なぜ沖縄県立図書館は同人誌即売会に参加したのか 「薄い本」を自作して無料頒布、費用は印刷製本費のみ:司書みさきの同人誌レビューノート
大学時代にサークル参加経験があるという担当者にお話を聞きました。
2021年1月、沖縄で開催された同人誌即売会「おでかけライブin沖縄スペシャル52」。今までにない参加者がサークルカットに掲載されていたのはご存じでしょうか。その参加者は沖縄県立図書館さん。正真正銘、県立図書館さんが同人誌を作り、同人誌即売会に参加されました。どうして? どうやって? 今回は世界で初めてかもしれない「県立図書館が正面切って同人誌を作って同人誌即売会に参加」を成し遂げた担当さんへのインタビューをお伝えします。
みさき まず、「おでかけライブin沖縄スペシャル52」に参加することになったきっかけを教えてください。
担当さん きっかけはゲームと図書館をつなぐ活動などもされている格闘系司書(@librarian03)さん企画の「【図書館総合展2020】『図書館、書店でのFGO展示を聞く』」に参加したことです。
みさき 「図書館総合展」は毎年秋に行われる、図書館業界の展示会ですね。2020年はオンラインで開催され、動画での講演なども数多く実施されましたね。
担当さん 番組の中で同人誌即売会の話題になり、「図書館が同人誌即売会に参加することはとても面白いのではないか」と考えるようになりました。これについては、発行した冊子にも書きましたが、もともと同人誌即売会に参加経験があったことで、「これは可能なのでは?」という思い付きがしやすかったのかと思います。
みさき ご担当者さんは同人誌、同人誌即売会についてご存じだったのですね。
担当さん 大学生のときに、東方Projectの二次創作を中心に同人誌作成やグッズ製作をしておりました。サークル参加、コスプレ参加、一般参加と全て網羅しております。
みさき では参加を打診した際の周囲の反応はいかがでしたか。
担当さん 職場での反応は、「それ絶対面白い」という人と、「よく分からない」という人に分かれました。ダメという人がいなかったことには今でも感動しています。「同人誌」や「同人誌即売会」を知らない人が多かったので、その説明からすることが多かったです。
逆に、Twitterで参加告知をしたところ、予想以上の反応があったので、驚くと同時にうれしく思いました。意外な組み合わせであることは承知していましたが、好印象なリプライが多かったので、「下手なものは作れないな」と感じ、少しプレッシャーでした。
みさき 「ダメ」という人がいなかった……うれしいですね。とはいえ、実際に進めようと思っても前例のないことですし、どういった準備を行ったのか気になってきます。
担当さん おでかけライブの主催である「スタジオYOU」に参加可否の打診をしたところ(そもそも参加可能なのかが不明であったため)、参加可能であることと、今回は招待という形式で参加することになりました。サークル参加かつ企業のように配置する、という返信でした。
みさき あっ、なるほど。サークルとはいえ、やや特殊な立ち位置だったのですね。
担当さん 会場では本当に壁サークルのように配置されているのを見て、驚きました。新たにかけた費用は印刷製本費のみで、それ以外の頒布品は、もとから図書館に準備されていた消耗品を使用しました。
みさき 頒布されたのはどんな作品だったのでしょう?
担当さん 本は『沖縄県立図書館職員が本気で薄い本を作ってみた〜一般展示編〜』と『沖縄県立図書館職員が本気で薄い本を作ってみた〜郷土資料編〜』の2冊です。
頒布物その1
『沖縄県立図書館職員が本気で薄い本を作ってみた〜一般展示編〜』
内容:前半は、2008年からの記録を基に、沖縄県立図書館での展示の歩みをまとめて概説。後半は、最近よく開催されている、いわゆる「オタク系展示」について、その影響と開催方法などをまとめたもの。約2万7000字の書き下ろし。
『沖縄県立図書館職員が本気で薄い本を作ってみた〜郷土資料編〜』
内容:前半は職員が厳選したおすすめの「沖縄のマンガ・小説」紹介。後半は、過去に開催された「沖縄を知る10冊」展示をまとめたもの。
みさき 本以外もあったのですか?
担当さん はい。ラミネートカード(24種)や「異世界に行ったら役に立つブックリスト」、図書館の各種パンフレット類なども頒布しました。
頒布物その2
ラミネートカード
内容:沖縄県立図書館のWebサイトにある「貴重資料デジタル書庫」の紹介として、職員が見つけた面白い資料の画像を紹介文とともにラミネートカードにしたもの。準備しながら館内で「たくさんあるといいよね」と話したら、あれよあれよと種類が増えることに。
「異世界に行ったら役に立つブックリスト」
内容:上記参加したきっかけで話した動画内で、面白そうだと話題になったものを実際に作成。サバイバルからファンタジー、経営、巫女(みこ)系まで、いろんなパターンの異世界を想定し、「異世界に行く前に読んでおくと役立ちそうな資料」をまとめたブックリストです。
図書館の各種パンフレット類
内容:図書館内で配布しているパンフレット(一括貸出パンフや、今後のイベント案内チラシなども配置しました)。
みさき ラミカ、ペーパーも充実のラインアップですね! たくさん準備をして、いよいよ当日はどんな様子だったのでしょう?
担当さん 上記頒布物は、Twitterで事前告知していたため、「これのために来ました」「Twitterで知ってきました」という方が多くいて、感動で泣きそうになりました。
また、当日は少しでも目立つために大型プリンタでのぼりを印刷したのですが、一般参加の方々が二度見三度見していたのが楽しかったです。全て無料頒布しておりましたが、「図書館にお金を落としに来たのに」という方もいて、図書館を応援してくれる人がいることに、さらに感動しました。
みさき 事前チェックしてスペースに来てくださるの、本当にうれしいですよね!
担当さん ブースに来てくれた方は約100人程でしたが、今回は新型コロナの影響か、サークル参加も含めて来場者がとても少なかったですので、それをあわせると上々だったかと思います。
他のサークル参加者のブースも拝見いたしましたが、商品の見せ方というのか、ブース設営力が高くて驚きました。二次創作からオリジナルまで、同人誌に限らず、グッズ製作サークルが多数参加されているのを見て、沖縄の創作者の意欲を感じた次第です。
みさき 反応も良く、図書館のPRとしても効果を感じられ、地元で創作する方々のリサーチもされて、濃い一日となられたのではないでしょうか。さて、そうなると次の展開が気になります。
担当さん 今回のイベントは新型コロナの影響により、参加者が大幅に減少しているように感じました。Twitterの反応を見ても、次の参加を期待する声があり、担当者としても参加したく思っております。図書館を知らなかった方に図書館を知ってもらう良い場所であると感じておりますので、今後もおでかけライブへの参加を検討したく思っております。
みさき もしかしたら次回もあるかも!? 今後も要チェックですね。最後に、ぜひ沖縄県立図書館さんのPRをどうぞ。
担当さん 特にPRしたいものは2つです。1つ目は、「空とぶ図書館」と呼んでいる、飛行機も使った移動図書館です。離島の多い沖縄県は、41市町村のうち、14の町村が図書館未設置となっています。そのほとんどが離島であり、読書環境の格差を埋めるため、年間約40回の「空とぶ図書館」を実施しています。
2つ目は、「貴重資料デジタル書庫」です。当館の所蔵する古地図や軸物などを含めた貴重資料をデジタル画像化し、誰でも利用できるようにしたサービスです。解説も含めて公開していますので、多くの方に一度のぞいてほしいと思っています。その紹介として、イベントではラミネートカードとして頒布しました。
みさき 創作をする人と図書館が認識を深めることで、もっと便利に図書館を使ってもらえ、役に立つことがあるのではと個人的にも思っていたので、今回、地域に根差した県立図書館さんが地元の創作される場に一歩踏み出されたことは、とてもわくわくする出来事でした。沖縄県立図書館さん、ありがとうございました。
今週の余談
今回は番外編としてインタビューをお届けしました。同人誌そのものだけでなく、作る人、届ける人の声もたくさんお聞きしてみたいです。
みさき紹介文
図書館司書。公共図書館などを経て、現在は専門図書館に勤務。自身でも同人誌を作り、サークル活動歴は「人生の半分を越えたあたりで数えるのをやめました」と語る。
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104ページという力作。
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