『コロボックル物語』シリーズ、特に2巻の『豆つぶほどの小さな犬』が、児童小説としては信じられないほど良質なミステリーでありかつラブコメだという話:今日書きたいことはこれくらい
児童書だからといって侮れない『コロボックル物語』シリーズの魅力
今から皆さんに、「児童小説の『コロボックル物語』シリーズ、特に2巻の『豆つぶほどの小さな犬』がドチャクソ面白いし実はラブコメとして読んでも超高品質で恐ろしく尊い」という話をしようと思います。よろしくお願いします。
しんざきは児童小説というものが好きでして、大人になった今でもちょくちょく新しい作品をあさっています。自分で探したりも、長男や長女次女に知らない作品を紹介してもらったりもします。
児童小説といっても決して子ども向けと侮ったものではなく、あるいは子ども向けであるからこそ、びっくりするほどの良質なエンターティンメントをわれわれに提供してくれます。
児童小説というものは、「子ども向け」というよりは「ターゲットを『子ども』に設定したストーリーテイル」なのであって、ターゲットが明確であるからこそシナリオにも展開にもときとして重厚な背骨が通りますし、あるいはときとして良質なミステリーを、あるいは良質な冒険をわれわれに提供してくれます。だからこそ、大人が読んでもめちゃ楽しめる。
例えば、ミヒャエル・エンデの『はてしない物語』。
斎藤洋の『ルドルフとイッパイアッテナ』。
ケストナーの『飛ぶ教室』。
ヴェルヌの『二年間の休暇』。
このへんは私が昔から大好きな作品群の一部なんですが、子どもも楽しめる作品でありながら、大人が今読んでも、わくわく感と冒険心をいっぱいに提供してくれる作品ばかりなわけです。特に「はてしない物語」は、児童小説の枠を取っ払っても、しんざきオールタイムベスト5本の指に入る名著です。
さて。そんな中、しんざきチョイス児童小説部門でも一号生筆頭、男塾で言えば剣桃太郎に当たる超絶大好きなシリーズがあります(なお『はてしない物語』は三号生筆頭)。
その名は、『だれも知らない小さな国』。『コロボックル物語』シリーズといえば思い当たる方もいらっしゃるでしょうか。もともとはハードカバーの本なんですが、青い鳥文庫なんかでも出てます。
コロボックルシリーズは、とある町の小さな小山に住んでいた小人たちと、その小人たちに関わる人間たちの話です。コロボックルたちは人間の指くらいの大きさでして、移動がとんでもなく速く、目にも止まらない速さで動けるため普通に動いているだけで人間には見つからない、という絶妙な設定を持たされています。
まずは簡単に、1作目『だれも知らない小さな国』、およびシリーズ全般の魅力について紹介させてください。
秀逸な「謎」と「課題解決」のカタルシス
『だれも知らない小さな国』という物語の舞台は、戦前〜戦後間もなく、今よりもだいぶ森や林が多かった時代です。
後に「せいたかさん」と呼ばれることになる、主人公の「ぼく」は、子どものころ、思いもよらない経緯から秘密基地のような「小山」を見つけ、そこが大好きになります。その小山で時間を過ごす内、あるおばあさんからその小山に住む小人、「こぼしさま」の伝説を聞き、やがて本当に「こぼしさま」を目撃することになります。その後、成長した「ぼく」は、子どものころに見た小人を求めて奔走します。そして、ようやく出会うことができた「こぼしさま」と「ぼく」は、不思議な心の交流を持つことになるのです。
コロボックルシリーズは、子ども向けの「おはなし」に見せかけて、どの作品でも何かしらの「謎」と「課題」を読者に提示します。まずこれが第1のポイント。
「こぼしさま」ことコロボックルは本当にいるのか? いるとしたら、どうすれば出会うことができるのか? コロボックルたちと関係を築くにはどうすればいいのか? 「ぼく」ことせいたかさんは、それらの課題を解決するために奔走します。
コロボックルたちに出会えた後は後で、せいたかさんはさまざまな課題に直面していきます。小山を自分の所有物にするのが子どものころからの夢だったせいたかさん。その夢をかなえるためにはどうすればいいか。お金は。家は。小山に迫る危機を、コロボックルたちとどう協力して乗り切るか。コロボックルたちの味方をどうやって増やすか。
そういったさまざまな「課題と解決」が、「だれも知らない小さな国」、およびコロボックルシリーズの楽しさの中心であることは間違いないでしょう。小山がつぶされる危機に、コロボックルと協力して、コロボックルたちでしかできない方法で国に計画を変えさせるくだりとか、もうめちゃめちゃわくわくする。困難を解決することに伴うカタルシスが満載。
で、「小山」の描写や小山で遊び、生活する「ぼく」の描写が、これがまたものすごく生き生きしていて素晴らしいんですよ。こんな遊び、こんな生活、自分もしてみたい!! ってものすごーーく思っちゃう。自分以外誰も知らないキレイな小山で、木に登って一人本を読んだり、昼寝をしたり、川歩きをしたり。自分で小屋を作ったり、泉を掘ったり、かまどを作って火を焚いてお茶を沸かしたり。しかもそこには常に、個々としても魅力的なキャラクターであるコロボックルたちがいるわけです。
こういう場所が本当にあったらいいなあ、こんな暮らしをしてみたいなあ。子どもにそうやって憧れさせる要素が、コロボックルシリーズには満載です。全編にわたって「小人たちと協力しながらさまざまな問題に立ち向かう人間たちの生き生きとした描写」というものがシリーズに共通した魅力となっている、ということは間違いないでしょう。
で、「課題と解決」という点では、1作目である「だれも知らない小さな国」シリーズ以上に、2作目となる『豆つぶほどのちいさないぬ』が出色です。もう、普通に謎解き小説として読んでもいいくらいの素晴らしい出来です。
この2作目では、物語の主役が完全に「せいたかさん」からコロボックルたちに切り替わります。コロボックルの一人である「風の子」ことクリノヒコは、かつてコロボックルが飼っていて、今は死に絶えてしまったと考えられている、小さな小さな犬である「マメイヌ」を、仲間たちやせいたかさんと協力して探索することになります。
1作目と変わらず、ここにはわくわくする「謎と課題」があります。クリノヒコは、小さなころ、とある事件をきっかけに見た生き物が「マメイヌ」だったかもしれないと考えはじめます。その場所はどこだったか。それがマメイヌだとしたら、どうやってその存在を確認して、どうやっておびき出すか。捕まえることはできるのか。
コロボックルたちのキャラクターも、せいたかさんと同等かそれ以上に生き生きしていて、読んでいてめちゃ魅力的だし楽しいわけです。風の子の子どものころからの親友、「フエフキ」ことスギノヒコ。医者の卵である「ハカセ」に、技師の卵である「サクランボ」。探索の名人「ネコ」に、「オチビ」ことクルミノヒメ。彼ら彼女らは、マメイヌ探索と平行して、コロボックルに新聞を発行する「コロボックル新聞社」を設立しようとします。
この「マメイヌ探し」という謎もすごーく良質なんですよ。物語の射程ってあると思うんですが、スケールが大きすぎず小さすぎず、「絶滅したかもしれない動物を探す」というテーマなのにある点では身近で、読者たちにもちゃんとついていけるスケール感。
マメイヌがどうやら生き残っているらしいということはわりと早い段階で分かるのですが、彼らが一体どこに、どう住まっているのかがかなり後半まで謎として残ります。それを考えあぐねるクリノヒコの脳裏に、突如湧いてくる「花屋のおじいさん」というキーワード。なんてことないきっかけで、するすると靴ひもがほどけるように解けていく謎。このへんのくだり、もう読んでいてめっちゃわくわくしましたよね。
まあそんな感じで、「コロボックル物語」の1巻と2巻は、普通に読んでいても非常に面白い名作である、という話をまずはしたかったんです。3巻以降も普通にすげえ面白いんですけど。
ラブコメとしてのコロボックルシリーズ
さて。重要なのはここからです。というかここからちょっとヨコシマな話になるのをご勘弁いただきたいんですが。
われわれは大人であって、子どものころには気付けなかった要素、子どものころとはまた違った読み方というものを、児童小説に見出だすことも出来ます。「これ、そういう読み方もできるのか!」というのは、大人になって児童小説を読み直す、その一つの重要な楽しさでもあります。
で、その点、われわれは「ラブコメとしてのコロボックルシリーズ」に非常に大きな存在感を見出だすことができるわけです。いや、もちろん、そんなに直接的にラブコメとして描写されてるわけじゃないんですけどね? 大人視点で読んでるとどうしてもね?
そもそもの1作目。『だれも知らない小さな国』でもラブコメ的要素は実はかなり強くありました。コロボックルと出会って、小山に移り住むことにしたせいたかさんが、小山でふと出会った不思議な雰囲気の女性。彼女は、電気技師であるせいたかさんが、電気修理のために訪れた幼稚園の先生でした。
どうもコロボックルの存在に気付いている節があるその「おちび先生」を、やがてせいたかさんはコロボックルたちの味方にできないかと考えはじめるのですが、この時おちび先生とせいたかさんが、お互いどこまで知っているかを探り合いながら、だんだんと関係を進展させていく描写がもう尊い。
「きみは、幼稚園の先生だったのか」「そう。きみは、電気屋さんだったのか」なんて会話なんて、もう読んでてめっちゃニヤニヤしてしまうんですよ。小山で2人でサンドイッチを食べるところなんて、もうラブコメ以外の何物でもない。おちび先生がなぜコロボックルの存在に感づいていたのか、というのも一つの「謎」として、最終盤にその謎解きがあるんですが、それももう二人が気付いていなかった昔からの関係って感じで尊さマックスなわけです。
で、2作目の『豆つぶほどの小さな犬』。ここで、せいたかさんとおちび先生が既に結婚していて、おちび先生は「ママ先生」と呼ばれているということがさらっと書かれている時点で、邪な心を持っていたシリーズファンは既に「うぎゃあぁぁぁ!!」とか「目が、目がぁぁぁぁぁ!!」とか叫びながらのたうちまわることになるのですが、一方この2作目も実は相当にラブコメなんです。対象は、主人公であるクリノヒコとクルミノヒメ。
最初に出会う時点で、ママ先生を担当する連絡係である「ばあや」という言葉を聞いたクリノヒコは、クルミノヒメがてっきりおばあちゃんだと思い込んでしまい、「クルミのおばあちゃん」と呼びかけて、クルミノヒメを怒らせてしまいます。第一印象はお互い最悪。そんな中、マメイヌ探しに興味を持ってあの手この手でクリノヒコたちの懐に入ろうとしつつ、だんだんとクリノヒコとの間合いを縮めていくクルミノヒメの挙動は、今でいうツンデレ的な風味も持たせつつ「ラブコメやん!!!!!!!!!!!!」と読者に、というか私に思わせること大です。ノートを盗み読んでクリノヒコに怒られるために、半分わざと見つかるクルミノヒメの行動とかめっちゃかわいい。尊い。
「最初は険悪な関係から、徐々に関係を縮めていく二人」とか、もうどう見てもラブコメの王道展開ですよね? ネズミに襲われた風の子を心配して、雪の中探しにいこうとするのをハカセに止められるおチビとか、マメイヌに逆につけられて怖くなって風の子にとびつくおチビとか、わりと尊さマックスコーヒーです。
そして、クルミノヒメが書いていた一遍のいたずら書き程度の詩が、物語にピリオドを打つための一つの重要なポイントとなるのです。以下ちょっと引用させていただきたいんですが、
うめがさいたらうめのはなびらにうたをかこう
はなびらひとつにうたをひとつ
かぜがみつけてくばってあるく
シンブンシンブン
はなびらのシンブンでもこれは
かぜにあげるてがみなのに
かぜはよめないものだから
シンブンシンブン
はなびらのシンブン
このなんてことのない落書きが、マメイヌ探しのための最後の決め手になるというのも非常に非常に熱いのですが、何よりここでいう「かぜ」とは誰で「かぜにあげるてがみ」が何なのか、それをかぜはよめない、というのをおチビが書いている意味を考えると非常に尊い。「ラブコメやん!!!!!!!!!!!!!!!!」と叫んでしまうしかないわけです。
物語の最後の締めについてはぜひ皆さんにも読んでみていただきたいんですが、マメイヌ探しにもおチビと風の子の関係にも、見事な収束が待っている素晴らしいラストであることは保証します。
あと関係ないんですけど、フエフキと風の子の関係も実にほほえましくてニヨニヨしてしまいます。「フエフキは、クルミノヒメと口をきかなくてもよろしい」とか、なんだお前は。彼氏か。
唯一このコロボックルシリーズの欠点というのは、まだ電子書籍化されていないんですよね……電子書籍化してくれないかなーと思うんですが。ハードカバー版とは言わず、青い鳥文庫のヤツでも十分読みやすいですので、ご興味ある方はぜひ手にとってみていただければ。
コロボックルシリーズめっちゃ面白いし尊いからみんな読もうね!!! という話でした。よろしくお願いします。
今日書きたいことはこれくらいです。
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