ネットで接客する“オンラインバー”は夜のお店を救うか 女装サロンバー「女の子クラブ」の店長に聞いた
新しいバーのかたちやコミュニケーションが生まれる?
全国に発出された緊急事態宣言、そして接客を伴う飲食店の利用自粛要請を受け、バーなど夜に営業する飲食店は厳しい状況に置かれています。
この状況に対処すべく、東京・新宿2丁目の女装サロンバー「女の子クラブ」が、オンラインでのバーの営業を開始しました。客が自宅のPCやスマートフォンから店のスタッフと会話する(現在はスタッフも自宅から接客)という形です。オンライン営業によってバーのあり方や客にどのように変化するのか。店長のくりこさんにお話を聞きました。
開業7年目の危機。店を守るためのオンラインバー
「女の子クラブ」は2012年12月にオープンし、売り上げは毎年前年同月を上回っていました。2020年2月は前年同月とほぼ変わらない売上でしたが、3月中旬以降、外出自粛要請により来店客が減少し、売り上げが下がりはじめます。
「お客さんが減ってしまって、売上が少なくなっても、収益を得てお店を維持する手段の1つとしてオンライン上で営業ができるスタイルを確立しようと考えました」(くりこさん)
オンライン営業の開始に当たっては、オンライン会議ソフト「Zoom」の有料プランを導入(無料版だと40分の利用制限があるため)し、iMacとスピーカーマイクを購入(後にスピーカーマイクが不要だったことが判明)。
さらにオンラインでの決済が可能な決済代行サービス会社を探し、新規に契約するなど準備に追われました。グッズや書籍などの販売に適した決算代行サービスはたくさんあったものの、「接客」の支払いに対応した決済代行サービスがなかなか見つからずに苦労したそうです。
客は「bosyu」というWebサービスを経由して「来店」するため、オンライン営業の宣伝をしながら、分かりやすく手順を説明する必要もありました。
オンラインバーがもたらした変化
オンラインバーは3月31日、実店舗の営業と並行して始まりました。「女の子クラブ」は、来店客の7割が女装者で、オンラインでもその比率は変わらず、基本的な楽しみ方は変わらなかったようです。しかしくりこさんは、オンライン営業を始めたことによる利用客さんの変化や新たな現象があったと話します。
「オンライン営業の方が、頻繁に『来店』されるお客さんがいます。ひとり暮らしで会話する人がいない方、共通の趣味を持つ人と少しでも会話したい方、ひとりでお酒を飲みたくない方がオンラインを活用しています。また、家を出るのが面倒だと考えている方の参加も多くみられました」(くりこさん)
オンラインバーでは、ネットを介しで複数の利用客がスタッフと会話します。その中で客同士の関係にも変化がありました。「地方住まいのお客さんも多く、そういった方は普段お店になかなか来られず、オンライン上でないと会えないので、常連のお客さんにとってはオンラインでの『来店』が新しい出会いのきっかけになっているみたいです。お客さん同士の人間関係が新鮮になっているのを感じます」
オンライン上で知り合った客同士が仲良くなり、TwitterなどSNSアカウントを教え合うなど、人間関係の広がりもあるとのことです。バーやスナックは店のスタッフに会えるだけでなく、客同士の社交の場でもあるので、オンラインに場を移すことにより、交流が空間的に広がったということなのでしょう。
新しい利用客や需要を開拓したオンライン営業ですが、一方では「実家住まいの方や、自宅に家族がいる方の場合は、オンラインでの『来店』が難しいことが多いです」(くりこさん)という難点も。家族と一緒に住んでいる場合は、お店のほうがのびのび飲んで話せるという人が少なくないかもしれません。
リアルとオンラインの接客の違いは?
もともとお店でお客さんたちに向かい合って接客していたくりこさん。オンラインでの接客を始めて、コミュニケーションの仕方の違いを感じたと話します。「お店での対面と違って、距離が離れているからこそ、ちょっと恥ずかしい会話もしやすいみたいです」。まるで相手が目の前によるような雰囲気で会話はできるけれど、実際には遠く離れているというネット独特の距離感により、いつもより解放的になれる人もいるようです。
また、「女の子クラブ」が活用しているオンラインツールは画面の共有が可能。「自宅から『来店』している人が多く、自分の好きな物やオススメしたい物、面白い物、プライベートに関する物を持ってきて、画面でみんなに見せて会話のネタにしたりしています」(くりこさん)
一方で、オンラインならではのコミュニケーションの難しさも。「オンラインでの会話は(お客さんが複数名いる場合)全体を通して盛り上がる話題じゃないと成り立たちにくいと感じています。店舗の接客とは違うので、会話をまとめる役目のスタッフは、事前に練習してオンライン営業の感覚に慣れる必要がありました」とくりこさん。
自由にやり取りしづらいのは客の側も同じようで、「お店のようにお客さん同士で個々に会話しにくい雰囲気があります。オンラインで個人的に話すと、会話に参加できない人が多くなってしまうので、空気が読めないと思われるかもしれないからなんです」と難しさを説明してくれました。客の側も自分が楽しみつつ他の客とも仲良くするには、オンライン独自のコミュニケーションのあり方になじまないと難しいようです。
とはいえ、オンラインでの接客はおおむねうまくいっているようで、「スタッフと話すことでお客さんが笑ったり笑顔になったりしてくれています」とくりこさん。「お客さんからは『みんなの元気な姿を見られてなんだか安心をする』『元気になれました!』『生きる糧になりました』『外出もできずもんもんとしていましたが、みんなと楽しく話せてスッキリしました』『新しい出会いがあり、友達もできたから寂しさが紛れました』という声をいただいています」
近隣店に広がるオンライン営業
緊急事態宣言が出された4月7日に、「女の子クラブ」とその系列店「フリーメゾン」は、社会情勢を考えて一時休業の判断を下しました。スタッフは全てリモート出勤し、営業はオンラインのみに。多くの店が休業を余儀なくされたことで、オンラインバーの様子にも変化がありました。
「緊急事態宣言後は、近隣の店舗も一斉に一時休業となり、オンライン営業を取り入れるお店も増えました。もともと、新宿2丁目では『ハシゴ』をして何軒もの店で飲まれるお客さんも多かったのですが、同じようにオンラインの『ハシゴ』をするお客様も出てきました」(くりこさん)
「女の子クラブ」を含む多くの店が休業し、夜の街が寂しくなる半面、オンライン営業を始める店が増えることで、オンラインバーの『ハシゴ』という新しい行動パターンが生まれつつあるようです。
ただ、スタッフも利用客もリモートワークが増える状況では、「みんな、自宅待機だから人と会ってなさすぎて新しいエピソードの会話が少なくなる傾向があります」とくりこさん。「最近の出来事を聞いても、みんな『家でテレワークしてた』とか、『ずっと家にいました』とか……」
オンラインバーは店を救うか
新たな需要を開拓し、利用客にも好評なオンライン営業ですが、それだけでは店舗の維持は難しいというくりこさん。「女の子クラブ」は系列店も含め都心に複数店舗を抱え、維持費がかかるためです。オンライン営業は赤字削減には貢献しているものの、店舗営業と同時に実施していくのが理想の形だといいます。
今後はオンラインでの売り上げ向上に向けて、オンラインでの女装メイクレッスン、女性声ボイスレッスンも検討していますが、「それでも赤字分の相殺は厳しいのではないかと思います」と厳しい現状を語っています。
「女の子クラブ」は他店の参考にとオンラインバーの実施経過内容を公開。「少しでも、多くの店舗がこの状況を乗り越えられることを願います」と述べています。
画像提供:女装サロンバー「女の子クラブ」新宿本店(Twitter/Facebook)
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忙しくなっているのに、人員は減っているという問題も。
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