ファンタジー作品に出てくるやつだ! 鉱石を磨いて作る“ストーンナイフ”、制作過程を追った同人誌にわくわくする司書みさきの同人誌レビューノート

心をくすぐる造形。

» 2020年05月17日 12時00分 公開
[みさきねとらぼ]
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 新緑、青空、日ごとに変わりゆく季節。夜明けの白んでいく風景や、茜色に染まる夕焼け……そんな色すらも写し取ったような自然の鉱石をさらに鋭い美しさに磨き上げた、今回はストーンナイフの同人誌です。

今回紹介する同人誌

『Stoneknife's World』B5 16ページ 表紙・本文カラー

『Stoneknife's World 番外編 EXTRA EDITION』B5 16ページ 表紙・本文カラー

著者:西園寺真之


同人誌 図書館 司書同人誌 図書館 司書 自然の鉱石を使った深い輝きが光ります


ストーンナイフとは? 石から作る“使える”ナイフ

 『Stoneknife's World』はストーンナイフにひかれる作者さんが、そもそもストーンナイフとはどんなものか? どのような作品があるのか? といった解説を写真とともに解説したご本です。瑪瑙(めのう)や水晶などから作られるナイフのうち、特に鋭く削って研磨し、ナイフとして機能するものをご本では“ストーンナイフ”と紹介されています。鉱石を美しく形作るだけでなく、さらに研ぎ澄まされた切っ先が美しいです。これ、ファンタジー世界で授けられたりしませんか!? と思ってしまうほどの妖しい輝きに、カラーページをまじまじと眺めます。

 ナイフとして機能するとはいえ、もともとの素材によって繊細な扱いが必要なこと、そしてナイフだからこそ所持するときの注意など、材料や入手について以外も、ストーンナイフを初めて持つ人に向けてのポイントがコンパクトにまとめられているのは、「同志よ、さあこちらへ!」と、作者さんの力強い導き力を表しているようです。

同人誌 図書館 司書 鋭くも滑らかな刃から、石をよく磨いたやわらかさが伝わるようです

とりこになったら作ってみる! 自作への道をひた走る

 さて今回は同サークルさんのご本をもう一冊紹介します。『Stoneknife's World 番外編 EXTRA EDITION』は、先のご本が同志への呼びかけだとしたら、こちらは叫び。野球マンガで投手がボールを放つのに「うおおお!」と咆哮するような熱血の記録。ネットでストーンナイフの存在を知ったものの、なかなか実物を手に取る機会がない……それなら自分で作れないか!? という衝動そのままに走り出した作者さんの足跡が記されています。

 いえ、文体も、工程や工具の紹介も順を追い、すっきりと読みやすくまとまっているんですよ。決して騒がしいわけではないんです。でも、ご自身を「ド田舎在住、専門知識や特殊なコネを持たず、やる気はともかく予算には限りがあるという著者」と振り返りながらも、材料や道具をそろえて思い付いた方法を試し、失敗を繰り返し、ついにはストーンナイフ作家の北林竹二さんの工房見学でお話を聞くことで、制作の大きな階段を上がる様子はなんとドラマチックなことでしょう。

同人誌 図書館 司書同人誌 図書館 司書 制作のあゆみが機材の写真つきで解説されています


地道さの末にたどり着く造形美

 ページを見たときにはっとした美しさは、実に丁寧な工程を経て仕上げられていたのだと、2冊を読んで気付きます。

 ストーンナイフの基礎的な取り扱い、魅力をまとめた“静”的な『Stoneknife's World』。実践と取り組みの“動”の記録『Stoneknife's World 番外編 EXTRA EDITION』。石を研ぎ、自分の目指す形にどのように取り組むのかという心持ちまでが示され、読み終えると一つの華麗な作品の向こうにはたくさんの準備と手間と、情熱があることがあらためて胸にしみます。

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サークル情報

サークル名:March Rabbit's

Twitter:@PsyonG

Webサイト:https://www.marchrabbits.com

現在入手できる場所:通販直販(通販・直販とも完売の場合はお問い合わせ下さい。反響次第で、増刷または増補改訂を検討します<作者より>)

※レビュー記念に、BOOTH直販でC96会場限定だった番外編セットを限定復刻中(発送にお時間を頂く場合があります)。



今週の余談

 鉱石に興味を持ったのは、宮沢賢治作品が最初か、ますむらひろしさんのマンガの世界に引っ掛かりを覚えたのか、長野まゆみさんの小説でダメ押しだったのか……しかも今回、新たに美しい発展系を知ることができてうれしいです。入口はそこら中で待っていますね。

みさき紹介文

 図書館司書。公共図書館などを経て、現在は専門図書館に勤務。自身でも同人誌を作り、サークル活動歴は「人生の半分を越えたあたりで数えるのをやめました」と語る。


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