【ネタバレ】「ドラえもん のび太の新恐竜」のスパルタ教育と根性論 誤った“多様性”の危うさを考察(3/3 ページ)
そもそも、人間の社会における多様性とは、その人の“らしさ”を肯定する言葉だ。弱者と共存するということはその定義から外れているし、弱者という言葉を使っていることも差別的に思えるし、「多様性がそういう話になりがち」と考えていることにも違和感がある。また“生物多様性”という言葉も、生態系の多様性・種の多様性・遺伝子の多様性という複合的な意味を有するものであり、「生物は他のたくさんの生物と関わっていて生きている」ということでもある。それらの概念を十分に鑑みておらず、「多様性は生物がサバイブするための必須条件」と短絡的に定義してしまっていることが、そもそも間違いだ。
4:「君の名は。」なクライマックスが生み出した違和感
「生物の進化」についても、無理やりに思えてしまう論理展開がある。具体的には、キューが飛んだことが「恐竜から鳥への進化の瞬間を目撃した」と劇中で語られているが、進化とはそのようなピンポイントで起こるものではなく、生物の連続性があってはじめて成り立つものではないか。
さらに、「他者を思いやる心。そんな感情は、人間だけが進化させた能力なのかもしれない」とも語られているが、前述した通りのび太のスパルタ教育と、その訓練からキューが逃げたという事実があるため、「他者を思いやる心」というのがひどく欺瞞的なものに思えてしまう。
そして、クライマックスでさまざまな要素が組み合わさっていく、何より「隕石が落ちてきてみんなが死んでしまうかもしれない! 力を合わせて守るんだ!」という展開は、川村元気がプロデュースを手掛けた「君の名は。」とほぼそのままだ(おそらく「のび太と竜の騎士」も意識している)。
「君の名は。」は夢の中で入れ替わった相手に恋をすることと、隕石が落ちる場所にいるみんなを助けたいと願うという気持ちがしっかりリンクしているからこそ、登場人物を応援できた。しかし、「のび太の新恐竜」では、(根性論で)キューが飛べるようになることと、(間違った)多様性の訴えと、(ピンポイントのはずがない)恐竜が鳥へ進化する過程を、強引につなげているように思えてしまう。
「世界が終わるかもしれない」という展開は、確かにエモーショナルだ。しかし、本作は以上にあげたような論理展開による結論ありきで、いくつかの要素を組み合わせたおかげで、素直に楽しむためには、あまりにもノイズが多い作品になってしまっている。
まとめ
この他にも、「のび太の新恐竜」にはノイズになってしまうセリフや展開が多い。ピー助(声:神木隆之介)が登場するファンサービスは設定としてどう受け止めれば良いのかわからないし、ドラえもんはなぜか“イナゴの缶詰”を何度も出すというポンコツぶりが目立つし、キューの対比となっている双子のミューの活躍の場面が少なすぎるし、途中でジャイアンとスネ夫が人工的な施設で見つけた恐竜たちの生態標本はなんだったんだと思うし、“飛んでいる”プテラノドンが完全に“敵”として描かれているのも納得がいかない。タイムパトロールが、結局はのび太たちの“歴史改変”を肯定してしまっているのも、モヤモヤが残ってしまう。
総じて悲しいのは、やはり作り手の一方的な価値観の押し付けだ。それは物質的に豊かになり、多様な価値観があらわれている現代では、ひどく前時代的で独善的に思えてしまう。暴力を振るうようなコミュニティからは逃げてもいいし、飛べなくても、逆上がりができなくてもいいではないか。今は、弱肉強食の白亜紀ではないのだから。
この映画を観て根性論やスパルタ教育を良きものとする、そのような風潮にならないこと願っている。それこそ、「ドラえもん」という作品の精神に最も反することだろうから。そして、本作が多様性や進化について調べたり考えたりするきっかけになるのであれば、それは喜ばしいことだ。
(ヒナタカ)
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