んでいた。
劇中では、テレビシリーズ終了後から劇場版にいたるまで、ムサニがどのような経緯をたどってきたかも描かれた。それは、決して明るいだけのものではなかった。
現実世界と同じ重みをもった5年がそこにあり、達成したり、つまづいたりした生身の人間たちがそこにいた。ムサニを離れた人、ムサニに残った人、新たな生活を始めた人――。「みんな仲良く、ずっとムサニでアニメを作って暮らしました」というおとぎ話ではなく、人がそれぞれの道を選択するリアルさがあった。
スクリーンを見つめながら、何でもない日常シーンでぽろぽろと涙が出た。自分が社会人になってから、必死に過ごしてきた日常が重なったからだ。
やりたかった仕事から外されたときは、みーちゃんの「きっと今日の仕事も役に立ちますよ!」という言葉をお守りにしたし、丸川社長の「全機スクランブル!」で勢いをつけて家を出た日もあった。タローの能天気な発言に思わず涙がこぼれたこともあった。
「あおいはきっと今日も頑張っているはず」と信じた日々。もう頑張れないと思った朝も、あおいなら起きて仕事へ行くはず! とベッドからはい出した。劇場版を見ながら、その答え合わせができた。私が頑張っていたとき、やっぱりあおいもまた頑張っていたのだった。
明日も明後日も、もがき続けよう
私は、あおいの筋の通った性格が大好きだ。あおいは器用ではないし、世渡りも特別うまいわけではない。それでもあおいはトラブルを乗り越え、周りの助けを得ながら状況を打破していく。
アニメが好きで、アニメを作る人が好きなあおいは、その「好き」の筋をひたすら通す。好きだから一生懸命になり、好きだから泣きべそをかきながら駆けずりまわる。
私はあおいのように、「好き」を仕事にすることはできなかった。けれど、あおいのおかげで、今の仕事を好きになってみようと思えた。「こんな仕事がしたかったわけじゃない」と、トイレで泣く日もあった。どうしても笑顔になれない日もあった。けれど、「仕事を好きになろう」という気持ちは、働き始めてからずっと心の中にある。その気持ちを与えてくれたのは、あおいをはじめとしたムサニのみんなだった。
アニメーション同好会OGの5人は、それぞれアニメ業界に自分の居場所を得た。夢に向かって全員が踏み出し、アニメに携わることが彼女たちの日常になった。けれど、万事が順調というわけではない。理想と現実の差に歯噛みすることもあるし、「このままでいいのかな」と立ち止まることもある。
「それでも、もがき続けよう」というメッセージが、劇場版全体を貫く大きな柱だった。テレビシリーズの最終話で「アニメや、それを作る人が好き。だからこれからもアニメを作り続けたい」と決意したあおいは、劇場版アニメの制作を決心し、改めて奮起する。
アニメ業界で働くことは、あおいたちの目標だった。その目標が達成されてからも、日々は続いていく。大きく掲げた夢に近づけているのか、不安に思うこともある。けれど、何度でも奮起することでしか、人は夢に近づいていけない。何度も不安に思い、何度も現実の苦さを味わい、それでもやり続けること。それが劇場版「SHIROBAKO」の描く「もがき方」だった。
劇場版の矢野さんは、私の尊敬するいつもの矢野さんだった。きびしく、優しく、仕事に誠実。何より、アニメを作り続けていてくれることが嬉しかった。
この原稿を書く間、アクリルスタンドの矢野さんが、デスクで私を見張っていてくれた。「進捗どうなの?」と言われているようで、緊張感がある。「よくやったじゃん」と言ってもらえるように、これからも精いっぱいもがき続けようと思う。
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