ネットで接客する“オンラインバー”は夜のお店を救うか 女装サロンバー「女の子クラブ」の店長に聞いた

新しいバーのかたちやコミュニケーションが生まれる?

» 2020年04月25日 18時00分 公開
[谷町邦子ねとらぼ]

 全国に発出された緊急事態宣言、そして接客を伴う飲食店の利用自粛要請を受け、バーなど夜に営業する飲食店は厳しい状況に置かれています。

 この状況に対処すべく、東京・新宿2丁目の女装サロンバー「女の子クラブ」が、オンラインでのバーの営業を開始しました。客が自宅のPCやスマートフォンから店のスタッフと会話する(現在はスタッフも自宅から接客)という形です。オンライン営業によってバーのあり方や客にどのように変化するのか。店長のくりこさんにお話を聞きました。


女の子クラブ 画面の向こうのお客さんに接客

開業7年目の危機。店を守るためのオンラインバー

 「女の子クラブ」は2012年12月にオープンし、売り上げは毎年前年同月を上回っていました。2020年2月は前年同月とほぼ変わらない売上でしたが、3月中旬以降、外出自粛要請により来店客が減少し、売り上げが下がりはじめます。


女の子クラブ 「男の娘」のキャストと会話が楽しめて、お客さんも女装ができる「女の子クラブ」


女の子クラブ 店長のくりこさん

 「お客さんが減ってしまって、売上が少なくなっても、収益を得てお店を維持する手段の1つとしてオンライン上で営業ができるスタイルを確立しようと考えました」(くりこさん)


女の子クラブ オンライン営業のためにiMacを購入

 オンライン営業の開始に当たっては、オンライン会議ソフト「Zoom」の有料プランを導入(無料版だと40分の利用制限があるため)し、iMacとスピーカーマイクを購入(後にスピーカーマイクが不要だったことが判明)。

 さらにオンラインでの決済が可能な決済代行サービス会社を探し、新規に契約するなど準備に追われました。グッズや書籍などの販売に適した決算代行サービスはたくさんあったものの、「接客」の支払いに対応した決済代行サービスがなかなか見つからずに苦労したそうです。

 客は「bosyu」というWebサービスを経由して「来店」するため、オンライン営業の宣伝をしながら、分かりやすく手順を説明する必要もありました。

オンラインバーがもたらした変化

 オンラインバーは3月31日、実店舗の営業と並行して始まりました。「女の子クラブ」は、来店客の7割が女装者で、オンラインでもその比率は変わらず、基本的な楽しみ方は変わらなかったようです。しかしくりこさんは、オンライン営業を始めたことによる利用客さんの変化や新たな現象があったと話します。


女の子クラブ Webサイトでオンライン営業をPR

 「オンライン営業の方が、頻繁に『来店』されるお客さんがいます。ひとり暮らしで会話する人がいない方、共通の趣味を持つ人と少しでも会話したい方、ひとりでお酒を飲みたくない方がオンラインを活用しています。また、家を出るのが面倒だと考えている方の参加も多くみられました」(くりこさん)

 オンラインバーでは、ネットを介しで複数の利用客がスタッフと会話します。その中で客同士の関係にも変化がありました。「地方住まいのお客さんも多く、そういった方は普段お店になかなか来られず、オンライン上でないと会えないので、常連のお客さんにとってはオンラインでの『来店』が新しい出会いのきっかけになっているみたいです。お客さん同士の人間関係が新鮮になっているのを感じます」

 オンライン上で知り合った客同士が仲良くなり、TwitterなどSNSアカウントを教え合うなど、人間関係の広がりもあるとのことです。バーやスナックは店のスタッフに会えるだけでなく、客同士の社交の場でもあるので、オンラインに場を移すことにより、交流が空間的に広がったということなのでしょう。


女の子クラブ 当初はお店でスタッフが自宅などにいるお客さんを接客

 新しい利用客や需要を開拓したオンライン営業ですが、一方では「実家住まいの方や、自宅に家族がいる方の場合は、オンラインでの『来店』が難しいことが多いです」(くりこさん)という難点も。家族と一緒に住んでいる場合は、お店のほうがのびのび飲んで話せるという人が少なくないかもしれません。

リアルとオンラインの接客の違いは?

 もともとお店でお客さんたちに向かい合って接客していたくりこさん。オンラインでの接客を始めて、コミュニケーションの仕方の違いを感じたと話します。「お店での対面と違って、距離が離れているからこそ、ちょっと恥ずかしい会話もしやすいみたいです」。まるで相手が目の前によるような雰囲気で会話はできるけれど、実際には遠く離れているというネット独特の距離感により、いつもより解放的になれる人もいるようです。


女の子クラブ オフラインなお店にいるお客さんもオンラインに興味津々

 また、「女の子クラブ」が活用しているオンラインツールは画面の共有が可能。「自宅から『来店』している人が多く、自分の好きな物やオススメしたい物、面白い物、プライベートに関する物を持ってきて、画面でみんなに見せて会話のネタにしたりしています」(くりこさん)

 一方で、オンラインならではのコミュニケーションの難しさも。「オンラインでの会話は(お客さんが複数名いる場合)全体を通して盛り上がる話題じゃないと成り立たちにくいと感じています。店舗の接客とは違うので、会話をまとめる役目のスタッフは、事前に練習してオンライン営業の感覚に慣れる必要がありました」とくりこさん。

 自由にやり取りしづらいのは客の側も同じようで、「お店のようにお客さん同士で個々に会話しにくい雰囲気があります。オンラインで個人的に話すと、会話に参加できない人が多くなってしまうので、空気が読めないと思われるかもしれないからなんです」と難しさを説明してくれました。客の側も自分が楽しみつつ他の客とも仲良くするには、オンライン独自のコミュニケーションのあり方になじまないと難しいようです。


女の子クラブ にぎわうオンラインバー

 とはいえ、オンラインでの接客はおおむねうまくいっているようで、「スタッフと話すことでお客さんが笑ったり笑顔になったりしてくれています」とくりこさん。「お客さんからは『みんなの元気な姿を見られてなんだか安心をする』『元気になれました!』『生きる糧になりました』『外出もできずもんもんとしていましたが、みんなと楽しく話せてスッキリしました』『新しい出会いがあり、友達もできたから寂しさが紛れました』という声をいただいています」

近隣店に広がるオンライン営業

 緊急事態宣言が出された4月7日に、「女の子クラブ」とその系列店「フリーメゾン」は、社会情勢を考えて一時休業の判断を下しました。スタッフは全てリモート出勤し、営業はオンラインのみに。多くの店が休業を余儀なくされたことで、オンラインバーの様子にも変化がありました。


女の子クラブ 一時休業により、全てのスタッフがリモートで接客するように(上段、中央はお店にいる男装のくりこさん)

 「緊急事態宣言後は、近隣の店舗も一斉に一時休業となり、オンライン営業を取り入れるお店も増えました。もともと、新宿2丁目では『ハシゴ』をして何軒もの店で飲まれるお客さんも多かったのですが、同じようにオンラインの『ハシゴ』をするお客様も出てきました」(くりこさん)

 「女の子クラブ」を含む多くの店が休業し、夜の街が寂しくなる半面、オンライン営業を始める店が増えることで、オンラインバーの『ハシゴ』という新しい行動パターンが生まれつつあるようです。


女の子クラブ オンライン上での接客やハシゴなど、新しいカルチャーが生まれつつあるのでしょうか

 ただ、スタッフも利用客もリモートワークが増える状況では、「みんな、自宅待機だから人と会ってなさすぎて新しいエピソードの会話が少なくなる傾向があります」とくりこさん。「最近の出来事を聞いても、みんな『家でテレワークしてた』とか、『ずっと家にいました』とか……」

オンラインバーは店を救うか

 新たな需要を開拓し、利用客にも好評なオンライン営業ですが、それだけでは店舗の維持は難しいというくりこさん。「女の子クラブ」は系列店も含め都心に複数店舗を抱え、維持費がかかるためです。オンライン営業は赤字削減には貢献しているものの、店舗営業と同時に実施していくのが理想の形だといいます。

 今後はオンラインでの売り上げ向上に向けて、オンラインでの女装メイクレッスン、女性声ボイスレッスンも検討していますが、「それでも赤字分の相殺は厳しいのではないかと思います」と厳しい現状を語っています。

 「女の子クラブ」は他店の参考にとオンラインバーの実施経過内容を公開。「少しでも、多くの店舗がこの状況を乗り越えられることを願います」と述べています。

画像提供:女装サロンバー「女の子クラブ」新宿本店(TwitterFacebook


(谷町邦子 FacebookTwitter

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

昨日の総合アクセスTOP10
  1. /nl/articles/2407/24/news014.jpg 庭で見つけた“変なイモムシ”を8カ月育てたら…… とんでもない生物の誕生に「神秘的」「思った以上に可愛い」
  2. /nl/articles/2407/25/news017.jpg 「これが生えたら庭終了」 プロも降参する“何をやっても全部ムダな最恐雑草”の正体が400万再生「ほんとこれ厄介」「土ごと変えないと不可能」
  3. /nl/articles/2407/26/news151.jpg イトーヨーカドー春日部店が閉店へ 「クレヨンしんちゃん」に登場するスーパーのモデル 「残念」「寂しい」惜しむ声
  4. /nl/articles/2407/25/news012.jpg 夜、山中の側溝をのぞいてみたら…… 思わず声がもれる“あらぬ生物”の姿に「ヤバいw」「生で見てみたい」
  5. /nl/articles/2407/25/news007.jpg 水槽の中で卵を発見→慎重に見守って1カ月後…… 小さな命の誕生に飼い主も視聴者もメロメロ「まじで可愛すぎるほんとに可愛い」
  6. /nl/articles/2407/25/news138.jpg 「お父さんはママのオタクだった」 母親が「元・おニャン子」のタレント、アイドルとオタクが“つながっちゃいけない理由”を問いかける
  7. /nl/articles/2407/25/news050.jpg 「立体的に円柱を描きなさい」 中1の“斜め上の解答”に「この発想は天才」「先生の優しさも感じます」
  8. /nl/articles/2401/26/news015.jpg スーパーで買ったレモンの種が1年後…… まさかの結果が635万再生「さっそくやってみます」「すごーい!」「手品みたい」
  9. /nl/articles/2407/26/news119.jpg 工藤静香、15歳の愛犬が天国へ 感謝の言葉つづるも……「泣いてばかり」「心が追いつかない」と悲痛な思い
  10. /nl/articles/2407/26/news008.jpg 外国人が来日して“3年後”…… マクドナルドの“オーダーの変化”に「胃袋が日本人のそれなんよw」とツッコミ
先週の総合アクセスTOP10
  1. プロが本気で“アンパンマンの塗り絵”をしたら…… 衝撃の仕上がりが360万再生「凄すぎて笑うしかないww」「チーズが、、、」
  2. 6年間外につながれっぱなしだったワンコ、保護準備をするため帰ろうとすると…… 思いが伝わるラストに涙が止まらない
  3. 「お釣りで新紙幣来た!!!!!と思ったら……」 “まさかの正体”に「吹き出してしまった」「逆に……」
  4. 赤いカブトムシを7年間、厳選交配し続けたら…… 爆誕した“ウルトラレッド”の姿に「フェラーリみたい」「カッコ良すぎる」
  5. ダイソーで買った330円の「石」を磨いたら……? 吸い込まれそうな美しさが40万回表示の人気 「夏休みの自由研究にもいいのでは?」
  6. 「これ最初に考えた人、まじ天才」 ダイソーグッズの“じゃない”使い方が「目から鱗すぎ」と反響
  7. もう笑うしかない Windowsのブルースクリーン多発でオフィス中“真っ青”になった海外の光景がもはや楽しそう
  8. アジサイを挿し木から育て、4年後…… 息を飲む圧巻の花付きに「何回見ても素晴らしい」「こんな風に育ててみたい!」
  9. スズメの首は、実は……? 「心臓止まりそうでした」「これは……びっくり!」“真実の姿”に驚愕の声
  10. 【今日の計算】「8×8÷8÷8」を計算せよ
先月の総合アクセスTOP10
  1. 18÷0=? 小3の算数プリントが不可解な出題で物議「割れませんよね?」「“答えなし”では?」
  2. 日本人ならなぜかスラスラ読めてしまう字が“300万再生超え” 「輪ゴム」みたいなのに「カメラが引いたら一気に分かる」と感動の声
  3. 「最初から最後まで全ての瞬間がアウト」 Mrs. GREEN APPLE、コカ・コーラとのタイアップ曲に物議 「誰かこれを止める人いなかったのか」
  4. 「値段を三度見くらいした」 ハードオフに38万5000円で売っていた“予想外の商品”に思わず目を疑う
  5. 「思わず笑った」 ハードオフに4万4000円で売られていた“まさかのフィギュア”に仰天 「玄関に置いときたい」
  6. かわいすぎる卓球女子の最新ショットが730万回表示の大反響 「だれや……この透明感あふれる卓球天使は」「AIじゃん」
  7. 「これはさすがに……」 キャッシュレス推進“ピクトグラム”コンクールに疑問の声相次ぐ…… 主催者の見解は
  8. 天皇皇后両陛下の英国訪問、カミラ王妃の“日本製バッグ”に注目 皇后陛下が贈ったもの
  9. 「この家おかしい」と投稿された“家の図面”が111万表示 本当ならばおそろしい“状態”に「パッと見だと気付けない」「なにこれ……」
  10. 和菓子屋の店主、バイトに難題“はさみ菊”を切らせてみたら…… 282万表示を集めた衝撃のセンスに「すごすぎんか」「天才!?」