伝奇、ホラー、SF、ひみつ道具何でもあり 漫画『峠鬼(とうげおに)』がマジ面白いから皆さん買って読んでくださいという話:今日書きたいことはこれくらい
あとヒロインの妙(みよ)がかわいい。
この記事は、しんざきの最近の最推し漫画である『峠鬼(とうげおに)』の魅力について皆さんに語り倒し、ついうっかり記事を読んだ人に単行本をポチらせちゃおうという意図のもとに書かれた我田引水記事です。しんざきが個人的なわがままで書かせていただいているだけで、依頼を受けてのPR記事とかではないです。ご了承のほど、よろしくお願いいたします。
いや、もちろん皆さま、趣味に仕事にスポーツにSNSにと、大変お忙しいということはよっく分かるんですよ。なかなか漫画読む時間もとれないですよね。分かる分かる。しんざきも週1回イーアルカンフー(ファミコン版)やるのに結構忙しいですし。あとアイスクライマーノーミス32面チャレンジとか。
ただ、そこをちょっとだけ曲げて、だまされたと思ってこちらの試し読みだけでも読んでみていただけないでしょうか。第1話が丸々読めます。冒頭にちょっとだけ血なまぐさいシーンがありますけど、あとはお子様でも安心してお読みいただける内容になっていますので。
単なる「伝奇ロマン」に収まらないスケールの大きさ
最初に、簡単に作品紹介をさせてください。
『峠鬼』は鶴淵けんじ先生による、古代日本、飛鳥時代を舞台にした伝奇ファンタジーです(※漫画雑誌『ハルタ』で隔号連載中)。
神代の空気がまだ色濃く残っていたころの日本。人はいまだ、日本古来の八百万(やおよろず)の神々と寄り添って暮らしていました。
そんな中、舞台はとある村、一人の少女が神のいけにえに選ばれるところから始まります。白羽の矢を立てられた少女の名は妙(みよ)。みなしごの妙は、その1年後、村の氏神である切風孫命神(きっぷうそんのみことのかみ)にささげられる運命でした。そんなところに、高名な道士である役行者(えんのぎょうじゃ)の一行が現れ……。
と、出だしは結構重ためな感じなんですが、実際の展開は予想以上に痛快、かつ奇想天外です。
メインとなる登場キャラは3人。いけにえになりかけたみなしごの少女、妙(みよ)。かわいい。
飛鳥時代の道士といえばもちろんこの方、役行者こと小角(おづの)。
小角の弟子である少年、善。
物語は、この3人が葛城山の神である一言主に拝謁することを目的として、さまざまな日本古来の神様と接触・対話しながら、古代日本を旅していく様子を描写しながら進みます。
ただ、上記第1話を読んでいただければ分かる通り、その物語のスケールはただ「伝奇ロマン」という一言で収まるものではありません。
歴史に基づく描写あり、ホラー展開あり、SF展開あり、ひみつ道具大活躍展開ありと、そのお話のスケールはまさにバーリトゥード(何でもあり)。メインとなる3人の魅力を中軸に、読者の前に展開される奇想天外な「神と神器巡りの珍道中」を鶴淵けんじ先生の優れたストーリーテリング能力が包み込む。それが『峠鬼』という漫画の魅力なのです。
しんざきが考える、『峠鬼』の魅力は、大きく分類すると下記3点です。
- 神々とその神器にまつわる騒動を主軸にした、奇想天外でありながらきちんとまとまったストーリー展開
- 実際の神話や歴史を背景にした、読み込みがいのある世界設定
- 鶴淵先生が織りなす各キャラクターの魅力。というか妙がとてもかわいい、ひたすらかわいい。神様たちもわりとかわいい
順番に深堀りしていってみましょう。冒頭リンクをあげてある第1話については、割と遠慮なくネタバレをしてしまうのでご承知おきください。というか第1話だけでも読んでみてくださいマジで。損はさせないんで。
神々とその神器にまつわる騒動を主軸にした、奇想天外でありながらきちんとまとまったストーリー展開
まず私、最初に第1話を読んだ時、結構びっくりしたんですよ。「たった60ページちょっとでこの濃密な内容を描き切るのか……マジか……!?」って。
第1話、「詰め込みすぎ」って思いません? まず何より、峠鬼って1話あたりの内容がめっちゃ濃いんですよ。
世界の描写、村の描写、妙の振る舞いや性格、その願望や生い立ちの描写、そこに現れる小角たちの描写。善や小角への妙の反感、善や小角のスタンス、そしてもう一人の重要人物・後鬼(ごき)との出会いの描写なんかまで描いておきながら、ここまでがまさかの前座。
切風孫命神の元に拝謁して以降は、まさに話は怒涛(どとう)の迫力展開、『峠鬼』の真骨頂。切風孫命神の神器で時代を渡ってしまった妙は、時をかける妙になって現代やら江戸やら中生代にまで駆け回ってしまうのです。さらにそこで、当然のように妙を助けるために大神に歯向かう小角と善。その迫力はバトル漫画風味ですらあります。熱いですよね。
これだけわやくちゃな展開にしておきながら、話の最後のまとめ方はしっかりと締まっています。後鬼は何者だったのか、という種明かしと同時に先々の展開の伏線まで仕込みつつ、妙が3人と旅をする導入、その未来まで描写するオチは、読後感の爽やかさまできっちり実現しています。「お見事」という他ありません。
密度ものすっごくありません?
ここで、「この物語は基本的に何でもありだよ」という宣言と、お話の基本構造の提示までしてしまいつつ、なんなら1話完結の短編といわれてもおかしくないくらいきっちり話を締めているの、割とものすごーい「お話まとめぢから」だと思うんですよね。普通なら「詰め込みすぎで良く分からん」ってなってもおかしくない質量なのに、とにかく読みやすくてするっと頭に入ってくるんです。
これ恐らく、1コマあたりの情報量の絶妙さっていうか、描写の緩急が絶妙なためで、細かく書くところと省略するところのバランスがいいからじゃないかなーって私は思ったんですけど。
例えば後鬼と妙の会話では、妙の表情の移り変わりまで細かくきちんと描いて、妙の心情描写に非常に力点を置いている一方、
妙のいけにえにかかる村の描写やらなにやかやについては割とさらっと流していたりとか。
物語上でどこに力点を置くか、というバランシングがうまいなーと。
この1話を読んでいただけば分かる通り、『峠鬼』は基本的に「神様と、その神様がもつ不思議な道具である『神器』による大騒動」と「それに巻き込まれる妙たち」を見守る物語として描写されます。ただこの発想がいちいちすごくって、「伝奇ロマン」という枠組みに到底収まらない。1話で既にタイムマシン的な神器が出てきているわけなんですが、2話以降の神様や神器も「そうくるか」の乱射です。
神器の権能はバラエティ豊富で、ときには妙たちを大ピンチに落とし込むこともあるのですが、逆に妙たちを助けることもあります。このときの妙や小角たちが神器の力を見極め、それを利用する筋書は、一面「ドラえもん」のひみつ道具の活躍を古代日本でやっているような、そんなわくわく感があります。
また、神々も妙に人間臭く、これまたバラエティ豊富、一癖も二癖もある方々なんです。
例えば、1話で勝手に神器を使われて激おこしている切風孫命神様。小角とド迫力のやり合いを見せた大神様ですが、なんか自分も中生代に飛ばされちゃって、ぷんすかしながらモササウルスっぽいの(多分)をヘッドロックしてるのがとてもかわいい。
2話で出てくる早天羅比売神(さでらのひめのかみ)は、厄神扱いされてぷんすか怒ってるフレンドリーな神様です。けれど当然のことながら怒ると怖いんですよ、この方も。
不気味な神様、かわいらしい神様、威厳のある神様、情けない神様。それぞれがちょっとずつ妙たちと関わって、お話を織り上げていく。物語としては何でもありだけど、全体を見ればきちんと話が収束して、全員が欠かすことのできない『峠鬼』世界の一部になっている。飛鳥時代の日本でめっちゃ普通に英語しゃべってる穂生倶主(ほのきぐぬし)様とか超好き。
まずは、この「神と神器と、妙たちとのドタバタ騒ぎ」がとてもいとおしく、『峠鬼』という物語の中核を占めている、ということは間違いないでしょう。
実際の神話や歴史を背景にした、読み込みがいのある世界設定
ところで、皆さんご存じの通り、「役行者」こと小角は、『続日本紀』や『日本霊異記』でその名が見られ、飛鳥時代に実在した人物だったと考えられています。創作だと『里見八犬伝』や、ラノベの草分けである『宇宙皇子』なんかに登場することでも著名ですよね。ちなみに、葛城山の一言主様も、『日本書紀』や『続日本紀』で名前が出てくる神様です。
で、小角や一言主様だけではなく、他の登場キャラクターも(そうと明言はされないまでも)実在の人物や実際の神話が元になっているものが多く、『峠鬼』の世界を奥深いものにしています。
例えば、2巻で出てくる小角の知己、「東宮(あずまのみや)」。
劇中いろいろあって、妙とも浅からず関わりながら大変いい味出した活躍を見せるこの方なんですが、「東宮」というのは皇太子の御所、同時に皇太子自身も指す言葉ですので、この方は飛鳥時代の皇太子のどなたかであろう、ということはすぐに見当がつきます。
この他この人物について分かることとしては、
- 出家しており、まだ還俗(げんぞく)していない
- 「近江の新都」という言葉が出ている
- 東宮のセリフに「兄上と共に近江へ行ったものもいる」というものがある
- 作中の時間軸で言うと未来の小角のセリフに「東宮が近江へ攻めあがる際に」というものがある
「近江の新都」。飛鳥時代の近江の都というと、当然近江大津宮。遷都してたった5年で、壬申の乱によって廃された都です。
ここから考えてみると、この人の正体って一人しか考えられないんですよね。そう、壬申の乱を起こした大海人皇子、すなわち後の天武天皇その人です。
ちなみにこの人、「うちのさららなど正にその歳で嫁いできましたよ」とかさらっと言っちゃってますけど、これってつまり天武天皇のお妃さまである“うののさらら”、つまり持統天皇のことですよね。ただキャラクターの名前として「小角」が出てくるだけではなく、実際に同時代の歴史上の人物も絡めて造られたストーリー。私こういうの大好きなんですよ。東宮また出てこないかなー。
「何でもあり」の世界観でありながら、さらっと実際の歴史も絡めて世界観を奥深くしているところも、鶴淵けんじ先生のうまいところだなーと考える次第なのです。
鶴淵先生が織りなす各キャラクターの魅力。というか妙がとてもかわいい、ひたすらかわいい。神様たちも割とかわいい
とにかく! 妙が! かわいい!!!!!! という点については一言声を大にして言いたい。けなげで頑張り屋で人懐っこいところもあって、都に憧れていて普通の村娘っぽいところも見せるし、憧れがかなえばきゃっきゃはしゃぐし、一方でまさかと思えるほど機知も行動力もある。この『峠鬼』における妙というキャラクターの魅力は、物語の魅力を語る上でも大変に大きいと強く主張するところなんです。
画像はあこがれの都に来てテンション高くはしゃいでいる妙。めっちゃかわいい。
妙は小角や善に比べれば力もないし術も使えない、本当にただの村娘なんですが、その行動力や決断力には、小角や善もしばしば助けられます。第3話で小角や善や村人を助けるために山に向かう妙とか、普通の村娘の行動力じゃない。ヒーローですよヒーロー。
当初は妙を「ただびと」と侮っていた善も、やがて妙のことを見直していき、心を開き、ときには頼りにするようにさえなっていく。この距離感や空気感もとても心地よい。個人的には、善と妙の距離感の変遷って『峠鬼』のめちゃくちゃ重要なポイントなんですけど。
もちろん妙以外のキャラクターもいい味出してる人たちばかりでして、決める時は決めるんだけど抜けてるときには抜けてる小角、不愛想だけど年相応の少年らしい部分も見せる善も含め、キャラクターの魅力については大保証してしまえるといって良いでしょう。
2巻までの劇中で三度出てくる、善の「同じなもんか」という言葉については、ぜひそれぞれの表情の移り変わりに着目していただきたい、と考えること大なわけです。
ところで人間のキャラクターばかりではなく、登場する神様もとてもいい味を出している方々ばかりでして。メインエピソードの神様たちもさることながら、2巻の最後、外伝的なエピソードとして描かれる神代の物語でも、神様たちのドタバタ感がいい味出しまくりです。謎の太陽神っぽい女神様に付き従っている、雷神っぽい「カシマ様」と大剣振り回す「カトリ様」。このお二柱が、日本神話で言うとどなたに該当するのかなー、とか考えてみるのも楽しいわけです。
というかカトリ様のデザインめちゃくちゃ好みなんですけど。でっかい武器もった女の子好き。敬礼してるポーズめちゃかわいい。
ということで、長々と書いて参りました。
本記事で書きたかったことを一言でまとめますと、「峠鬼は超面白いし妙は超かわいいので皆買って読んでくださいまだ3冊しか出てませんので簡単に追いつけますあとカトリ様好き」となるわけでして、他に言いたいことは特にありません。よろしくお願いします。
今日書きたいことはこれくらいです。
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そこには確かに、生き生きとした冒険の世界があった。
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